2009年 9月 のアーカイブ

『三省堂国語辞典』のすすめ その87

2009年 9月 30日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

水辺のバン。手のひらには乗りません。

バンの写真
【バンの大きさは?】

 公園の池などで見かける鳥の中に、バン(鷭)というのがいます。俳句などにも出てくるので、『三省堂国語辞典 第六版』に採用しました。全身黒みがかった褐色の鳥で、くちばしが赤く、先が黄色をしています。人の笑い声に似た声で鳴きます。

 もっとも、こう説明しただけではうまく伝わらないかもしれません。読者の中には、鵜飼いのウのように大きな鳥か、あるいは反対に、手のひらに乗るような小さな鳥を思い浮かべる人もいるでしょう。大きさに関する説明をしていないからです。

 動物のイメージを伝えるうえで、大きさは大事な要素です。同じ黒い鳥でも、大形(おおがた)か小形かによって、話はだいぶ変わってきます。ところが、大きさの感じ方には主観的な面があって、説明する人によってばらつきが出てしまいます。「何センチメートル」と数値で示せばよさそうですが、必ずしも具体的なイメージに結びつきません。

カラスの写真
【中形の鳥(カラス)】

 そこで、バードウオッチングをする人たちは、「ものさし鳥」という基準を考えました。私たちの身近にいる鳥を基準にして、それより大きいか小さいかを示します。たとえば、「カラスよりやや大きい鳥」と説明すれば、知られていない鳥でもだいたいの感じを伝えることができます。一般的には、スズメ・ムクドリ・ハト(キジバト)・カラス(ハシブトガラス)などが「ものさし鳥」に使われます。

 『三国』では、この「ものさし鳥」の考え方を取り入れました。たとえば、ヒヨドリは、今まで〈すこし大形の小鳥〉と、大きいのだか小さいのだか分からない説明になっていましたが、〈ハトより すこし小形の鳥〉と改めました。ムクドリは〈中形の野鳥〉でしたが、〈スズメより すこし大形の野鳥〉と手を入れました。

コクチョウの写真
【大形の鳥(コクチョウ)】

 ほかの鳥との比較を示さない場合、基本的には、スズメ~ムクドリ大の鳥を「小形」、ハト~カラス大の鳥を「中形」、それ以上を「大形」と、統一的に記述することにしました。ハヤブサは〈小形の猛鳥〉となっていましたが、スズメみたいなのを想像されては困るので、〈中形〉に改めました。カラスとハトの中間ぐらいの大きさです。

 さて、バンですが、これはウやコクチョウのような大きな鳥ではありません。カモよりもまだ小ぶりで、まあ黒いハトといった程度の大きさです。それで、基準に従って、語釈には〈中形の水鳥〉と記しておきました。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

『フランスAOCワイン事典』刊行に寄せて

2009年 9月 29日 火曜日 筆者: 須藤 海芳子

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この事典のタイトルを目にし、「AOC」とは何か疑問に思われた方もいらっしゃることと思います。AOCは、一般にAOC(アペラシオン・ドリジヌ・コントロレ)法と呼ばれるフランスの法律で、食料自給率が120%を超えるといわれ、美食で世界に知られる農業国フランスにおいて、生産者(作る側)だけでなく、消費者(食べる側)の両方を守る大きな役割を担っています。

INAO(原産地・品質管理全国機関)という機関が、それぞれ任意の農産物について、原料や生産地域、生産方法など、法令で厳格に規定された基準を満たした場合にのみ、特定の呼称を名乗ることを認めています。原産地呼称を誤用や盗用から守り、消費者に正しい情報を提供する法律なのです。ワインの銘醸地として有名な「ボルドー」「ブルゴーニュ」「シャンパーニュ」、チーズで有名な「カマンベール」のほか、オリーヴ、オリーヴオイル、肉、野菜、蜂蜜など、その適用範囲は多岐に渡ります。

少し話は変わりますが、以前、シャンパーニュ(シャンパン)をイメージした香水が、ある会社から発売されたことがあります。シャンパーニュの地方委員会は、その呼称の使用停止を求めて訴訟を起こしました。結果、その会社は、名称を変えて販売せざるを得なくなってしまいました(パリ控訴院1993年12月15日判決)。まったく異なるカテゴリーの商品に対しても、「シャンパーニュ」の名称は保護されているということなのです。近年、産地偽装の横行がメディアを賑わす我が国では、とても信じられないような本当の話です。

さて、本書では、400あまりあるAOCワインのほぼすべてを紹介しています。先に記した「ボルドー」「ブルゴーニュ」などは世界的に有名な産地で、日本にも多く輸入されていますが、この本では、有名産地以外の、例えば年間生産量が数千本にしかならないような産地の情報も得ることができます。それぞれ、ブドウ品種、生産量、飲用最適温度、合わせる料理、といった基本データとともに、ワインの特徴、テロワールまで、詳しく案内しています。
また、私たち編者は、フランスのワイン産地に興味深い歴史や文化があることに着目し、概説では、ワインそのものだけではなく、その「背景」についても記すよう心懸けました。ナポレオン、ルイ16世、ピカソなど、歴史上の人物が姿を現します。藤田嗣治や開高健などの日本人も登場しています。印象的なエピソードとともに、ワインがより身近に感じられるような一冊になったと思います。

ワインを片手にフランスを旅する、そんな気分で愉しんでいただければ嬉しいです。


【筆者プロフィール】
須藤海芳子(すどう・みほこ)
1968年生まれ。明治学院大学文学部フランス文学科卒。(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー。シュヴァリエ・デュ・タストフロマージュ(フランスチーズ鑑評騎士)。著書に、『シャンパン&スパークリングワイン』(主婦の友社)など。


【編集部から】
原産地を名乗れる400種あまりのフランスAOCワインのほとんどを網羅した待望の事典『フランスAOCワイン事典』について、編者の一人、須藤海芳子先生にお書きいただきました。なお、10月2日(金)にTSUTAYA六本木ヒルズ店にて、刊行記念ミニ試飲会が開催されます。入場無料、予約不要です。お気軽にお越しください。

『枕草子日記的章段の研究』発刊に寄せて(12)

2009年 9月 29日 火曜日 筆者: 赤間 恵都子

(12) 二条宮の桜

 『枕草子』の日記的章段には印象的な桜が二つ描かれていますが、その一つが前回お話しした清涼殿の桜です。それは関白道隆の企画した趣向であったろうということを述べました。発案者は教養ある正妻高階貴子だった可能性も高いと考えられますが、それは内助の功ということにして、道隆が企画したもう一つの桜についてお話しておこうと思います。

 正暦5年春、関白道隆は父兼家の邸宅だった法興院の中に積善寺を建立し、一切経を奉納する法会を大々的に行いました。中宮定子もそれに参加するために、内裏から里邸の二条宮に退出することになります。新造された二条宮は白く美しくて、寝殿の階段脇には、一丈(約3.3メートル)程の満開の桜の木が植えられていました。清少納言が、「随分早く咲いたものね。まだ梅の季節なのに」と思ってよく見ると、それは季節を先取りして設置された作り物の桜だったのです。

 桜の木のレプリカを丸ごと作り上げるという趣向を考えたのは、定子の父の道隆でした。しかし、そこは作り物の桜、露にあたり、日に当たるごとに色あせしぼんでいきます。夜に雨が降った日の早朝、見るも無惨な状態になった桜を、道隆の御殿の方から従者たちが沢山やって来て、あっという間に引き倒して持ち去って行きました。道隆からの指令は、まだ暗いうちに誰にも見つからないように、ということだったらしいのですが、清少納言に見つけられてしまいます。

 他の人々は起きてから桜の無いことに気付き、定子も道隆の仕業と推測しますが、「春の風がしたことでしょう」としらばくれる清少納言。その後、訪れた道隆とも、消えた桜を巡って応酬が繰り広げられます。

 関白道隆が生前催した最後の大々的な行事が積善寺供養です。それを扱った、枕草子中でも特別に長い章段の最初の場面に描かれるのが、二条宮に据えられた桜の木です。これは関白としての道隆の権威と経済力を風雅な趣向として示したものであり、そんな桜だからこそ、惨めな姿を人前に晒すわけにはいかなかったのでしょう。

 歴史上の記録を追ってみると、この時期の道隆は徐々に自病の糖尿病が進行し、積善寺供養の半年後の正暦5年末には政務を執ることもままならなくなっていました。そのため度々関白辞退を申し出て、天皇に差し戻されています。それから半年後の長徳元年4月に薨去という事態から推し量ると、最後の年の桜はもう十分に見ることができなかったのではないでしょうか。病の床に伏す道隆の脳裡には、自らが企画して娘に贈った清涼殿の桜と二条宮の桜の情景が浮かんでいたかもしれません。

 清少納言の時代に和歌文学の模範とされた『古今集』は、時の移ろいを敏感にとらえる歌風で、散りゆく桜の花を数多く詠みました。しかし、『枕草子』の桜は華やかで美しく、そして決して散り落ちないことになっています。

 二条宮に設置された造花の桜の木も、清涼殿に設置された大瓶の桜の枝も、中関白家の世界が創り上げた桜です。『枕草子』が記し留めたのは、今は盛りと咲き誇る桜の時間のみであり、それは、中宮定子と中関白家が栄華の最中にいた一時と重なるのです。

 歴史上、時間の推移と共に権力の中心からはかなく散った一族。それを連想するような桜の散り際から目をふさぎ、あくまで咲き誇った満開の桜を描くのが『枕草子』という作品なのです。

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【著者プロフィール】

赤間 恵都子(あかま・えつこ)
十文字学園女子大学短期大学部文学科国語国文専攻教授。博士(文学)。
専攻は、『枕草子』を中心とした平安時代の女流文学。研究テーマは、女流作家が輩出した西暦1000年前後の文学作品の主題や歴史的背景をとらえること。
【主要論文】
「枕草子研究の動向と展望―年時考証研究の視座から―」(『十文字学園女子短期大学研究紀要』2003年12月)、「『枕草子』の官職呼称をめぐって」(『枕草子の新研究―作品の世界を考える』新典社 2006年 所収)、「枕草子「二月つごもりごろに」の段年時考」(『百舌鳥国文』2007年3月)など。

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【編集部から】

このたび刊行いたしました『枕草子日記的章段の研究』は、『枕草子』の「日記的章段」に着目して、史実と対照させ丁寧に分析、そこから清少納言の主体的な執筆意志をとらえるとともに、成立時期を新たに提案した『枕草子』研究者必読の一冊です。著者の赤間恵都子先生に執筆にいたる経緯や、背景となった一条天皇の時代などについて連載していただきます。(隔週掲載)

テーマ別とアルファベット順 ―辞書の見出し語の配列(2)―

2009年 9月 28日 月曜日 筆者: 信岡 資生

クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(65)

見出し語のアルファベット順配列の欠点は、相互に関連する語が無関係な語の介在によって分断・隔離され、その連携が失われることである。この不備を補うひとつの方法は、前世紀の半ばまで多くの独和辞典が採用していた複合語(合成語)の処理法、つまり規定語(語規定)を見出しとして立て、その項目のなかに語基だけ改行せずに追い込むやりかたで、紙面の節約にもなる。例えば、『クラウン独和辞典 第4版』の1104ページ右欄に、Regenschirm(雨傘) Regent(君主、統治者) Regentag(雨降りの日) Regentropfen(雨滴、雨粒) Regentschaft(君主の統治) Regenwasser(雨水)の順に見出し語が並ぶが、昭和11年4月発行の山岸光宣編『コンサイス獨和辭典』(三省堂)802ページでは、Regen- の項目のなかに ~schirmも ~tag、~tropfen、~wasserも追い込みで入っていて、~zeit(雨季)の後に、改行してRegentが全書されて見出し語として立項されている。RegenzeitRegentに先置されているから、アルファベット順とはいえないことになる。また山岸『コンサイス』では Gas- (372ページ)のなかに ~vergiftung(瓦斯中毒)が追い込みで入っているが、『クラ独4版』ではGas(516ページ左)(ガス)とGasvergiftung(517ページ左)(ガス中毒)は大きく離れて、その間にはGasse(路地)やGast(客)など Gasとはなんの関係もない語が多数入っている。

東ドイツで刊行された6巻本の『ドイツ語現代語辞典』(R.Klappenbach⁄W.Steinitz: Wörterbuch der deutschen Gegenwartssprache. Berlin 1964-77)がこの規定語のなかに語基だけを追い込む方式を採っていて、やはりRegen–zeitRegentに先置されている。

1981年3月発行の『三省堂 独和新辞典 第3版』では、規定語の見出しのなかに語基を追い込むが、アルファベット順が乱れる際にはそのつど改行して新たに見出し語を全書して立項する。例えば865ページで、Regen の項目のなかに収める複合語は ~anlage(雨状灌水装置)から ~(雨を伴う嵐)までで、それに続く Regenbogen(虹)は改行してあらためて見出し語として全書される。その先でも、Regensburg(地名)のあとの見出し語Regen₌schatten (雨陰)に続く複合語は ~schauer (夕立)から ~strom(篠つく雨)までで、そのあと改行してRegentが全書して立項されている。

今日のコンピューターの進歩・発展は、辞書の見出し語の配列だけでなく、今後の辞書の編集や体裁や普及のみならず、辞書の在り方そのものにまで、予測できないほどの大きくて深い影響を及ぼそうとしているようである。


【筆者プロフィール】
信岡資生(のぶおか・よりお)
成城大学名誉教授
専門は独和・和独辞典史
『クラウン独和辞典 第4版』編修主幹


【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

日本語社会 のぞきキャラくり 第58回 奉行の「アッ」

2009年 9月 27日 日曜日 筆者: 定延 利之

奉行の「アッ」

 子供というのはいろいろなものを怖がるものである。

 夏の昼下がり、大阪は東横堀でのこと。商家の一人娘が丁稚を連れて、寂しい通りを歩いていた。すると向うからやって来たのは、商家に家を借りている藤吉という男。暑さをしのぐため、下はふんどし一丁、上はハッピを頭の上へかざして、日差しよけにして歩いてくる。この姿が背のおそろしく高い人間に見えたか化け物に見えたか、娘は怖がって、丁稚と2人、用水桶の陰に隠れてやり過ごそうとする。

 だが、それを察した藤吉は、ならば家主の娘をおどかしてやれとイタズラ心を出し、隠れている娘の頭の上でハッピをかざして、「アッ」と思い切り高い奇声を発した。

 娘はその場で気絶。ようやく息を吹き返したが記憶喪失に。どうしてくれる、と商家は藤吉を訴える。落語『次の御用日』はこのような展開を経て、ついに裁判の場面に至る。

 白州に控える関係者一同の前に、いかめしい奉行が登場し、丁稚から一部始終を聞くと藤吉を尋問する。モジモジためらったあげく、奉行は精一杯の威厳を取り繕って言う。

  「その方、『アッ』と申したであろう」

奉行の口から放たれた、思いがけない怪鳥のような声。だが藤吉も「『アッ』とは申しておりません」とかん高く奇声をあげてシラを切る。「『アッ』と申したなら正直に『アッ』と申したと申してしまえ」「いえ、『アッ』と申したなら『アッ』と申したと申しますが、『アッ』と申していないものは『アッ』と申していないとしか申し上げられません」と、2人で『アッ』の応酬。

 結末は書かないが、この噺の中で客を最も笑わせるのは、重々しいキャラクタであったはずの奉行が「アッ」と奇声をあげるところと言ってよいだろう。「上品なキャラクタは下品な発言を直接引用できない」ということを前回述べたが、今回見たのは、品とよく似たことが格についても観察できるということである。

 たとえば「アッ」とかん高く叫ぶ子供が特に下品ではないように、「アッ」という叫びは下品ではないが、軽々しく、格が低い。もともと『男』はかん高い声を出さないもので、特に奉行のような格の高い者には、重厚で貫禄ある声がふさわしいことになっている。直接引用とはいえ、奇声「アッ」を発する行為は、奉行のキャラクタの崩壊を招きかねない危険な行為である。初めて「アッ」と叫ぶ際の奉行のモジモジは、そのことを知った上での煩悶の現れだろう。

 では、奉行よりもさらに格が高い『神』はどうか? ここで『神』と呼ぶのは、メロドラマを繰り広げるような人間くさい神々ではなく、たとえば天から声が聞こえるだけで肉体は無いといった、おごそかな神のキャラクタと考えられたい。

 奉行なら、たとえば「その方、訴状には『殺してやる』と叫んだとあるが、それはまことか」のように、直接引用じたいは可能であって、ただ「アッ」や「殺しちゃうよ」のような格の低い発言が直接引用できないだけである。これに対して『神』はどのような発言も直接引用できない。「思い出してみるがよい。汝は『わかった』と答えたであろう」なんて、「わかった」の部分が直接引用だと、やっぱり変ですよね。

 直接引用って、あまり格が高いとできない行為なんですね。チョクセツインヨウなんて言うと偉そうだけど、意外に「物まね」と近いんでしょうかね。

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◇この連載の中国語版と英語版
  中国語版⇒角色大世界――日本
  英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters

【筆者プロフィール】

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

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【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。

地域語の経済と社会 第67回

2009年 9月 26日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第67回「世界唯一の方言チョコレート―リトアニアの方言区画」
The world’s only dialect chocolate — Dialect division of LITHUANIA (LIETUVA)

(画像はクリックで拡大します)
リトアニアのチョコレート(ケース)
【写真1 チョコレートのケース】
リトアニアのチョコレート(中身)
【写真2 チョコレート(中身)】

 方言研究についての小さな国際会議がありました。3年ごとに開かれているので、前に会った人と再会して近況を報告しあうのも楽しみの一つです。2009年の開催地はスロベニアという、かつてのユーゴスラビアの北西の独立国です。初日の休憩時間に、見覚えのある女性がにこやかに近付いて来て、「リトアニアの方言区画のチョコレートです」と言って、板チョコをくれました。LIETUVAと書いてある箱をみると、地図の形のチョコレートは5個の地域に区切られていて、それぞれに名前が付いています。方言区画の地図はいくつかの国で市販されていますが、みやげもののチョコレートでは初めてです。【写真1、2】

 6年前のリトアニアでの国際会議のときに方言区画に関係する発表をし、また主催者たちに小さなみやげものを持って行ったのを、覚えてくれていたのでしょう。G. Kaciuskieneさんでした。

 幸いに日本の方言みやげが、ホテルに置いてありました。直前に札幌に行って、「とうきびチョコレート」を買っておいたのです。「標準語のトウモロコシを北海道ではトウキビと言って、それをみやげものの名前にも使っている」と書いて(口で言っても通じないからですが)、次の日にお返しに渡しました。

 そのあとでチョコレートの箱の裏の説明をよく見たら、「歴史的な地域によって分割したリトアニアの地図」と書いてあります。日本からの他の研究者に言ったら、「現在の学問的な方言区画とは違うのではないか」とケチを付けられてしまいました。女性からチョコレートをもらって舞い上がってはいけないと、さとす意図もあったのでしょう。でもリトアニアの方言の専門家が言うのですから、歴史的な地域は国民の方言区画の意識と一致するのでしょう。

 一般人の方言意識は、昔の政治的領域に支配されるようです。例えば日本でも青森県の人は「南部弁と津軽弁は違う」と言い、実際に江戸時代の旧藩の違いが影響を与えています。愛知県でも古い国の区分を使って「三河と尾張は違う」と言うし、広島県でも「備後弁と(安芸の国の)広島弁は違う」と言います。ドイツの方言の違いも中世の封建国家や、さらに昔のゲルマン民族の支配地域と結び付けて説明されます。リトアニアのチョコレートも、民衆の方言区画の意識を示すものと考えていいでしょう。

 だとすると今のところ世界唯一の方言区画チョコレートという貴重品です。冷蔵庫で永久保存すべきでしょうか?

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

明解PISA大事典:発問 劇にしてみましょう

2009年 9月 25日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第20回 発問:最後の一問 ~本当に完結

 前3回(第17回第18回第19回)にわたって、フィンランドの国語教科書を用いて「問題解決方式の発問」について紹介してきた。前回で問題解決プロセスは完結したため、私としては「このシリーズはこれで終わり」と思っていたのだが、ある小学校の先生から「もう一つ残っているではないか」との指摘があった。たしかに残っている――。そこで今回は本当に完結させるため、最後の一問について説明することにしよう。しつこいようだが念のため素材文を再掲する(1)

●物語「ちょうど35キロ」のあらすじ●

 学校でバザーが開かれている。バザー会場に体重計があり、おじさんが呼びこみをやっている。料金1ユーロで体重を計測し、ちょうど35キロであれば賞品がもらえるとのこと。ユッシ少年の体重は36.5キロ、ラミ少年の体重は33.5キロで、いずれも賞品を獲得できない。そこでユッシは目的を告げぬまま、ラミにレモネードを1.5リットル飲ませる。わけのわからぬままラミはレモネードを飲み、体重計に乗る。ちょうど35キロ! みごと賞品を獲得する。レモネードを飲みすぎて気持ち悪くなったラミが受け取った賞品は、レモネード一箱だった。

最後の一問とは以下の通り。

この話を劇にしてみましょう。ラミの家にレモネードが届いてからのことも考えましょう。

 「劇にしてみましょう」というのは、フィンランドの初等教育の国語(1~5年生)における定番の課題である(2)。単元の終わりに、必ずといっていいほど「劇にしてみましょう」という課題があるのだ。これについては、劇作家の平田オリザさんがしきりに感心していた(3)。平田さんが数えたところによると(律儀な御仁である)、全単元のうち3分の2が「劇にしてみましょう」で終わっているという。日本で演劇教育を推進されている平田さんにしてみれば、こういう国語教科書はさぞかしうらやましいに違いない。

 読解教育の観点からしても「劇にしてみましょう」という課題には大きな意味がある。物語の場面や状況をよく把握し、登場人物のそれぞれについて深く理解していないと、演じることはできないからだ。

 日本で「『劇にしてみましょう』をやりましょう」と言うと、「とても時間が足りません」という答えが返ってくる。配役を決めて~/シナリオを作って~/それを覚えて~/練習を重ねて~/全員が発表に参加して~というのに、膨大な時間がかかるというのだ。

 一方、フィンランドでは、こういう活動にはぜんぜん時間がかからない。4~5人のグループで演じるとしても、15分あれば充分である。それはフィンランドのクラス全体の人数が少ないからではない。30人でも40人でも、15分あれば充分なのである。

 フィンランドの国語教育の発想からすると、物語の流れを大づかみに把握した上で、即興的に演じることを重視するため、シナリオを用意して~/それを覚えて~/練習を重ねて~ということにはならない。だから、この課題を実施する場合には、「4分で配役を決めて練習、1分で実演!」という指示を与えるのが一般的である。これなら、児童が30人いようが40人いようが、15分もあれば全グループが演じられるだろう。

 この課題では「レモネードがラミの家に届いてからのことも考えましょう」となっており、物語の続きを自分たちで創作しなければならない。ただ、創作といっても、それまでの話の流れにそったものでなければならないから、読解教育の「推論」としての要素が強い。それまでの話の流れを手がかりにして、物語の続きを推論するのである。そして、この「推論」と「創作」も含めて、「4分で配役を決めて練習」なのである。

 もちろん「4分で決めて練習、1分で実演!」というやりかたでは、演劇としてはヘタクソなものにならざるをえない。だが、限られた時間内にグループ全員で合意形成し、その決定に基づいて全員で行動するというところに、この課題の最大の目的があるのだ。

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(1) 『フィンランド国語教科書 小学3年生』pp80-81 メルヴィ・バレ他著/北川達夫訳/経済界 2006年
(2) 教科書にもよるが、6年生以上では演劇教育は原則として別単元になる。
(3) 『ニッポンには対話がない』pp44-45 北川達夫・平田オリザ著/三省堂 2008年

* * *

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。

人名用漢字の新字旧字:「灯」と「燈」

2009年 9月 24日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第43回 「灯」と「燈」

新字の「灯」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「燈」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。つまり、「灯」も「燈」も出生届に書いてOK。でも、新字の「灯」が子供の名づけに使えるようになるまでには、長い時間が必要だったのです。

昭和21年4月27日、国語審議会は、 常用漢字表を審議していました。この常用漢字表は、標準漢字表再検討に関する主査委員会が国語審議会に提出したもので、旧字の「燈」を含む1295字を収録していました。この常用漢字表に対し、国語審議会は5月8日の総会で、さらなる検討を要する、と判断しました。それにともない、昭和21年6月4日、常用漢字に関する主査委員会が発足しました。

常用漢字に関する主査委員会は、昭和21年8月27日の委員会で、常用漢字表の簡易字体について議論をおこなっています。文部省教科書局国語課は、この日、「燈」に対する簡易字体として「灯」を提案したのですが、主査委員会はこれを採用せず、旧字の「燈」のままでいくことを決定しました。この結果、昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表1850字には、旧字の「燈」が収録されていて、新字の「灯」はどこにもありませんでした。したがって、昭和23年1月1日の戸籍法改正時点では、出生届に書いてOKなのは旧字の「燈」だけだったのです。

昭和27年7月30日、国語審議会の配下に、漢字部会が発足しました。漢字部会は、当用漢字表に関して議論を重ね、昭和29年3月15日、 当用漢字表審議報告を発表しました。この報告は、当用漢字表から28字を削除し、代わりに別の28字を追加した上で、「燈」の字体を「灯」に変更するという、いわゆる当用漢字補正案でした。ところが国語審議会は、当用漢字表審議報告を発表したものの、内容に関しては、そのままたなざらしにしたのです。

国語審議会が重い腰をあげたのは、四半世紀も過ぎた昭和52年1月21日発表の新漢字表試案においてでした。新漢字表試案は、当用漢字に83字を追加し33字を削除する案で、 1900字を収録していました。この1900字の中に、新字の「灯」が含まれており、直後にカッコ書きで旧字の「燈」が添えられていました。つまり「灯(燈)」となっていたのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が文部大臣に答申した常用漢字表でも、新字の「灯」が収録されており、旧字の「燈」がカッコ書きで添えられていました。やはり「灯(燈)」となっていたわけです。これに対し民事行政審議会は、昭和56年4月22日の総会で、常用漢字表1945字を子供の名づけに認めると同時に、常用漢字表のカッコ書きの旧字355字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字を、子供の名づけに認めることにしました。昭和56年10月1日、常用漢字表は内閣告示され、新字の「灯」が子供の名づけに使えるようになりました。同じ10月1日に戸籍法施行規則も改正され、旧字の「燈」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、新字の「灯」も旧字の「燈」も出生届に書いてOKなのです。


【筆者プロフィール】
安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。
京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)、『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。
http://slashdot.jp/~yasuoka/journal で、断続的に「日記」を更新中。

『三省堂国語辞典』のすすめ その86

2009年 9月 23日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

ふらふら、じゃないよ、フラクタル。

海岸線の絵
【フラクタルな海岸線】(筆者描く)

 政治について語るある論客のブログに、「厳密ではなく、フラクタルな……」「曖昧な、フラクタルな……」といった表現がありました。文脈からすると、「フラクタル」を、ふらふらしたもの、とりとめのないものという意味に捉えているようです。

 「フラクタル」というのは、自然科学などで導入されている概念で、ふつうは別の意味で用いられます。『三省堂国語辞典 第六版』では、次のように説明しています。

 〈どの部分をとっても形が全体と相似(ソウジ)している・性質(図形)。〉

 ほかの国語辞典にも同様の説明があります。もっとも、「部分が全体と相似している」というだけでは、イメージが湧きにくいかもしれません。具体的な例が必要です。

木の絵
【フラクタルな木】(筆者描く)

 フラクタルの例として、いくつかの国語辞典が挙げているのは、「海岸線」や「雲」です。海岸線や雲の輪郭は、遠目に見たときも、近づいて見たときも、ほぼ同じ形をしており、したがって、部分が全体と相似しているというわけです。

 でも、この説明はちょっと難解です。「海岸線も雲も、遠目に見たときと、近づいて見たときとでは、明らかに様子が変わるじゃないか」と思う人もいるでしょう。

 海岸線や雲は、たしかにフラクタルの例なのですが、これらはいわば上級編です。『三国』では、もっと単純な形で説明することを試みました。すなわち――

 〈例、木が枝分かれをし、その枝がまた同じ形に、無限に枝分かれをくり返している形。〉

 これならイメージしやすいでしょう。この木の場合、枝の先端を拡大すると、木全体とまったく同じ形になっており、さらにその先端を拡大すると、またしても木全体と寸分違わない形になっている……と、こういうことが、無限に続いています。

書籍『フラクタルって何だろう』
【この参考書が面白い】

 もちろん、実際にこんな形はなく、あくまで理論上の産物です。ただ、これに近似した形は、自然界に満ちています。本物の木の枝は、木全体と同形ではありませんが、たしかに似ています。同様に、地図の海岸線は、広い範囲を見ても、狭い範囲を見ても、似たようなくねり方をしています。また、雲を遠くから見ても、近くで見ても、輪郭のふわふわの特徴は似ています。海岸線や雲をフラクタルと言うのはこのためです。

 国語辞典は、このように長々と説明するものではありません。少ない字数で分かってもらうためには、『三国』で試みたように、「木の形」などを使うのが適当だと考えます。

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◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」

筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

日本語社会 のぞきキャラくり 第57回 直接引用と発話キャラクタの「品」

2009年 9月 20日 日曜日 筆者: 定延 利之

直接引用と発話キャラクタの「品」

 話し手のキャラクタの一貫性が特に問題になるのは「直接引用」である。

 たとえば、A国を偵察してきたB国のスパイが「A国の奴ら、『B国の豚野郎どもをやっつけよう』と言っているぜ」と直接引用で報告しても、スパイは「おれたちを『豚野郎ども』とは、おまえどういうことだ」などとB国人に責められたりしない。直接引用発言の責任は引用元(A国の人間たち)にあるのであって、引用者(スパイ)は責任を「原則として」負わない。(但し、これはあくまで「原則」である。たとえば落語『百年目』には、大店の旦那が、番頭を呼びに使わした丁稚を叱りつける場面がある。「たとえ番頭がおまえに『いま行くちゅうとけ』と返事したにせよ、それをそのまま、番頭は『いま行くちゅうとけ』と言ったと私に報告する奴があるか。番頭さんは『ただいま参ります』とおっしゃいましたと、なぜ言わん」と、番頭の発言を馬鹿正直に直接引用した丁稚(引用者)を旦那は叱る。こういう旦那の感覚は落語の中だけのものではないだろう。)

 ところが、発話キャラクタの品に関しては同様の「原則」が必ずしも成り立たない。たとえば、上品な令嬢が下品な男に頼み事をしたとする。その出来事を後日、仲間に語る場合、下品な男は、

「げっへへ、そういうわけでよぅ、お嬢様はよぅ、オイラに頼まれたというわけよ」

のように令嬢の発言を間接引用してもいいし、

「げっへへ、そういうわけでよぅ、お嬢様はよぅ、『あなたにお願いしますわ』っておっしゃったわけよ」

のように令嬢の発言を直接引用してもいい。だが令嬢は、男の返答を引用する際、そのような自由は持たない。

「その方、笑って引き受けてくださいましたわ」

のように間接引用はできるが、

「その方、『げっへへ、もちろん、引き受けやすぜ』っておっしゃいましたわ」

のような直接引用はできない。いくら王子さまに「その者は何と申したのです。どうか包み隠さず、そのままお教えください」と請われても、「げっへへ」とやったのでは令嬢の上品キャラはぶちこわしである。令嬢としては、ここはまるで何も聞こえなかったかのように、嫣然と微笑んで黙っているあたりが正解ではなかろうか。

 つまり直接引用が可能かどうかは、発話キャラクタの「品」に関わる問題である。下品なキャラクタは、自分と異なる上品なキャラクタの発言を、上品な人間の物言いとして直接引用できる。だが上品なキャラクタは、自分と異なる下品なキャラクタの発言を、下品な人間の物言いとして直接引用できない。「文をしゃべっていく際、話し手のキャラクタは一貫していなければならない」という前回取り上げた考えは、発話キャラクタが上品な場合にかぎっては、直接引用の引用内部にもよく当てはまるということである。

 では、なぜ、これが上品なキャラクタの場合にかぎられているのか。それは、上品なキャラクタというものが、下品なことばを口にしてはいけない、というより、そもそも下品なものと触れ合ってはいけないものだからである。上品なキャラクタの方々は、「安さ爆発!」のような看板の前に立ってはいけないし、ガキどもが生殖器や排泄物の名を連呼してはしゃいでいるところに居合わせてもいけない。

 しかし、そうも言っていられないところに現実のつらさがあり、また、おかしさがあるんでしょうなあ。うっふっふ。(続く)

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◇この連載の中国語版と英語版
  中国語版⇒角色大世界――日本
  英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters

【筆者プロフィール】

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

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【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。

地域語の経済と社会 第66回

2009年 9月 19日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第66回「世界最小の方言グッズと方言メッセージ」

(画像はクリックで拡大します)
大阪弁おみくじ綿棒
【写真1】大阪弁おみくじ綿棒
東北弁綿棒
【写真2】東北弁綿棒

 方言をグッズやメッセージに出すとき,たいていは方言を大きく示します。そういうなか,今回は,大かたとは異なる発想からの,小さいものに小さく示す,方言グッズと方言メッセージを紹介します。

 一つめは,方言グッズ「方言綿棒」です。株式会社山洋(大阪府富田林市)の製品で,「大阪弁おみくじ」【写真1】と「東北弁」【写真2】です。綿棒1本1本の全部に方言が記載されています。綿棒の長さは7.8cm(軸は5.5cm),軸の直径は2mmです。この小ささから「世界最小」としました。両方とも1筒110本入りです。

 1回使い切りで,第51回第56回で紹介した「方言日用品」の仲間でもあります。

 「大阪弁おみくじ」は,42種類の大阪弁の表現が「おみくじ」の吉凶度に合わせてあります。10種類ここで紹介します。42種類全部は,ぜひ現物でご覧ください。

超吉:あんた今日は最高の日やで!/大大吉:調子のりまっせ!いきりまっせ!/大吉:ごっつうええやん!/中吉:おおきに!おおきに!/小吉:こんぐらいが一番やねん/小吉:たのむでしかし!/吉:ぼちぼちでんな~/凶:あきまへんわ!/大凶:えらいこっちゃ!/大大凶:さぶいぼ(鳥肌)たってきた!

 「東北弁」は,28種類(青森,岩手,山形,福島:各5,秋田,宮城:各4)の方言の文に県名と共通語訳が付いています。各県から1種類ずつ紹介します。( )内は「軸に書いてある『標準語』」です。

青森:な、どさえぐ?ゆさ(あなたどこへ行くの?お風呂にいってくる)/岩手:てづびんで、めーおじゃっこ飲めじゃ(南部鉄でおいしいお茶はいかがですか?)/秋田:泣ぐごはいねぇが~(泣く子はいないか~〔なまはげ〕)/宮城:歯にとうきび詰まっていずいなや(歯にとうもろこしが詰まって違和感があるなぁ)/山形:あんめぐて、んめさくらんぼ(あまくておいしいさくらんぼ)/福島:めんこい赤べご いんねいがい。(ユラユラかわいい赤べこ欲しいでしょう)

おこしやす
【写真3】おこしやす

 もう一つ方言メッセージで,箸帯(日本料理店で箸を束ね結ぶ紙)に出された「おこしやす」【写真3】です。京料理の店,美濃吉(みのきち)のものです。「おこしやす」は,「いらっしゃいませ」(注)の意味です。箸の幅と比べて考えますと,その小ささが分かり,やはり「世界最小」としました。小さくても,お客様に必ず見てもらえますね。

 (注)京都のお店のなかには,迎えのあいさつを,常連客には「おこしやす」,初めての客には「おいでやす」として,区別しているところもあると言われます。

 今回紹介した「東北弁綿棒」は,私のゼミの学生が見つけて教えてくれたものです。

 皆さんも,小さい方言グッズを見つけましたら,どうぞ,私たちに教えてください。

《謝辞》
株式会社山洋におかれては,製品の提供に特別の便宜を計ってくださいました。深く感謝の意を表します。

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駅長さんから
【写真4】駅長さんから

〔補遺〕
 第61回アップ後に記録した「みちのくの夏のメッセージ」を付け足します【写真4】。「しゃっけぇ麦茶っこ どうぞ飲んでがんせ」,意味は「冷たい麦茶,どうぞ飲んでください」です。場所は,岩手県の遠野駅です。待合室に置かれた冷水サーバーに大きく書かれています。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

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