地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第85回 大橋敦夫さん:「もてなしの方言(長野・新潟/落穂ひろい)」

筆者:
2010年2月6日

JRグループが各地の観光関係者と協力して進めている「デスティネーションキャンペーン」。2010年の今年一年は、新潟県から長野県へ、バトンが渡ってきました。昨秋から、前ぶれとしてのチラシを見かけるようになり、年が改まってからは、駅構内のPRを見ると、いよいよ力が入ってきた感じがします。

そこで、JR線の各駅をフィールドワークの対象にし、さらに地域の観光案内パンフレット等を集めてみました。

*は、方言名の施設(第13回参照)。
※は、関連のある表現。
1 おいでなして 長野市 長野
2 おでやれ 長野市鬼無里
3 *ちょっ蔵おいらい館 長野市
4 ※歩いてみましょ 松本市
5 来てくんないね 上越市直江津 新潟
6 *キナーレ 十日町市

1「おいでなして 長野」は、ながの観光コンベンションビューローが関係する催しのポスターの壁紙として、使われています。同ビューローでは、PR上、長野市内を善光寺・松代・飯綱・鬼無里・戸隠の5地域に分け、そのブランド化を進めており、2009年は、「鬼無里イヤー」にあわせ、2「おでやれ 鬼無里」をキャッチコピーにしたとのことです。

(画像はクリックで全体を表示)

おいでなして
【おいでなして】
おでやれ
【おでやれ】

なお、長野市内には、江戸時代の商家を展示ギャラリーに利用した3「ちょっ蔵おいらい館」(長野市立博物館付属施設)があります。「ちょっとお出でください」の語呂合わせによる命名です。

ちょっ蔵おいらい館
【ちょっ蔵おいらい館】

また、JR松本駅にある駅スタンプを置いた机には、4「さあ、ずくだして歩いてみましょ」の標語を掲げた地図が無料配布でおかれ、松本平の方言も数語紹介されています。「ましょ」は、敬意を込めた勧誘です。(「ずく」は第5回参照)。

歩いてみましょ
【歩いてみましょ】

5「直江津の祇園祭にも来てくんないね」は、直江津地区連合青年会作成の案内パンフレットに掲げられています。

来てくんないね
【来てくんないね】

6「越後妻有交流館キナーレ」は、温泉付観光施設。十日町の方言で、この場所に来てくださいという意味の「来なされ」と、地域の特産品である着物を着てくださいという意味である「着なされ」とをかけて名づけられたそうです。

取り急ぎ第44回の落穂ひろいをしましたが、まだまだ、見つけられそうな気もします。

今年は、ぜひ信州においでなして!

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。