『英語談話表現辞典』覚え書き

(10) 間投詞boyとman

筆者:
2009年12月10日

前回前々回は元来ことばになっていなかった音から文字化された間投詞について述べました。今回はもともと名詞などとして用いられていた語が間投詞に転用されたものをみてみます。

間投詞としての用法はいずれの語も基本的な意味から発展したのは明らかで、歴史的にはmanのほうが古く、OEDによると当初は呼びかけ語と使われていましたが、現在では間投詞として相手が男女にかかわらず驚き、喜び、感情を表すとし、最初の用例は1400年のものがあげられています。一方、boyの間投詞用法はアメリカ英語起源で、OEDの最初の用例は20世紀に入った1917年のものとなっています。いずれもアメリカ英語でよく用いられています。

間投詞boyはよくohを伴って、うれしいことにもいやなことにも用いられます。本辞典では前者の場合、次のような説明になっています。

1 〈喜びを表現して〉うわー, やあー(◆高い声で) : Oh boy, our team’s going to win! How fantastic! うわー, 僕らのチームが勝ちそうだ, すごいぞ!
2 〈興奮して〉すごいぞ; 〈賞賛して〉すごい, よかった 《映画を見た後の感想を述べて》 Boy, was that a great movie? うーん, すごい映画だったね.

うれしいことには口調も明るい、甲高い声で発音されるのが普通です。それに対し、いやことに反応する場合は沈みがちな言い方になるでしょう。以下も本辞典からの引用です。

3 〈不快を表して〉うーん, ひどいなー(◆低いゆっくりした口調で) “What happened here?” “I don’t know.” “Boy, this place is a mess.” 「ここで何があったんだ?」「知らないよ」「ひどいなー, すごく散らかっているじゃないか」 .
4 〈失望を表して〉やれやれ, あーあ(◆低い重い声で):《レストランで待たされて》 Oh, boy! When do we eat? いやになるなあ! いつになったら食べられるの?

いずれも、男性であっても女性であっても用いられます。

上で述べましたように、manは「名詞→呼びかけ語→間投詞」といったプロセスを経ていますが、残念ながら本辞典では立項していません。たとえば、次のような記述が考えられます。

1 〈命令文の前で〉さあ、おい、さて(◆呼びかけ語から発展して) : Man, go back and finish the rest of the work. Let’s go for it. さあ、帰って残りの仕事を片づけよう/ Man, don’t come up behind me like that. おい、そんなふうにうしろから近づくなよ.
2 〈見たり聞いたりしたことに感嘆して〉うあー、わあー、すごい : Man, she’s beautiful.うあー、あの子きれいだね/ Man, this sounds really good. わあー、本当にいい音だね
3 〈びっくりして〉うあー、へえー、えー、わーお:Man, that is the gayest dog I’ve ever seen. うあー、あんな元気な犬みたことない/ Man, you got a college degree. へえー、君は大学出なんだ.
4 〈感情を強調して〉あー、あーあ、ほんとに:“Is this true?” “Man, I tell you, that’s a sad thing.” 「それ、ほんとのこと?」「あー、そうなんだ、悲しいことに」/ Man, I want to see those old friends! あー、旧友に会いたいなあ.
5 〈落胆して〉あーあ、うあー:《決められた時間までに整理しなければならないファイルを前にして》 Man, there’s too many files, I need more time.あーあ、ファイルがこんなにある.時間が足りない.
6 〈疑問文の前で〉で、ところで、さて:Man, where did you come from? で、君はどこの出身なの?/ Man, why are you always rubbing your stomach? ところで、君はどうしていつもお腹をさすってるんだ?

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

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