地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第96回 田中宣廣さん:「ワンポイント方言メッセージ」

筆者:
2010年4月24日

これまで紹介のとおり,「方言メッセージ」の多くが,目立つように大きく示されます。

しかし,注意して見ていないと見逃してしまう,『ワンポイント方言メッセージ』とでも呼べるような例もあります。今回これを2例紹介します。

1例目は,第84回でも触れた,静岡県の「富士宮やきそば」です。最近,マスコミでもよく取り上げられます。富士宮の現地で焼きたてを食べるのが基本ですが,カップ麺(東洋水産株式会社https://www.maruchan.co.jp/products/search/3261.html)やスナック(株式会社おやつカンパニー//www.082.oyatsu.co.jp/product/detailwindow.php?genre=omiyage&imageno=04968)が,静岡県内の観光みやげ店などで販売されています。

「う宮・ウミャー」のメッセージが多くの製品に付けられています。例えば,スナックの箱【写真1】です(カップ麺は第84回で紹介)。静岡県地方の方言で「美味しい」の意の「ウミャー」で,そこに「富士宮」の「宮」を掛けているのも面白い工夫です。企画は,富士宮焼きそば学会//www.umya-yakisoba.com/で,URLにも「umya」が入っています。

【写真1】やきそばスナック「う宮」
【写真1】やきそばスナック「う宮」
(クリックで全体を表示)

2例目は,茨城県の「なっとう味スナック」(石岡市の株式会社メーコウ//www.710379.com/)です。茨城の象徴,水戸黄門と助さん格さんの絵に,茨城の方言のメッセージ「うまかっぺ」が付いています【写真2】。「-ぺ」は確認の意で,メッセージの意味は「美味しいでしょ/美味しいよね」です。「うめ味」と「からしマヨネーズ味」があり,各々で3人の表情や衣装またポーズが異なります。

【写真2】なっとう味スナック「うまかっぺ」
【写真2】なっとう味スナック
「うまかっぺ」
(クリックで「うめ味」の範囲を
拡大して表示)

…ただし,水戸徳川藩主は「江戸定府」(意味や読み方は日本史の勉強のためにもご自分で調べてみましょう)のため,水戸黄門自身が(助さんと格さんも各々別の理由で)水戸の方言を使えたかは?ですが…

皆さんも,方言メッセージについて気にしていると,こういう,小さなものも自然と目に入ってくると思います。

* * *

《補遺》

第86回で,道徳啓発の「方言看板・ポスター類」を考え,不正軽油禁止を呼びかけるガソリンスタンドのレシートの裏面の例と,自殺防止のポスターを紹介しました。

その後,自殺防止のポスターと同じデザインで,パンフレット【写真3】とカード【写真4】も作られて配布されています。

【写真3】「おめはん 一人じゃながんすべ」パンフレット
【写真3】「おめはん 一人じゃながんすべ」
パンフレット(クリックで全体を表示)
【写真4「おめはん 一人じゃながんすべ」カード】
【写真4】「おめはん 一人じゃながんすべ」カード

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。