地域語の経済と社会 第72回
2009年 10月 31日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第72回「韓国の官製方言グッズ――民俗文化の年と方言大会」
今回はお隣韓国の方言グッズ関連情報をお伝えしましょう。韓国語の方言は、【図1】のように、1 西北方言(旧平安道)、2 東北方言(旧咸鏡道)、3 中部方言(京畿道)、4 西南方言(全羅道)、5 東南方言(慶尚道)、6 濟州方言の6つに区画されます。 韓国では1945年の解放以後は国民の円滑な意思疎通のために標準語政策が国家規模で行われました。しかし近年になって、地域方言を守ろうという意識も芽生えました。各地域の方言を保存しようという動きもあり、国家的な事業として地域語調査が行われました。【図2】は、韓国国立国語院で調査謝礼用などに作った大型の方言ハンカチで、韓国の「にら」の方言分布を表しています。全部で4種類作られました。
ところで、濟州島の方言は、本土の言葉とだいぶ違っていますが、最近濟州方言が話せる人が減ってきました。そこで濟州地域の研究者が中心になって濟州方言を守ろうという運動が始まり、韓国民俗博物館と濟州道が協力関係を結んで、2007年を「濟州民俗文化の年」と制定しました。学術大会、民俗公演などの様々な行事が行われ、 一般人や学生が参加する「濟州方言競演大会」も開かれました。
続いて2008年には全羅北道が選ばれ、「全北民俗文化の年」となりました。同じく競演大会が 井邑(ジョンウプ)で開かれて、一般人や中学生が流行の歌謡曲の歌詞を方言に変えて歌ったり、大学生が演劇を方言でやったり、お話を方言で披露しました。
2009年は「慶北民俗文化の年」で、9月12日に古都慶州で「方言競演大会」が開かれました。【図3】がそのときの方言ハンカチです。官製方言グッズとでもいいましょうか。大会のスローガン「와카노, 와 이카노? (ワカノ、ワイカノ/どうして?どうしたの?)」が書かれています。ソウルの標準語なら「왜 그래, 왜 이러는 거야? (ウェグレ、ウェイロヌンゴヤ?)」です。来年度は忠淸南道が選ばれて、「忠南民俗文化の年」になります。どうぞいらしてください。
(以上、韓国の知り合いの研究者金順任(きむ すにむ)さんに伝えていただきました。なお韓国の方言グッズについては、第19回 山下暁美さん「お隣の国、韓国の方言事情」でも扱われています。)
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2009年 10月 31日










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