地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第97回 井上史雄さん:ハワイで見た日本語方言
Japanese dialects observed in Hawaii

筆者:
2010年5月1日

またハワイに行きました。ハワイの日本語は、日本国内のことばと様々な点で違っています。目に見える日本語の方言としてアンダギを写真に撮りました。サーターアンダギーと書くこともあります。沖縄方言で「砂糖油揚げ」を発音するとこうなるのです。ハワイで出版された沖縄語辞典 Okinwan-English Dictionary には、saataa’ andaagii と書いてあります。ドーナツと同じ材料をゴルフボールのような丸い玉の形に揚げたものです【図1】。

【図1】アンダギ
【図1】(クリックで拡大します)

他にも、共通語と同じ名の「ダンゴ、マンジュー、モチ」などが売られていますが、中身は東京人が考えるものと違います【図2】。

【図2】ダンゴ、マンジュー、モチ
【図2】(クリックで拡大します)

これらの材料の一つがモチコです。かつてハワイの日本語の語彙集を作ったときには現地の人の解説をもとに「もち米の粉」と書いておきました。

(注)ハワイ方言語彙集 Glossary of Hawaiian Japanese は、インターネットの以下のサイトから印刷できます。//dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/

そのころ、モチコは大辞典にも方言辞典にも出てきませんでした。しかし今はインターネットで検索できます。下のホームページによると、「もち粉」は「白玉粉」と材料が同じで、製造の手間の少ないものをいうようです。モチコは広島の方言かと思ったのですが、日本国内では専門語、ハワイでは日常語なのです。ラーフル(黒板消しの専門語、鹿児島などの日常語)と似ています。
 //siratamako.com/Q_siratama/index.html

ハワイのモチコについては次のページにも詳しく書いてありました。ほかにも大勢がハワイのモチコチキンなどについて書いています。こんなに情報が得られるとは、便利な世の中になったものです。
 //www.pacificresorts.com/webkawaraban/shokutaku/051201/

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。