地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第87回 井上史雄さん:方言切手と方言詩
Dialect postage stamps and dialect poem

筆者:
2010年2月20日

2009年にCD付き方言切手が発行されたというニュースがありました。切手といっても「フレーム切手」で、個人でも作れるものです。切手カタログにも載りません。ただ郵便局のホームページに通し番号がついた全リストがあります。方言切手の一覧表を作りました(末尾参照)

4種類の実物の画像はインターネットのあちこちのサイトで見られますので、リンクをはりました。下線のついた部分をクリックするとそのページに飛びます。

  1. 新潟弁切手第1集  //www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609021801.pdf
  2. 新潟弁切手第2集(秋・冬) //www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609081901.pdf
  3. 津軽弁切手「津軽弁でしゃべる」CD付き//www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_02_04_209102201.pdf
  4. 富山弁切手「富山弁でいかんまいけ!」//www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2010/document/3001_07_04_710011401.pdf

1の新潟弁切手第1集はスタマガネット(株式会社郵趣サービス社 //www.yushu.co.jp/shop/)の通販で注文しました。2の新潟弁切手第2集と、3の津軽弁切手、4の富山弁切手は、通信販売はしないそうで、それぞれ地元の人に頼みました。料金に比べて高いものを買い、送料を払い、しかも退蔵するわけですから、郵便局株式会社にはかなりの貢献をしたことになります。

ところで「津軽弁でしゃべる」切手は、あの小さな切手にどんなふうにCDを付けるんだろうと、心配したのですが、切手ケースにCDが1枚付いているものでした。地元出身のタレント伊奈かっペいさんの方言漫談が入っています。

CDの最後に面白い試みが吹き込んであります。津軽の方言詩は有名ですが、他地方の人には分からないという不利・不平等があります。それを克服するために、津軽弁が分かるかどうかに左右されない方言詩を、作ったそうです。方言による芸術に関心のある人は、ぜひとも聞くべきです。しかし、実はせっかく買って聞いても、無意味です。どこの人にも誰にもまったく意味不明の単語を並べた詩を、唱えているのですから…。

郵便局株式会社 支社企画のフレーム切手 方言編
番号 発行日 名称 発行部数
シート
販売期間
(終了日)
販売地域
299 2009.3.2 新潟弁 2,000部+3,000部
オリジナル
2009.8.31 新潟市内の計115局
535 2009.9.1 新潟弁(秋・冬) 2,500部
オリジナル
2010.3.31 新潟市、五泉市、阿賀野市、新発田市、胎内市、東蒲原郡、北蒲原郡内の計171局
682 2009.11.13 津軽弁でしゃべる 8,000部
オリジナル
2010.2.12 青森県内の全局と仙台中央局
711 2009.12.11 富山弁でいかんまいけ! 1,500部+500部
大型
2010.3.10 富山県内の全212局

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。