『三省堂国語辞典』のすすめ その84
2009年 9月 9日 水曜日 筆者: 飯間 浩明お取り寄せで、おセレブな気分。

【大人気】
雑誌などで「お取り寄せ」の特集を目にするようになってから、もう10年以上になります。高級食材やお菓子など、通信販売で取り寄せる、おいしい食べ物のことです。通販で買った食器や服などのことは、そうは呼びません。
『三省堂国語辞典 第六版』でも、このことばを収録しました。その際、見出しを「お取り寄せ」とするか、「取り寄せ」とするか、ちょっとした問題になりました。
「『お』をつけるかどうか? そんな細かいことはどっちでもいいのでは?」と言われそうですが、なかなかそう簡単にかたづけられるものではありません。

【「お取り寄せ」の本】
『三国』の見出しで「お」をつけるのは、大部分は、「お」を取ると意味が変わる場合です(ほかの場合もありますが、ここでは触れません)。「お冷や」と言えば水ですが、「冷や」と言えば冷酒になります。こういう場合、前者は「お」をつけて項目を立てます。
「お取り寄せ」の場合、多く目にするのは「お」のある形です。でも、同じ意味で「取り寄せ」と言えるのなら、見出しの「お」は不要です。そこで、実際の例を観察します。
『週刊文春』に「おいしい! 私の取り寄せ便」という長期連載があり、そこには「取り寄せ情報」もついています。「お」のない例です。もっとも、これらの例は要注意で、単に「取り寄せること」の意味かもしれません。「取り寄せ情報」は、「(食材を)取り寄せるための情報」ということであれば、「本の取り寄せ」などと同じ使い方です。
「取り寄せ」が「取り寄せること」の意味にしかならないのであれば、通販の食材の場合は、「お取り寄せ」と「お」をつけた形で辞書に載せたほうがいいことになります。

【「取り寄せ」の本】
では、『おいしいもの 取り寄せ図鑑』(中島久枝、PARCO出版、1996年)という本のタイトルはどうでしょうか。「取り寄せること」の図鑑というのはありえないので、ここは「取り寄せた食べもの」を指していると考えられます。『岸朝子の取り寄せでおもてなし』(小学館、2008年)などのタイトルも、同様に、食べものの例と考えられます。
こうして見てくると、通販で買う食材は、やはり「お取り寄せ」とも「取り寄せ」とも言えそうです。結局、『三国』では「お」をつけずに「取り寄せ」の形で見出しに立てました。ただし、「お取り寄せ」の形が多いことは確かなので、説明文中には〈〔多く「お―」の形で〕〉と示す措置をとっています。
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筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。







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