『英語談話表現辞典』覚え書き

(22) つなぎ語:話題の転換

筆者:
2010年6月10日

前回前々回は新しい話題を導入するときに用いられる典型的な表現を取り上げました。今回は話しているなかで話題を換えるときに用いられるものを考えてみます。

間投詞wellはいろいろな会話の変わり目に用いられますが、軽く添えるだけで唐突さを避けることができる便利な語です。本辞典では語義5が該当します。

5 〈話題を転換して〉さて, ところで(◆上昇調で): 《娘と母親の会話》 “Is there anything to help you?” “Thank you, but I can manage at the moment. Well, have you finished the homework?” 「何かお手伝いすることある?」「ありがとう. でも, 何とか大丈夫よ. ところで, あなた宿題は終わったの?」.

by the wayの使い方も多岐にわたりますが、典型的なもののひとつに、話をしている途中で話題を換える用法があります。次は本辞典からの引用です。

1 〈会話の途中で新たな話題を導入して〉それはそうと, ところで:街角で偶然出会った友人に自分の近況を話した後で》 By the way, Tom, what are you doing here? ところで, トム, あなたはここで何してるの? // “Are you ready for breakfast?” “No, Mom. I have to make my bed first.” “OK, but hurry up. By the way, what do you want for lunch today?” 「もう朝ごはんにしてもいい?」「まだだよ, お母さん. 先にベッドを整えないと」「わかったわ, でも早くしなさい. それはそうと, 今日のお弁当は何がいい?」.

日本語では「ところで」をあてることが多いのですが、by the wayとは合わないところがあります。つまり、「ところで」はあいさつなどの後で直接本題に入るときにも使いますが、by the wayにはそのような用いられかたはなく、それまでに話していたことから話題を転換させるときに使うのが原則です。

anywayにも会話の節目に用いられる用法があります。

1 〈新たな行動や話題に移って〉とにかく, それはそうとして:《行くか行かないか思案しているときではなく》 Anyway, let’s go. とにかく行きましょう / 《これまでの話題を変えて》 Anyway, I met my old friend the other day. それはそうと, 先日昔の友人に会ったんです.

ここでは第2例がこの用法に相当しますが、しばしば前の話題を終えてしまいたいという含みが生じることがあります。

now thenにも同じ用法があります。

1 〈話題を変えて〉ところで, それで(◆nowだけでも可):Now then, what did you want to tell me? ところで, あなたは私に何を言いたかったの// Now then, where did you say the pain in your leg was? ところで, 脚のどこが痛いと言ってたの.

このように、本辞典では疑問文が続く例をあげていますが、次は形は疑問文ですが、「要請」の発話行為と解釈できる例です。三省堂コーパスを修正したものです。

‘Attention!’ ‘Excellent, at ease. Now then, where would you like me to sit?’「気をつけ!」「よろしい、直れ。で、私はどこに座ったらよいのかな」

さらに、あいさつなどのあとで本題に入るときのnow thenも付け加えておきます。

‘How are you feeling?’ ‘Fine.’ ‘Good. Now then, I want you to come into this room with me.’「ご機嫌はいかがですか」「いいですよ」「それはそれは。それでは一緒に部屋にお入りいただきたいのですが」/‘The Transport Minister Gavin Strang is in our Edinburgh Studio. Good afternoon.’ ‘Good afternoon.’ ‘Now then, you’ve accepted that this is a massive problem, . . . .’「運輸大臣のギャビン・ストラング氏がエジンバラのスタジオにいらっしゃいます。こんにちは」「こんにちは」「ところで、大臣はこのことは大きな問題だと認めておられますが、…」

ここでのnow thenは上で言及した、あいさつなどから本題に入る日本語の「ところで」の用法と似ているところがあります。

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

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