« 人名用漢字の新字旧字:「駆」と「驅」と「駈」 - 社会言語学者の雑記帳4 世界最先端の岡崎敬語調査 »

明解PISA大事典:発問 問題解決型の読解問題

2009年 8月 28日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第16回 発問:問題をつくろう(初歩)

 欧米型の読解問題、つまり“PISAの読解力で出されているような問題”には「大枠」となる原理がある。いくつかの原理が存在するのだが、今回は最も基本的な「問題解決方式」を紹介することにしよう。

 何らかの問題に対処する場合、自分が過去に積み上げてきた知識と経験だけで解決することも不可能ではない。だが、第13回で述べたように、急激で予測不能な変化をする社会においては、過去に積み上げた知識や経験は必ずしも通用しない。そこで、新たな知識を取得し、それを過去に積み上げた知識や経験と関連付けながら問題解決を図っていくことが必要になってくる。

 このように、新たな知識(外部情報)と、自分の知識や経験(内部情報)とを統合して問題に対処することを、「創造的問題解決(Creative Problem Solving:CPS)」という。

 PISAの読解力においては、この創造的問題解決の能力が求められている。すなわち、テキストに含まれる情報(外部情報)を取り出し、自分の知識や経験(内部情報)と関連付けながら解釈し、熟考し、評価するということだ。

 PISAの読解力の創造的問題解決としての側面に注目し、それを大枠とした発問の原理のことを問題解決方式というのである。

 問題解決方式においては、テキストを「問題と解決例の提案者」と見なす。テキストが「こんな問題があったので、このように解決しましたが、いかがでしょうか?」と提案しているととらえるのである。

 たとえば、「桃太郎」であれば「鬼という問題があったので、こらしめて宝物を奪取するという解決策をとりましたが、いかがでしょうか?」となる。「スイミー」であれば、「まぐろという問題があったので、みんなで大きな魚の姿をつくって追い出すという解決策をとりましたが、いかがでしょうか?」となる。(これらは問題と解決例の設定の一例に過ぎない。同じ物語であっても、ほかのかたちで問題と解決例を設定することは可能である)

 テキストの提案を受けて、「ほかの方法はなかったのか?」「ほかの方法があるのに、なぜその方法がとられたのか?」「その方法の利点と難点は?」というように、提案された解決例について徹底的に検証する。そのうえで「最善の解決策」を自分の意見として提案していく。第11回でも述べたことだが、「最善の解決策」を求める場合、「あなたが主人公だったら、どうやって問題を解決しますか?」と問うことが多い。

 つまり、テキストに示された解決例を外部情報として、それと自分の知識や経験(内部情報)と関連付けながら、より良い解決策を見出していく。まさに創造的問題解決なのである。このような読解教育は、グループ学習で他人と相談しながら進めると、さらに効果的である。他者の意見や知識や経験も外部情報として利用できるからだ。もちろん、PISAのようなペーパーテストでは、独力で創造的問題解決するしかないのであるが。

 この問題解決方式を大枠として発問を組んでいく。もっとも単純な発問の組みかたは、原理通りに聞くことである。たとえば――

・主人公が遭遇した問題は何ですか?
・主人公はその問題をどうやって解決しましたか?
・その解決方法の良い点と悪い点をあげなさい。
・そのほかに解決方法はありませんか?
・あなたが主人公だったら、どうやって問題を解決しますか?

 これでもかまわないのだが、いかにも工夫がない。では、どのように工夫して聞けばいいのか? これについては、次回以降で説明することにしよう。

* * *

◆この連載を最新記事からお読みになる方は⇒「明解PISA大事典」アーカイブへ

◆記事のタイトルからお探しになる方は⇒「明解PISA大事典」目次へ

【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

* * *

【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。

2009年 8月 28日