2009年 10月 のアーカイブ

『三省堂国語辞典』のすすめ その88

2009年 10月 7日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

「せいせいしゅくしゅく」に市民権を。

国会議事堂
【政治家用語は不思議】

 計画を予定どおりに、静かに行うことを、政治家などが「せいせいしゅくしゅく」と言うことがあります。最近も、与謝野財務・金融相(当時)がこう発言していました。

 〈せいせいしゅくしゅくと、静かに努力をしていくと。それが、今自民党に求められている。〉(NHK「ニュース7」2009.7.21 19:00)

 テレビの字幕では「静かに努力をしていく」とだけあって、「せいせいしゅくしゅく」の部分が抜けていました。無理もないことで、じつは、「せいせい」を漢字でどう表記すればいいか、国語辞典や、放送局のハンドブックなどには説明がなかったのです。

報道陣の写真
【大臣談話を取る報道陣】

 「せいせいしゅくしゅく」ということばが大きく取り上げられたのは、1992年10月29日付『朝日新聞』の指摘がおそらく最初だろうと思います。その前日、自民党の有力議員たちの発言にこのことばがあり、各紙の夕刊で「整々粛々」「整斉粛々」「清々粛々」、さらにはひらがなのままなど、さまざまな表記が見られたと報告されています。

 以来、注意して聞いていると、「せいせいしゅくしゅく」はたしかに政治家などが使っています。今回、『三省堂国語辞典 第六版』でも、これを新規項目に採用しました。

 とはいえ、困るのは漢字表記です。メディアごとに表記が違うのは述べたとおりで、また、典拠となるような古い文献も見当たりません。かといって、「ぜいぜい」「しくしく」などと同じかな書きのことばと見なすのも違和感があります。

「良人の自白」(明治文学全集)
【「良人の自白」(明治文学全集)】

 表記に関しては、金武伸弥さん(元新聞社校閲記者)の考察が参考になります。意味的に合わない「清々」、辞書にない「静々」などを除けば、「正々粛々」か「整々粛々」が残る、過去には、木下尚江「良人の自白」(1904~06年)に〈鹵簿(ろぼ)正々粛々として〉とある、と言うのです(『あってる!? 間違ってる!? 漢字の疑問』講談社+α文庫)。

 これはいわば政治家用語なので、国会会議録でどう表記されているか確かめます。すると、大部分は「整々粛々」で、約40例拾われました。議事録作成者も金武さんと同様に考えたのでしょうか。ともあれ、政治家が活動する現場での表記は重視すべきです。

 インターネットでは、むしろ「清々粛々」の表記が多いのですが、ワープロでこの字が出てきやすいせいかもしれず、慎重な扱いが必要です。『三国』では[整整粛粛・正正粛粛]の表記を採用し、現代日本語として確かに実在することばと認めました。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

正書法と見出し語 ―辞書の見出し語の配列(3)―

2009年 10月 5日 月曜日 筆者: 信岡 資生

クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(66)

見出し語は1語とは限らない。1語とみなすことができるような2語以上から成る語句や略語のこともある。例えばFloppy Disk; Fast Food; Fin de Siècle(世紀末); Ultima Ratio(最後の手段); summa cum laude(秀の成績で)など外国語や、固有名詞Le Fort(ドイツの作家名); Mao Tse-tungMao Zedong(毛沢東); New York; Sankt Gallen(スイスの都市)などである。観光都市Rothenburg も公式名でならRothenburg ob der Tauberと4語になるところ。略語の例ではu.a.m.(← und andere[s] mehr ); u.A.w.g. (← um Antwort wird gebeten ) など。Duden. Die deutsche Rechtschreibung. 24版(2006)ではdas heißtso wasを2語見出しにしている。『クラ独』も第2版ではwas für einを見出し語にしてWasen(芝)とWashingtonの間に掲げた。現在の新しい正書法では、従来(1996年以前)1語で書いていた副詞unterderhand(こっそりと)は unter der Hand と3語に分けて書くことになったため、この語は『クラ独』の見出しから消え、Handの項に熟語・成句として記されている。High-Tech は1語の見出しHightechとなったが、High-Societyは2語表記High Societyになった。また従来は「語の頭字を大文字で書く」の意味では1語書きgroßschreibenとし、比喩的な「重要視する」の意味では2語書きgroß schreibenとされていたが、いまではどちらの意味でも1語書きgroßschreibenである。groß schreiben と2語に書けば、「大きい字を書く」の意味でしかない。

一般に複数の表記を認めるケースでは、『クラ独』では紙面の節約との兼ね合いでその扱いに苦心した。一つの例を挙げると、machenと結果を表す形容詞の結合では、2語に分けても、1語につづってもよいが、比喩的な意味では1語につづるとされている。そこで『クラ独』第4版での例えばkaltmachenの記述は、①冷たくする.②人を殺す.ただし①の意味ではkalt machen とも、と注記することになる。上記Dudenの『正書法辞典』24版では複数の表記が認められる場合、いずれか一つの表記を推奨(Empfehlung)しているので、『クラ独』第4版でもそれを参考にした。

表記が変わって見出しの位置も移動する語もある。例:GreuelGräuel(残酷行為); StengelStängel(茎); rauhrau(きめの粗い)などはABC順で前送りされる。表記の異同については、『クラ独』第4版では「正書法インデックス」があるので、「この語が辞書に載っていない!」などと早合点しないで、この表でよく確かめてほしい。


【筆者プロフィール】
信岡資生(のぶおか・よりお)
成城大学名誉教授
専門は独和・和独辞典史
『クラウン独和辞典 第4版』編修主幹


【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

日本語社会 のぞきキャラくり 第59回 私が気になるニュース

2009年 10月 4日 日曜日 筆者: 定延 利之

私が気になるニュース

 泥酔した大阪府警×××の男性巡査長(××)が、21日夜、電車内で下半身を露出し、公然わいせつの疑いで現行犯逮捕されていたことが22日わかった。(中略)市営地下鉄によると、×××線の×××駅に電車(10両編成)が到着し、前から6両目から降りてきた乗客が駅員に「出しとるのがおる」と通報、駅員が下半身を露出したまま眠っていた巡査長を取り押さえ、……

[『日刊スポーツ』2009年8月23日(日)29面]

 私はこういうニュースが気になる。それは今に始まったことではない。次に挙げるのは20年ほど前にメモしたニュースである。

 名古屋市守山区の古美術商宅で昨年十二月白昼、主婦がナイフを持った男に現金約二万三千円を奪われた事件で、愛知県警捜査一課と守山署は一日、当時現場近くに住んでいた×××(××)を強盗の疑いで逮捕した。×××はオーストラリアへ新婚旅行に行く直前で、旅行業者に払う金が不足していたため焦っていた。
 調べでは×××は十二月十九日午後一時五分ごろ、×××、古美術商、×××さん(××)方に侵入、居間でテレビを見ていた妻×××さん(××)に果物ナイフを突きつけ「お金をちょうだい。僕、お金ないと自殺しないかんで」などと妙なせりふで脅迫、現金約二万三千円を奪い逃げた疑い。

[『毎日新聞』(関西版)1989年2月2日(木)朝刊23面]

 こういうニュースのどこがどう気になるのか? と言えば、もちろん犯罪内容の珍妙さにも心惹かれるが、やはり「方言の直接引用」という報道のされ方である。

 これらのニュースは新聞で報道されただけでなく、きっとテレビでも報道されたに違いない。アナウンサーは、一体どんな顔をして「出しとるのがおる」と大阪弁をしゃべり、「お金をちょうだい。僕、お金ないと自殺しないかんで」と名古屋弁をしゃべったのか。

 いや、テレビは「乗客の通報を受け」「自殺をほのめかして金を要求」などと、間接引用に逃げたかもしれない。しかしそれならなぜ、新聞は方言を直接引用したのか。「この手のニュースは直接引用でリアルに報道する方が、珍妙さが効果的に伝わるから」という理由で新聞が方言の直接引用に踏み切ったのなら、テレビ局だって同じ理由で直接引用の台本を用意したかもしれない。そうなればアナウンサーはそれを読むしかない。では、アナウンサーは一体どんな調子で……と、こういう具合に気になるのである。

 

 「すべての人は自分の言語で神に祈る。神はすべての言語を理解する」と言ったのはジョン・コルトレーンだったか、誰だったか。たしかにそのとおりだろう。だが、私たちの『神』は共通語しかしゃべってはいけない。

 天から、おごそかな声が「行くがよい」と響いてくるのはいいが、大阪弁で「行ったらええ」と聞こえてきたら、もうそれは『神』かどうか、かなりあやしそうである。また、「行くがよい」と告げた後、帰国子女のために「ゴー」なんて急いで英語で言い添えるのも全然『神』っぽくない。「格」の高いキャラクタは日本語共通語しかしゃべれない。

 新聞記事の見えない書き手と違って、声や身体を私たちに晒しているアナウンサーには、人物像つまりキャラクタがイメージしやすいのではないか。そして、『神』ほどではないにせよ、いつも落ち着き払って感情を出さず、皆が知らない正しいことしか言わないアナウンサーは、キャラクタの格がけっこう高いのではないだろうか。

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◇この連載の中国語版と英語版
  中国語版⇒角色大世界――日本
  英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters

【筆者プロフィール】

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

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【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。

地域語の経済と社会 第68回

2009年 10月 3日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第68回 「津軽ひろさき検定」と方言

 近年、全国各地で「ご当地検定」が盛んに行われており、人気を博しています。

(画像はクリックで拡大します)
【「津軽ひろさき検定」の受験要項】
【写真1 「津軽ひろさき検定」の
受験要項】

 そのひとつ、青森県の「津軽ひろさき検定」では、“シンボルキャラクター”として、「おべさま」という方言が活用されています。【写真1】
 「おべさま」は地元の方言で、〔もの知り〕という意味で、「さま」という敬称が付くことからもわかるように、尊敬の意味あいがあり、こういうご当地検定の合格者を言うには大変ふさわしい方言といっていいでしょう。

 津軽人の性格や傾向を評した「津軽の三ふり」は、よく引き合いに出されます。
 「えふり〔=いいふりをする。見栄っ張り〕、あるふり〔=お金などがないのに、あるふりをする〕、おべだふり〔=よく知らないのに、知ったふりをする〕」の「おべだふり」には〔知ったかぶり〕という非難のニュアンスがありますが、「おべさま」はそれとは意味あいが異なります(「おべ」は「覚え」、「おべだ」は「覚えた」の転でしょう)。

 「おべさま」は、弘前公園の桜として全国的に有名な、桜の花びらをベースに図案化してあり、もの知りの人のイメージを重ねて、ひげを蓄え、眼鏡をかけています。

【おべ博士のキャラクター】
【写真2 おべ博士のキャラクター】

 ことしは第3回で、前回の第2回からは「中級」ランクもスタート。中級の合格者は「おべ博士」と呼ばれますが、これには角帽がのり、さらに立派なあごひげも加わっています。【写真2】

 検定は、個人参加の他、4人ひと組のチーム戦(おべさまカップ)もあり、会場も、地元弘前の他に、東京会場も設けられています。また、合格回数積算制度もあって3回合格者は「おべさまマスター」に認定されるなど、参加しやすいよう、また何度でもチャレンジする意欲を引き出すよう、工夫や配慮がなされています。

 この試験に備えるための『公式テキスト』も刊行されていますが、ことしからはさらに『津軽ひろさき・おべさま年表』も発行されるとのことです。
 初級(=おべさま検定)の試験終了後、検定問題に関する地域や施設などを巡り、検定の答え合わせをし、弘前を再発見する半日のツアーも用意してあります。

 また、この検定合格者の知識をさらに有効に「観光ボランティアガイド」にも活用しており、そのうち、女性だけのボランティアグループの名前は「アパ・テ・ドラ」という由。
 一見、外国語のようですが、実は「アパ」は津軽の方言で〔奥様〕、「テドラ」は〔お手をどうぞ〕という意味だとのこと。ここでも方言がしっかり活用されています。

 主催者によると、ゆくゆくは、子供たちを対象にした「ジュニア検定」や「上級」ランクの構想もあるとのことです。
 より詳しくは、「弘前観光コンベンション協会」電話0172-35-3131、URL http://www.hirosaki.co.jp などを参照してください。

 

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

発話行為にかかわる情報2

2009年 10月 1日 木曜日 筆者: 内田 聖二

『英語談話表現辞典』覚え書き(5)

前回は本辞典の発話行為にかかわる情報について、主になんらかの発話行為を受ける表現をとりあげました。今回は当該の表現そのものが発話行為を含意するものを、今までと同じく、G(2007年第4版)、W(2007年第2版)、O(2008年発行)の3つの辞書の記述と比較しながら解説したいと思います。

発話行為そのものを表す表現としては、たとえば、Thank you very much.(謝意)、I beg your pardon.(陳謝)、I promise.(約束)などが典型ですが、これらは動詞の意味にその発話行為が現れています。I promiseを例にとってみます。本辞典の見出しとしては I promise you. となっていますが、下囲いで書きましたように、youを省略することもできます。次のような記述になっています。

1 〈相手に約束して〉約束します, 絶対に: “I’m sure to return that book next week.” “Are you sure?” “I promise you, I’m telling the truth.” 「あの本は必ず来週には返すから」「きっとだね」「約束するわ. 必ず返します」 / I won’t do it again, I promise you. そんなことは二度といたしません. 約束します.

後ろにコンマがあることからわかりますように、独立した用法となっています。G、W、Oではいずれも I (can) promise you. とcanが挿入されていますが、独立用法の頻度は I promise you. と比べて圧倒的に低く、BNCでみますと対応する用法は3例のみでした。

ちなみに、I promise you. は次の例で明らかなように相手に「警告」するときにも使うことができます。

3 〈相手に警告して〉言っておきますが, いいですか: I promise you, the work won’t be easy. いいですか, 言っておきますがその仕事は楽じゃありませんよ / You’ll regret if you marry him, I promise you! 彼なんかと結婚すると後悔するぞ. それでもいいんだね!

この例は、「約束をする」という動詞の意味から間接的に「警告」という発話行為を表すことができることを示しています。ほかに、上の例で言えば、Thank you very much. と同じ感謝の念はThat’s very kind of you. と言うことでも伝えることができます(これを間接発話行為といいます)。こういった間接的にある種の発話行為を暗示する表現を以下でみてみましょう。

Go to hell. はもともと「地獄へ行け」という意味ですが、「拒否」を表すことがあります。Oには「ののしり、悪口」という注記がありますが、G、W、Oのいずれにも特に間接発話行為の用法は載っていませんし、用例も挙げていません。以下は本辞典の説明です。

3 〈命令を拒否して〉いやだ, まっぴらだ: “Stop fighting.” “Go to hell.” 「けんかはやめなさい」「やだね」 / “Now give me the book.” “Go to hell.” 「さあ, その本をよこしなさい」「やなこった」.

次に、日本語の「がんばれ」と比較してよく話題になる、Take it easy. をみてみましょう(「がんばれ」との比較については本辞典Take it easy. の下囲いを参照してください)。本辞典では語義3に「励まし」に関する記述があります。

3 〈励まして〉気にするな, 大丈夫だ, 心配するな: 《失敗続きの友だちに対して》 Take it easy. You’re going to be just fine. Tomorrow is another day. 気にするな. 大丈夫だって. 明日は明日の風が吹くんだから.

GとWには、例文はありませんが、「励まし」に関する情報はあります(Oにはありません)。ただ、GとOには「なだめる」という記述があり、この情報は本辞典、語義1の「〈いらいらしている相手に〉そう興奮しないで, のんびりしたら」のあたりに付け加えておくとよかったと思っています。

最後に、for your information の「忠告」用法をみてみましょう。Wには「相手の誤りなどを指摘して時にいらだちながら」という注記のもと「言わせてもらうが」という語義と例文が続いています(GとOにはこのような説明はありません)。次の本辞典の記述では最初の用例がそれに相当するでしょう。第2例が「忠告」ないし「警告」の発話行為をはっきり表す用例となっています。

3 〈忠告して〉言っておくけど: 《口論になって》 For your information, it was not me who started such a daft discussion. It was you! 言っておくけど, そんなばかげた話を始めたのは私じゃないわよ. あなたなのよ! / 《タケノコを取ろうとしている人に》 This is private property, for your information! ここは私有地ですよ. ご参考までに!


【筆者プロフィール】
内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)


【編集部から】
語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
書籍購入者は、http://dce.dual-d.netにて本辞典の全データを収録したウェブ版辞典を無料で使用できます。

漢字の現在:「函」の形

2009年 10月 1日 木曜日 筆者: 笹原 宏之

漢字の現在 第48回 「函」の形

「函」という字の最初の2画が「了」という形

 北海道出身の学生、とくに函館で生まれ育った学生は、「函館」の「函」という字の最初の2画を「了」という形、つまり「「函」の最初の2画が「了」という形」という字体で手書きする傾向があるようだ。何年か前から、北海道の人々の筆跡を見るにつけ、気になることであった。

 この夏の終わりに、北大で20名弱の受講生に、「函館」と「投函」を書いてもらった。この2語で字体が分かれることはなかった。北海道に住み続けている学生・院生、それ以外の学生・院生ともに「了」形も「函」も出現した。改まってふだんと違うように書いた者もいたことであろうが、函館出身の人は「了」形で記した。

 道外の学生も同様に書く者があるのだが、似た構成要素を有する「極」も合わせて書いてもらうと、道外の者には、「極」も「「極」の旁の最初の2画が「了」という形」と「了」形に書く者がかなりいたのである(注)

 その函館を地元とする方に聞いてみると、印刷物で見ることはもちろんだが、小学生の頃から年賀状などで皆が書くようになっていて、自分も書き、その字体に慣れているとのこと、貴重な証言である。地元では、地名に用いられており、使用頻度が高く、手書きする機会も多い。「了」など、他の字からの類推も起こしつつ、筆記経済が働き、慣習的な字体が生じる。あるいは後述するように伝統的な字体が簡易な字体として選択される。それがまた目慣れにつながり、いっそう使用に抵抗感がなくなる、という文字生活上での循環が絶え間なく続いてきたのであろう。

 活字やそれに沿ったフォントでは、現在、「函」という形が一般に流通している。JIS漢字では第1水準にあり、「了」形を包摂するという規準は設けられていない。第2水準には「凾」という「了」形で、かつ中身の画数が増えている異体字が採用されている。これも俗字とされるものであるが、やはりしばしば見掛けるところである。中身が「口又」となっているのは、「極」の影響を受けて、「下水(したみず)」のような部分がもたらす筆捌きの単調さを回避した結果であろう。北大の先生も、ノートに書誌情報を記す際に、これを手書きされていた。

 「了」形で手書きをすると、画数こそ減少しないものの筆を紙から離す回数は1回減る。これは筆記経済につながる。また、見た目にも、「朽」(キュウ・くちる)のたぐいではなく、「了」「子」「丞」(ジョウ)などよりよくある部分字体と近づき、若干すっきりとして感じられるかもしれない。

 この「了」形は、『大漢和辞典』には収められていないが、たとえば『全訳漢辞海』には「函」とともに掲載され、『大字典』や『漢語林』では俗字と注記がなされている。実は、唐代の『干禄字書』、宋本『玉篇』などは、「了」形を正字扱いしてきた(テキストなどはここでは詳記しない)。しかし、明代の『字彙』では、見出し字として「函」の字体が掲げられ、さらに、『正字通』では字源説からそれが勧められるようにもなり、俗字の代表としての「凾」との差別化が進められた。ただし、有名な『康煕字典』ですら、注文の中では「了」形が用いられており、また部首として「さんずい」が付された「涵」という字では、「了」形(中身の点の角度も変わっている)をとるといったように、その字体を徹底することは、難しかったようである。

 歴代の書家などの筆跡を辿ると、楷書でも行書でも、「函」「凾」ともに「了」形がほとんであり、「函」という明確な字体はなかなか見当たらない。

 そもそも篆書体などの古代文字にまで戻れば、『説文解字』の望文生義による字解はそれとして、藤堂明保、白川静両氏の説によると、矢を入れた箱や袋の象形といわれ、落とし穴に人が落ちたところを表す字(陥穽の陥(陷)の旁)にすり替わったとも解されており、成り立ちからみれば、字形の細部にはさほどこだわる必要がなさそうだ。「下水」のような部分の右側の点々は、離して書くのか、接触させるのかと気にする人もあったが、歴代の辞書でも、その形態は、点が4つあるいは何かそれらしいものが記されているだけ、などというように実にさまざまである。

 さて、北海道の地では、「函」という字の形はどのようになっているのだろうか。続きは次回に。

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注 「極」にも同様の傾向があるが、常用漢字であるので、筆記経済以前に教育効果が強く働いている。「極」と「函」には、相互に影響があることも見て取れ、どちらかからの類推が働いたと見られるものもある。なお、北海道新聞の校閲関係の方々も、「了」形をやはり見るとのことだった。

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【筆者プロフィール】

『国字の位相と展開』笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
 早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』(三省堂)『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)などがある。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞

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【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「「肌」で感じること」でした。

この連載への質問、また「ここでこんな字が使われていた」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「漢字の現在」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

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