『英語談話表現辞典』覚え書き

(5) 発話行為にかかわる情報2

筆者:
2009年10月1日

前回は本辞典の発話行為にかかわる情報について、主になんらかの発話行為を受ける表現をとりあげました。今回は当該の表現そのものが発話行為を含意するものを、今までと同じく、G(2007年第4版)、W(2007年第2版)、O(2008年発行)の3つの辞書の記述と比較しながら解説したいと思います。

発話行為そのものを表す表現としては、たとえば、Thank you very much.(謝意)、I beg your pardon.(陳謝)、I promise.(約束)などが典型ですが、これらは動詞の意味にその発話行為が現れています。I promiseを例にとってみます。本辞典の見出しとしては I promise you. となっていますが、下囲いで書きましたように、youを省略することもできます。次のような記述になっています。

1 〈相手に約束して〉約束します, 絶対に: “I’m sure to return that book next week.” “Are you sure?” “I promise you, I’m telling the truth.” 「あの本は必ず来週には返すから」「きっとだね」「約束するわ. 必ず返します」 / I won’t do it again, I promise you. そんなことは二度といたしません. 約束します.

後ろにコンマがあることからわかりますように、独立した用法となっています。G、W、Oではいずれも I (can) promise you. とcanが挿入されていますが、独立用法の頻度は I promise you. と比べて圧倒的に低く、BNCでみますと対応する用法は3例のみでした。

ちなみに、I promise you. は次の例で明らかなように相手に「警告」するときにも使うことができます。

3 〈相手に警告して〉言っておきますが, いいですか: I promise you, the work won’t be easy. いいですか, 言っておきますがその仕事は楽じゃありませんよ / You’ll regret if you marry him, I promise you! 彼なんかと結婚すると後悔するぞ. それでもいいんだね!

この例は、「約束をする」という動詞の意味から間接的に「警告」という発話行為を表すことができることを示しています。ほかに、上の例で言えば、Thank you very much. と同じ感謝の念はThat’s very kind of you. と言うことでも伝えることができます(これを間接発話行為といいます)。こういった間接的にある種の発話行為を暗示する表現を以下でみてみましょう。

Go to hell. はもともと「地獄へ行け」という意味ですが、「拒否」を表すことがあります。Oには「ののしり、悪口」という注記がありますが、G、W、Oのいずれにも特に間接発話行為の用法は載っていませんし、用例も挙げていません。以下は本辞典の説明です。

3 〈命令を拒否して〉いやだ, まっぴらだ: “Stop fighting.” “Go to hell.” 「けんかはやめなさい」「やだね」 / “Now give me the book.” “Go to hell.” 「さあ, その本をよこしなさい」「やなこった」.

次に、日本語の「がんばれ」と比較してよく話題になる、Take it easy. をみてみましょう(「がんばれ」との比較については本辞典Take it easy. の下囲いを参照してください)。本辞典では語義3に「励まし」に関する記述があります。

3 〈励まして〉気にするな, 大丈夫だ, 心配するな: 《失敗続きの友だちに対して》 Take it easy. You’re going to be just fine. Tomorrow is another day. 気にするな. 大丈夫だって. 明日は明日の風が吹くんだから.

GとWには、例文はありませんが、「励まし」に関する情報はあります(Oにはありません)。ただ、GとOには「なだめる」という記述があり、この情報は本辞典、語義1の「〈いらいらしている相手に〉そう興奮しないで, のんびりしたら」のあたりに付け加えておくとよかったと思っています。

最後に、for your information の「忠告」用法をみてみましょう。Wには「相手の誤りなどを指摘して時にいらだちながら」という注記のもと「言わせてもらうが」という語義と例文が続いています(GとOにはこのような説明はありません)。次の本辞典の記述では最初の用例がそれに相当するでしょう。第2例が「忠告」ないし「警告」の発話行為をはっきり表す用例となっています。

3 〈忠告して〉言っておくけど: 《口論になって》 For your information, it was not me who started such a daft discussion. It was you! 言っておくけど, そんなばかげた話を始めたのは私じゃないわよ. あなたなのよ! / 《タケノコを取ろうとしている人に》 This is private property, for your information! ここは私有地ですよ. ご参考までに!

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

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