地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第98回 日高貢一郎さん:若い女性が方言で愛を告白『方言CD』

2010年5月8日

若い女性が自分の思いを方言で告げる、ちょっとユニークなCDが発売されています。

(画像はクリックで拡大します)

『方言CD』の表の面
【写真1】『方言CD』の表の面
裏の面
【写真2】裏の面

日本全国の北から南まで、北海道、福島、群馬、東京、京都、大阪、岡山、徳島、長崎、沖縄の、10の都道府県の方言で、①「好きです。付き合ってください」などと愛の告白をする「甘口バージョン」と、②「もうキライ、大キライ!」などとまったく逆のお叱り「辛口バージョン」の2種類が、2枚のCDに収められています。

制作したのは、Ciffon というレーベルで「妄想ボイスCD」や「お名前CD」などのシリーズを発売している、イベント企画・映像制作・音楽制作などを手がける東京の会社「NRプロ」。

甘口版・辛口版ともに、せりふには共通の基本形(各30の例文)があり、それを各県の方言にしたもの=都合600の表現が、感情をこめて語られています。

声の主は、いずれも各地域出身の若い女性の声優だとのこと。

例文は、例えば「今日はいろんな所に行こうね。○○○と○○○がおすすめ。あなたと一緒に行きたかったの」という文の○○○の個所には、地元の人たちにはおなじみの、各都道府県の代表的なデートスポットが入れられています。「えっ、○○県のお土産を買ってきて欲しい? じゃあ○○○○を買ってきてあげるね」(以上「甘口」)、「○○○○に連れて来てあげたのに感動しないなんて、変なの。信じられない。ちょっと頭おかしいんじゃないの!」「あ~お腹いっぱい。はぁ? 残したの! 私が作った○○○○を残すなんて、絶対許さない!」(以上、辛口)なども、同様に、○○には各地の代表的な場所やおみやげ、食べ物などが入っています。

ただし、方言は同じ県内でも地域によって違いがあるので、ジャケットには「方言は現在進行形で変化している上、同じ方言圏内でも市町村単位で微妙に異なるため、分類は便宜的なものと捉えてください。このCDでの方言は、あくまでもキャラクター表現の一部としてお聴きください」と、わざわざ断わり書きがしてある念の入れようです。

また、帯には「「故郷の方言が聞きてえ!」「可愛い方言で告白されたい! 叱られてみたい!」など、方言に興味がある方、特別な想いを抱いている方に最適。家族や友人に全国の方言を披露して自慢することもできます。まさに一枚で二度おいしい。」とあります。

「方言」は、気取らず飾らずの、地域社会の毎日の暮らしのことば、本音のことばだと言われます。

まして女性のほうから「好きです!」などと打ち明けられたことのない大多数の男性にとって、これは“一見の……”、否、“一聴の価値がある”はず!

はやる気持ちを押さえつつ、全編を聴いた率直な感想は……。
 全体にいわゆるアニメ声と言われるもので、そういった発声に慣れた人にはおなじみでしょうが、そうでないオジサンには、実際に若い女性から告白されたり叱られたりするというリアリティーよりは、やはり作品世界での告白を聞いている、という印象のほうがより多く残りました。

期待がちょっと大きすぎたのでしょうか……。「現実は甘くない!」「過ぎたるは及ばざるがごとし……?」

(なお、感想はあくまでも個人的なものであり、作品の効能を云々するものではありません。また甘口バージョンよりも辛口バージョンのほうが身につまされる度合いが大きかったことを告白します)

《参考》「NRプロ」の公式サイトは、//www.nrpro.co.jp/。また、このCD発売の発表イベント(秋葉原で22年1月22日)の模様は、共同通信の「47(よんなな)NEWS」//www.47news.jp/video/akiba/post_665.php で見ることができます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。