ドイツのお菓子(9)―ワッフル(4)
2010年 3月 29日 月曜日 筆者: 石井 正人クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(85)
Waffelの話は今回で終えたいと思う。Karlsbad「カールスバート」名物のOblateに特別の思い出があったので、つい長く書いてしまった。
第2次大戦後旧ドイツ領を追われた多くの難民がドイツに戻ってきた。比較的経済的に安定していたせいか、難民はよく南西ドイツのシュヴァーベン地方に住み着いたと聞いている。シュヴァーベン地方に留学していた筆者をよくかわいがってくれた、友人の母親がやはりそうで、実家はdie Sudeten「ズデーテン地方」から逃れてきたのであった。カールスバートこそ、このズデーテン地方の中心地だった。
こんなものを見つけたと言って、ある日息子と、息子の友人である私たち夫婦の前に、いかにも古くさい印刷の薄いボール箱を置いた。まだあったのね、昔のままよ、と言って見せてくれたそれが、カールスバートのOblateだった。当時まだ東西対立の最後の頃で、東側のチェコで作られたものは、何となくあか抜けなかったが、そのOblateは昔のままのデザインを墨守していたせいもあった、尚更ぱっとしなかったのだろう。
箱を開けると、袋に小分けしてあるわけでもなく、いきなり小振りのピザほどはあろうかという大きさのOblateが出てくる。へえ、これがあのゴーフルや、ワッフルの原形ですかと、そこにいる「子供たち」みなお菓子は好きだから、興味津々である。
私たちはみな、たいそうな期待をもってかぶりついたものだ。本当に生地はゴーフルそのものだったが、間に薄くはさまっているのが、白砂糖に砕いたナッツを申し訳程度に混ぜて薄くのばして塗りつけたもので、当然のことに、かじるとバラバラと音を立ててこぼれてくるのである。「信玄餅」ではないが、そうと分かっていたら、初めからもっと気をつけて口に運んだのだ。それ以上に、この「あんこ」では味がぱっとしない。何ともコメントのしようがない。私たちは皆、何とも言えない顔で黙り込み、慌ててこぼれた砂糖の始末などをしながら、後を黙々と食べ続けた。
微笑みながらじっと私たちの様子を眺めていた母親は、ゆっくりと少し満足げにこう言ったものだ。ふふふ、あんまり美味しいものじゃないのよね。
夫の定年後、夫の故郷であるホーヘンローエの奥へ引き込んだとたん、還暦を迎える前に亡くなってしまった。私たちは皆、誰も満足に親孝行ができなかった。
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【筆者プロフィール】
石井 正人(いしい・まさと)
千葉大学教授
専門はドイツ語史
『クラウン独和第4版』編修委員
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【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。







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