地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第93回 日高貢一郎さん:『大分合同新聞』の「方言連載」

2010年4月3日

地方新聞は、地域に取材した記事を豊富に掲載し、読者に地元の情報をきめ細かく提供して地域密着を図っています。

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「連載の予告記事」平成22年1月31日 朝刊
【写真1】「連載の予告記事」
平成22年1月31日 朝刊

この2月1日から、大分県の『大分合同新聞』は、「方言の連載」を始めました。
 毎日1語ずつ、朝刊の紙面トップの第1面に、カラーの枠囲みで「教えて! ぶんぶん 大分方言」として出題し、「どのページかな? こたえを探してね」と呼びかけ、別の面に、これも必ずカラーの扱いで「こたえ(意味・用法)」を載せています。

日によって「こたえ」の載っている面は異なりますから、どこに載っているかを探す過程で、できれば他の記事にも目を留めて読んでほしいという、編集者の願い(ねらい?)も伝わってきます。
 ごく小さい記事ですが、カラーで枠囲みですから、それだけに目を引き、関心を持たれやすい工夫だといっていいでしょう。

「ぶんぶん」というのは、『大分合同新聞』のイメージキャラクターのミツバチです。
 「新聞」の「ぶん」でもあり、大分県の旧国名「豊前・豊後」の「ぶん」でもあり、県内をあちこち飛び回って蜜(話題や情報)を集めてくるはたらき蜂のように、人と人とをつなぐメディアとして、地域の人たちにとってなくてはならない存在でありたいという思いを込めて命名されたものだということです。

問題の出題者は、毎年10月に豊後高田市で開催されている「大分方言まるだし弁論大会」(この連載の第73回で紹介)の昨年の優勝者・糸永隆章さん(私立高校校長)です。

「出題」と「回答」の例(2月18日)
【写真2】「出題」と「回答」の例(2月18日)

読者もこの連載を楽しみにしている人が多いようで、早速「読者の声」欄(2月13日朝刊)において、「「方言コーナー」楽しみ」という題で、由布市の73歳の女性からの「方言は親しみ深く、上品な言葉より懐かしさがあり、方言で話していると笑顔も絶えません。大分方言で私も力づけられ、新聞に載る明日の方言は何かなと、楽しみにしています」という投書が紹介されました。

方言の見直しと再確認に、こういった形での連載は、なかなか効果がありそうです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。