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日本語社会 のぞきキャラくり 第68回 キャラクタの「年」(1)

2009年 12月 6日 日曜日 筆者: 定延 利之

キャラクタの「年」(1)

 前回(第67回)は、文節を『男』『女』の観点から観察する中で、助動詞「だ」と主な間投助詞「さ」「ね」「な」「よ」を取り上げた。ついでに周辺的な間投助詞も取り上げてみよう。

 「弁護士がの、財産をの、…」などと書くよりも、長く伸ばした「弁護士がのぅ、財産をのぅ、…」と書く方が思い当たってもらえるだろうか、間投助詞には「の(ぅ)」というのも実はある。日本語の研究においても教育においても、間投助詞「の(ぅ)」はてんで相手にされないが、あるにはある。だから周辺的な間投助詞である。以下ではこれをかんたんに「のぅ」と書くことにする。

 間投助詞「のぅ」の話し手は、特に『男』っぽくもなく、『女』っぽくもない。そして「弁護士がだのぅ、…」などとはふつう言わないように、間投助詞「のぅ」は助動詞「だ」とは合わない。ここまでは前回触れた間投助詞「さ」と同じである。だが特筆すべきは、「さ」が判断の助動詞全般と合わないのに対して、間投助詞「のぅ」は助動詞「じゃ」「です」と(特に、周辺的な助動詞「じゃ」とは)合うということである。

 では、助動詞「じゃ」「です」と間投助詞「のぅ」が共起して「じゃのぅ」「ですのぅ」となる時、話し手は『男』か『女』か。つまり「弁護士がじゃのぅ、財産をじゃのぅ、…」「弁護士がですのぅ、財産をですのぅ、…」などとしゃべる話し手は『男』か『女』かといえば、助動詞の入らない「弁護士がのぅ、…」の場合と変わらず、特に『男』っぽくも『女』っぽくもない。『老人』っぽいだけである。

 つまり間投助詞「のぅ」は『老人』のことばである。そして重要なことは、『老人』のことばには『男』『女』の別がないということである。(あの、現実のお年寄りの方々について、男女の違いがないと言っているのではありません。『老人』キャラのしゃべることばには、『男』『女』の違いがないということです。そこのところ、くれぐれも誤解されませんよう。)

 『老人』のことばと同様、『幼児』のことばにも『男』『女』の違いがない。『老人』が助動詞「じゃ」「です」をしゃべるのに対して、『幼児』は周辺的な助動詞「でちゅ」あるいは「でしゅ」をしゃべり、そこに『男』『女』の区別はない。もちろん、現実の幼児が「弁護士がでちゅ、財産をでちゅ、…」などとしゃべるわけではないが、イメージとして『幼児』のしゃべり方はそうなっている。ここに間投助詞「ね」「よ(上昇調)」が付いて「でちゅね」「でちゅよ(上昇調)」、あるいは「でしゅね」「でしゅよ(上昇調)」となっても、やはり『男』『女』の区別はない。ただひたすら『幼児』っぽいだけである。

 「周辺的な間投助詞」に話を戻せば、「ニャ」というのもないわけではない。「弁護士がニャ、財産をニャ、…」「そこを何とかですニャー、かつおぶしをですニャー、…」というやつで、これはマンガの中で『ネコ』がオスメス関係なしにしゃべる。文末なら『イヌ』の「そうだワン」、『ウサギ』の「そうだピョン」など、動物キャラのことばはそうめずらしくもないが、文節末では「弁護士がワン、財産をワン、…」「弁護士がピョン、財産をピョン、…」とはまず言わない。数ある動物キャラのうち、間投助詞をしゃべれるのは『ネコ』ぐらいかもしれない。「ニャ」は間投助詞「な」の変異体だろう。

 さすがに「ニャ」にはこれ以上詳しく立ち入る余裕がない。これは「周辺」のまま放置しておいて、ことばをしゃべるキャラクタの「年」について、もう少し見てみよう。

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【筆者プロフィール】

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

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【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。

2009年 12月 6日