地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第90回 大橋敦夫さん:「よう来てくったっせ―手作りポスターでお出迎え(新潟県村上市)―」

筆者:
2010年3月13日

昨秋から今冬にかけて、JR村上駅の待合室や駅前の観光案内所などに、村上の方言を紹介するポスターが掲示されました。

制作は、新潟県村上地域振興局の職員の方々5名による手作り。

単語を一覧にした「村上ことば」は、バックの柄を変えて2種類作られ、お持ち帰り用のA4サイズも設置されました。

村上ことばポスター1
村上ことばポスター2
(画像はクリックで拡大表示)

さらに、「村上ことば その1~5」と題して、会話文を示したポスターも5種類作られました。

①「村上にはうんめもんがふっとつあるすけ、腹くっちょなるまで食べていげっしゃ。」
訳:村上にはおいしいものがたくさんあるので、お腹いっぱい食べていってください。

②「村上によう来てくったっせ。まず、上がってねまれっしゃ。」
訳:村上によく来てくださいました。まず、上がって座ってください。

③「そろそろ帰ります。」「おおきにはや、また村上にけぇ。」
訳:そろそろ帰ります。どうもありがとう。また村上に来てください。

④「村上はいいところですね。」「だーまた、そうらっせ。山もあるし、海もあるし、また遊びにこいっしゃ。」
訳:村上はいいところですね。もちろんそうですよ。山もあるし、海もあるし、また遊びに来てください。

⑤「さあっす、電車に乗り遅れたなあ。」「おらこに泊まればいいすけ、あんじことないっせ。」
訳:さあ大変。電車に乗り遅れてしまった。私のところに泊まればいいから、心配することないですよ。

こちらも、地元の方々との会話を楽しんでもらいたいとの思いが込められた力作です。

ところで、村上の「うんめもん」となると、まず鮭に注目したいところですが、いただく前に、「イヨボヤ会館」に足を運んで、しっかり勉強もしておくと、味わいが深まるのでは。

鮭を「イヨボヤ」と称する村上方言では、鮭に関する方言が「カナ」[雄鮭]・「メナ」[雌鮭]・「アソビザケ」[正月過ぎにくる鮭]など、20語以上もあって、鮭に本当に親しんでいることがわかります。

3月に開催される「人形さま巡り」に向けて、村上地域振興局の職員の方々の間では、あらたにポスター制作や方言のテープ吹き込みも予定されているとの由。

春休みは、村上に「行こかね~」。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。