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『三省堂国語辞典』のすすめ その97

2009年 12月 9日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

「ルンルン」の語源は1979年。なのかな?

踊る女子学生
【ルンルン気分】

 『三省堂国語辞典』は現代語の変化を敏感に取り入れる辞書ですが、それにしては、ある新語が「何年に生まれた」といった記述がありません。これは、ことばがいつ生まれたかを特定することがむずかしいからです。厳密に学問的にやろうと思えば、確認できる最古例を掲げて、時期を暗示するしかありません。

 はずんだ気持ちを表す「ルンルン」も、よく使われた(今も使われる)ことばで、『三国』では第四版(1992年)から入りました。でも、発生時期は示していません。この語について、テレビアニメ「花の子ルンルン」(1979~80年)から来たという話をよく聞きますが、そこまではっきり言えるものでしょうか。

新聞記事(見出しでは「ルンルン」の最古例)
【『朝日』夕刊 1982.8.14】

 米川明彦編『日本俗語大辞典』(東京堂出版)を見ると、「ルンルン」は〈1982年から流行する。〉とあります。同書でも語源は「花の子ルンルン」説を採っていますが、ほかに、〈子供の『お手手つないでルンルンルン』から。〉という説も紹介しています。

 「ルンルン」が1982年から流行したのに、もとになったのが1979~80年のアニメだとすれば、時間的な隔たりがあります。それに、1982年以前に使われた「ルンルン」の例は、「花の子ルンルン」に限りません。

 草野心平の有名な詩「河童と蛙」(1938年)では、〈るんるん るるんぶ/るるんぶ るるん〉という、踊る河童の〈唄〉が繰り返されます。中学の教科書にも出てきます。

 河童の唄は特殊だとしても、一般に、歌の中で「ルンルン」というスキャットはよく使われます。かぐや姫の「置手紙」(1974年)では、〈ルンルン ルルル…/今日の淋しさは 風にごまかされて/いつまでも 消えそうもない〉(作詞・作曲:伊勢正三)。

林真理子「ルンルンを買っておうちに帰ろう」(1982)
【ルンルンといえば…】

 さびしい曲で、ちょっと「ルンルン気分」にはつながらないでしょうか。それなら、1978年のアニメ「ペリーヌ物語」はどうでしょう。〈ルンルン ルルル ルンルン…/春のかぜが やさしく/やさしく ほほをなでる〉(作詞:つかさ圭/作曲:渡辺岳夫)と、主題歌ははずむような曲です。「花の子ルンルン」より1年早い放送です。

 おそらく、1980年代、若者の頭の中には、こういったフレーズがいろいろ入っていたのでしょう。それが、「ルンルン気分」などの言い方として現れたものと推測します。そう考えると、年代を添えて語源を示すことには、やはり慎重にならざるをえません。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

2009年 12月 9日