2010年 1月 のアーカイブ
日本語社会 のぞきキャラくり 第72回 キャラクタの「年」(5)
2010年 1月 10日 日曜日 筆者: 定延 利之キャラクタの「年」(5)
キャラクタの「年」を4類に分け、そのうち『老人』(第69回)と『幼児』(第70回・第71回)を紹介した。残る2つの類は『若者』と『年輩』である。これらは『老人』と『幼児』の間に位置する。
『若者』は、たとえば「気持ち悪いがかわいい」という意味で「キモカワ」、「半端でなく(すごい)」という意味で「パねえ」といった、いわゆる「若者言葉」をしゃべる。現実の若者は、「『キモカワ』『パねえ』って何それもう古いよ。今は――」という若者から「若者言葉など知らない。しゃべらない」という若者までさまざまだが、イメージとしての『若者』はいわゆる若者言葉をしゃべることになっている。
但し、助動詞がどう、間投助詞がどうといった、より文法的な面に目を転じると、『若者』特有のしゃべり方と呼べるものは案外少ない。たとえば「弁護士がよぉ、財産をよぉ、…」という、「戻し付きの末尾上げ」イントネーションで発せられる間投助詞「よぉ」(第67回)は、一見したところでは『若者』のしゃべり方と思えるが、よく考えてみると『若者』のしゃべり方とは言えない。これは『下品』なしゃべり方でしかない。年配でも品が悪ければ言うし、若くても上品なら言わない。
だが、『若者』に特徴的なものがまったく見られないわけではない。その一つは、形容詞否定形を上昇調イントネーションで発することである。たとえば、或る食べ物の味について、からいと思っている話し手が、「これ、からくない?」などと形容詞(「からい」)の否定形(「からくない」)で仲間に同意を求める場合を考えてみよう。この場合、「からくない」全体を上昇調でしゃべる、つまり最も低い声で「か」と言った後、少し高く「ら」、もっと高く「く」、さらに高く「な」、そして最も高く「い」と言うのは『若者』である。
とはいっても、このイントネーションは実はそれほど「若者」的なものではない。たとえば「行かない?」あるいは「行きません?」などと動詞否定形で相手を誘って同意を求める際に、動詞否定形を上昇調イントネーションで発するというしゃべり方が昔からある。『若者』の「からくない?」は、若年層の耳障りなしゃべり方として世の大人たちから叩かれているが、大人たちが動詞否定形で同意を求める時のしゃべり方をそっくり踏襲し、それを形容詞否定形で同意を求める時にも当てはめただけのものである。
『若者』のうち『女』、つまり『娘』に話を限定すると、特徴的な発音がさらに観察できる。小動物や子供を見て「いゅーん、くゎゅぃぃ」(いやーん、かわいいー)などと鼻を鳴らして身もだえするのは『娘』だけである。いったいこれは何だろう。かわいくしゃべろうとして『幼児』をまねるというのならよくわかるが、『幼児』はこんなしゃべり方はしない。『幼児』のかわいさを突き詰めていくと最終的にこうなるのか、あるいは『幼児』とはまったく別のものなのか、とにかくそういう言い方である。
『老人』と『若者』の間には『年輩』がある。『年輩』は「ドロンする」(消える)他のいわゆる「オヤジ言葉」を発するが、文法や発音の面で『年輩』特有のしゃべり方と呼べるものはなかなか見つからない。偉そうな言い方や媚びへつらった言い方とは、結局のところ『目上』や『目下』のしゃべり方、つまり「格」に応じたしゃべり方であり、「年」に応じたしゃべり方ではない。『老人』と『幼児』の間の年代は、「年」よりも「品」「格」「性」が大きな意味を持つと言えるかもしれない。
ここしばらく(第57回~)、発話キャラクタを「品」「格」「性」「年」の観点から述べてきた。わかりやすさを心がけたつもりだが、おそらく読者の中にはさまざまな疑問が生じているだろう。予想される疑問に答える形で、発話キャラクタのあり方について、さらに説明を補いたい。
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◇この連載の中国語版と英語版
中国語版⇒角色大世界――日本
英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters
【筆者プロフィール】
定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm
【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。
地域語の経済と社会 第81回
2010年 1月 9日 土曜日 筆者: 田中 宣廣地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第81回「ケセン語メッセージ」
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
さて,岩手県の太平洋沿岸地帯の南端部は,以前,「気仙(けせん)郡」でした。現在の行政区域では,釜石市唐丹(とうに)町・気仙郡住田町・大船渡市・陸前高田市です。場所を地図で確認してください。

【写真1】よくいらっしゃったねぇ

【写真2】またいらっしゃいよ
今回は「ケセン語メッセージ」を紹介します。
「ケセン語」とは,大船渡市の医師で方言研究家の山浦玄嗣(やまうらはるつぐ)さんによる,この地域の方言の呼び方です。日本語の中の「気仙方言」ではなく,別言語というわけです。この文章も,山浦先生の呼び方に合わせます。
ケセン語メッセージは,三陸鉄道に2例あります。「三陸さぁ よぐきゃんしたねぇ!」(三陸に,よくいらっしゃったねぇ)【写真1】と「三陸さぁ まだきしゃっせんよ!」(三陸に,またいらっしゃいよ)【写真2】です。
「三陸」と言っても広いのですが,ここでは「気仙地域」を指しています。三陸鉄道には,ケセン語の地域を走る「南リアス線」のほか「北リアス線」がありますが,この両メッセージは,北リアス線の地域では聞かれない,ケセン語の表現です。南リアス線の一部の車両に掲示され,両方とも大船渡市の国立公園内の有名な景勝地の写真が使われています。
また,大船渡市の「恋し浜」(こいしはま)駅にもあります。「寄ってがっせんやぁ~ 恋し浜駅」(寄ってらしてくださいな 恋し浜駅)【写真3】です。
「がっせん」は「ございませ」(「ございます」の命令表現)に由来します。同じ由来から,日本語(?)岩手県盛岡方言や遠野方言では「がんせ」【写真4】,岩手県宮古方言では「がん/がーん」となります。
「がんせ」の終止形が「がんす」で,第21回の「がんすけどん」のもとです。
なお,「恋し浜」駅は,以前は「小石浜」駅でしたが,駅名(表記)を昨年2009年7月20日に改めました。新しい表記は,駅誕生のとき(1985年),それを祝って地元住民が詠んだ短歌「三鉄の 愛(藍)の磯辺の 小石(恋し)浜 かもめとまりて 汐風あまし」【写真5】にちなんだものだそうです。
* * *
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
田中宣廣(たなか・のぶひろ)
岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
間投詞Jesus、Christ―『英語談話表現辞典』覚え書き(12)―
2010年 1月 7日 木曜日 筆者: 内田 聖二今回も前回に引き続きキリスト教にかかわる間投詞としてのJesusとChristを考えてみます。
Jesus Christはご存知のようにイエス・キリストを指す神聖な固有名詞で、本来は軽々しく口に出すことがはばかれる語でしたが、フルネームとしてもあるいは名前と姓別々のいずれででもswearwords(ののしり語)としてよく用いられます。
間投詞としてのOEDの初出例は、Jesusは1377年、Christは遅れて1748年となっています。これは名前と姓という違いからJesusのほうが頻度が高いからではないかと思われます。いずれも目の前の出来事、事態に対する否定的な態度や、いらだち・狼狽した気持ちを表すのが典型です。本辞典では立項されていませんが、基本的な用法は次のように記述できるでしょう。なお、用例は三省堂コーパスを改変したものです。
Jesus
1 〈不測の事態が起こって〉なんてことだ、どうしよう、やばい:Oh Jesus, I’ve got a terrible headache. I’ve got the final exam. なんてこった、ひどい頭痛だ。最終試験があるっていうのに/《不審物を調べて》Jesus, these are explosives! やばい、爆発物だ。
2 〈嘆いて〉なんとまあ:Jesus, what a day I’ve had. まあ、なんという(ひどい)一日だったのだろう。
3 〈どうしようもない状況に置かれて〉どうしたことだ、どうしよう、まさか:《転んで》Jesus, I can’t walk! どうしたんだ、歩けない。
4 〈自分がした失敗に対して〉しまった、なんてことだ:《就職した会社が倒産して》 Jesus, if I had known it was this bad, I wouldn’t have taken the job.なんてことだ、こんなに状態が悪いとわかっていたら、入社しなかったのに。
5 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:Jesus, why did you run away? いったいなぜ逃げたんだ?(◆ときに非難めいた言い方になる)
Christも同じような状況で用いられますが、次のような記述にしてみました。
Christ
1 〈非難して〉なんてことだ、まったく、もう:Christ, you’re self-indulgent! There’s nothing but anger and cynicism left inside you. まったく君はわがままなんだから。怒っているかいやみを言っているかしかないんだもの。
2 〈いやな状況におかれて〉とんでもない、なんてこった、うわっ:”Did you break the glass?” “No. Christ, Mum. You gotta believe me.” 「コップ、割った?」「いや、とんでもないよ、お母さん。信じてよ」。
3 〈強調して〉これはこれは、それなのに、当然:Christ, I’m starving.もう、おなかペコペコだ/ ”Did you see Julius Caesar?” “Christ, I will never forget that!”「ジュリアス・シーザー、みた?」「もちろん、忘れられないわ」。
4 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:She’s really a millionaire. Christ, how much does she want?彼女は大金持ちだっていうのに、さらにどれだけお金がほしいのだろう。
Jesus ChristはJesusやChrist単独よりも強い口調となることが多いでしょう。
1 〈驚いて〉うわっ、何てことだ、どうしよう:《思いがけない光景に出くわして》Oh, Jesus Christ, look at that!うわっ、あれは何だ?/《高い所から飛び降りるようけしかけて》Hey, come on! . . . Jesus Christ, I didn’t think he’d really do it. さあ、飛び降りろよ!…何てこった、本当に飛び降りるなんて。
2 〈疑問文の前に置いて〉いったい全体:《貸したお金を請求して》”You’re over ten days past due.” “Jesus Christ, what’re you, a collector for a casino?”「約束の日から10日過ぎているぞ」「いったい君は何てやつなんだ。カジノの取立て屋か」
3 〈懇願して〉お願いだ、どうか:《仕事上の不手際があって》”What are you gonna do about this?” “Jesus Christ, give me one more chance.”「この不始末をどうする気だ」「お願いだ、もう一度チャンスをください」
4 〈現状と対比させて〉ところが、それなのに:It’s a sensitive issue with someone your age. But Jesus Christ! Not one boyfriend in the whole time that I have known you.あなたの年頃では微妙な問題だけど、それでも私と友だちになってからその間ボーイフレンドが一人もいないとはね(◆butを伴うことが多い)。
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【筆者プロフィール】
内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
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【編集部から】
語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本発の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
書籍購入者は、http://dce.dual-d.netにて本辞典の全データを収録したウェブ版辞典を無料で使用できます。
漢字の現在:年賀状の「様」にも点々?
2010年 1月 7日 木曜日 筆者: 笹原 宏之漢字の現在 第55回 年賀状の「様」にも点々?
年賀状がない正月はどこかしら物足りなかった。書くのは年々辛くなってきたが、仕事の話ではない文面やほほえましい写真などには安らぐ心地がする。ある年、正月早々に出かけることがあって、暮れのうちに郵便局から届けてもらった時に、読んで不思議と興が醒めたのは、やはりまさにその瞬間のものだからなのだろう。
年末の前回に記した「
」に共通するものとして、「様」という漢字の末画である右はらいにも、「〃」のような線が貫くことがある。これも、若年女性に顕著であるが、「
」よりも若干年齢層が高いようにも思える。「
」と同様に字面を飾ろうとする着想によるものであろう。この「様」に付される「〃」の部分も、装飾以上に明確な意味を込めたサインとして、「ハートマーク」で代行されることがある。
年賀状でも、宛名の印刷ソフトが普及し、個性の滲み出る手書きは少数派になってきた。我が家も、去年だったか、暮れの仕事の増加に追われてついに手書きを断念し、打ち込んでしまった。そうした機材を用いると、「様」の字体に、旧字体はともかく、伝統をもつ異体字や、個人の覚え間違いや書き間違いによる字体(いわゆる誤字)などは、もうほとんど現れなくなっている。
室町時代には、宛名の敬称に使われる「殿」の字体・書体や、漢字かひらがなかという文字体系の違いによる格付けが発達した。江戸時代に至ると、「樣」は「永ざま」とその字体を称して目上の人に用いる、そして「次さま」(檨 以下、さまはざまと濁ることもある)、「水さま」(様)、「美さま」「平さま」「蹲(つくばい)さま」は、などと崩し字を含めて細々と言いだす。文字列として読む際の発音は、いずれも「さま」であり、全く同じであるが、視覚による待遇表現が儒教的な身分制社会の中で発達した。
そこでは、仮名よりは漢字を、漢字でも崩し字よりは楷書体を、楷書体でも略字体よりは正字体をという、より本来性の高いもの、厳密なものを上位とみる意識のほかに、手間のかかるものをよしとする礼儀作法一般に通じる意識も読み取れよう。文字は丁寧に、大きく、そして他の文字よりも先に、上に書くほど敬意を表しうることなどにも、音声による表現と共通する部分を見出すことも可能であろう。
メールでは、「様」ではキツいといって、「さま」とひらがなに開かれることが多い。若年層の特に女子の間では、かねてより「サマ」、さらには「sama」などとも「かわいらしく」、「女の子っぽく」書かれることがあった。
年末年始の恒例行事となっていた年賀状ではあるが、手書きが年々減少するばかりか、「あけおめ」メールで済ます、そもそも何も出さないという風潮も強まってきた。それでも、量産される「様」の字の種々相からは、漢字の位相を感じ取ることがまだできないだろうか。
「〃」に戻ると、台湾では、「收○先生」(収の旧字体)の「收」の末画に「〃」が貫くような例もあるという。日本の「
」からの影響と思われる。
また、日本では女性が多用する「ハートマーク」それ自体にも、右下の部分を貫いて「゛」が付けられるファンシーなものが丸文字全盛期に流行ったが、やはり「
」と同趣なのではなかろうか。「様」も右下の「く」のような筆画が折れて、さらに左下にはらう書き方も一部で流行っている。そこにもやはり「゛」という形が貫くことがある。さらに、「!」やその籠字(「.」の部分や全体を膨らませた形で、白抜きというべきか)にも類似の例がある。
これらに共通するのは、文末に来ることがほとんどだという点である。「……様へ」と、「へ」と「様」が連続する時には、たいてい「様」のほうではなく「へ」に「〃」が移動して付される。数学の証明問題や、英文の手紙などでは、解答や文章の末尾に、ここで終わりだという意味を込めて、同様に「〃」のような印が記されることがある。「へ」で終わるということに不自然さが感じられることもあるようで、宛名の終わり(句点などの記号は明示的に付けにくかった)や、話を書き始める本文へ移る、スラッシュのような区切りといった機能をもつ記号が、その「へ」に応用された可能性も考えられる。
封じ目に記す「〆」は、×印とも認識されており、そのような形でも記される。最後に「しめる」という点で、「
」との共通性を指摘する学生も多い。誰にも言わないでね、という意味をこめていたか、と述懐する女子の心理とも関わるだろうか。ともあれ、これを見たことがないという学生は一部の男子を除けばまれであり、それについての諸案、諸説を紹介してみよう。(次号で、「〃」の話はいったん完結)
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【筆者プロフィール】
笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』(三省堂)、『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)などがある。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞。
【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「「サンタさんへ」:「へ」に点々?」でした。
この連載への質問、また「ここでこんな字が使われていた」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「漢字の現在」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
国語辞典入門:国語辞典の選び方
2010年 1月 6日 水曜日 筆者: 飯間 浩明第0回 はじめに
私はこれから、「国語辞典はどう選んだらいいのか」、そして、「国語辞典はどう使ったらいいのか」ということについて、できるだけくわしくお話しするつもりです。
こう宣言すると、読者からはいろいろな反応があると思います。じっくり聞いてやろうという人もいるかもしれません。一方、うんちくはいらない、今日にでも辞書を買いに行くんだから、だいたいのところを教えてくれという声も聞こえてきそうです。
それでは――というわけで、まずは、お急ぎの読者のために、私の言いたいことを一言でまとめてしまいましょう。
国語辞典のいちばん理想的な選び方は、1冊ではなく、性格の違ういくつかの辞書をそろえることです。また、いちばん理想的な使い方は、それらの辞書を、つねに引き比べながら使うことです。何も特別なことではありません。
もっとも、こんな説明では、読者は必ずしも納得しないかもしれません。次のような不満がきっと出てくるはずです。
いくつかの辞書をそろえろと言われても、そう何冊も買えるもんじゃない。辞書を引き比べることは大切かもしれないが、理想論だ。自分は、とりあえず、ほかに比べて語数も多く、誤りも少ない辞書が1冊あればいい。その辞書の名前を教えてくれ。それを買いに行こうじゃないか。
まあ、お待ちください。そういう「ランキング第1位」の国語辞典は存在しません。かりに、ここにきわめて優れた辞書があったとして、それを読者に推薦したところで、肝心な時に、よりによってその辞書だけが役に立たないということだってありえます。
「第1位」の国語辞典というものがないからこそ、私は、性格の違ういくつかの辞書をそろえ、それを引き比べるべきだと主張するのです。
基本的なところから考えよう
さて、そうなると、話はやはり長くならざるをえません。性格の違う国語辞典を選ぶといっても、それぞれの辞書の違いなんて、どこを見れば分かるのでしょうか。説明には少々時間がかかりそうです。国語辞典と実用辞典、漢字辞典などの違いも問題になります。ひとつ、基本的なところから考えてみましょう。
また、それぞれに個性のある国語辞典をそろえたとしても、そもそも引き方が分からなければ、それぞれの長所を生かすことはできません。ちょうど、多機能のカメラを、いつも自動ピントや自動露出でしか撮影しないようなものです。カメラの機能ならぬ、国語辞典に備わっている機能の使い方についても触れたいところです。
あるいは、国語辞典をどんなときに使えばいいかという話も必要です。知らないことばや、不正確な漢字を確かめるだけでは、辞書を十分に使っているとはいえません。カメラのたとえで言えば、旅行や年中行事のスナップしか撮らないようなものです。国語辞典にはまだまだ活用法があります。
そのほか、国語辞典はどうやって作るのか、だれが作るのかといった話も、読者は知っておいて損はないはずです。さらには、国語辞典の将来はどうなるのか、などといったことにも言及できればいいと思います。
私は『三省堂国語辞典』の編集委員として辞書作りにたずさわっており、その経験から、辞書について一般に言われていることに疑問を差し挟みたいこともあります。私の話は、国語辞典についての説明というだけでなく、問題提起を含むものになるでしょう。
国語辞典の初心者とともに、日ごろかなり辞書を使う方にも、ぜひおつき合いいただければと思います。
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◆飯間先生のもう一つの連載は⇒「『三省堂国語辞典』のすすめ」目次へ
◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。
謹賀新年 2010
2010年 1月 1日 金曜日 筆者: ogm
2009年も 小社の出版物・サービスに格別のお引き立てを賜り ありがとうございます。
これからも 皆さまからのご意見を大切にし、いっそう充実した出版物とサービスを提供するために 日々精進してまいりたいと思っております。
本年も 変わらぬご愛顧のほど よろしくお願い申し上げます。
平成22年 元旦
【小社冬季休業期間のお知らせ】
1月4日まで冬季休業期間のため、お問い合わせ等への対応は1月5日以降になります。ご了承くださいますようお願い申し上げます。



2009年は、「辞書引き学習」の実践を各地で耳にするようになった年でした。こちらでも、






![『新明解国語辞典 第七版[机上版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の机上版。判型は並判より大きいA5判で、さらに文字が大きく見やすい。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[机上版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kijo.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[小型版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の小型版。並判より一回り小さいA6変型判で、携帯にも便利。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[小型版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kogata.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[革装版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の革装版。丈夫で使うほどに手になじむ。判型は並版・特装版と同じB6判。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[革装版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kawaso.jpg)














































































































































2007年









