地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第103回 日高貢一郎さん:『方言検定本』~鹿児島と出雲~

2010年6月12日

近年、地元のことを、楽しみながら、より深く確かに知ってほしいと、「ご当地検定」が各地で実施されていることは、以前、この連載の第68回でも紹介しました。

そのうち、「方言」に絞った検定用の本(問題集と教科書)が、私の知る限りでは、鹿児島県と出雲(島根県)で出ています。

第1回「鹿児島弁検定」は平成21年8月16日に開催され、小学生から90代までの幅広い世代の650人が受検し、特に若い女性が多かったとのこと。(それに先立ち、3月には270人が受検して模擬検定も行われました)

『鹿児島弁検定問題集』は、それを踏まえて発行されたもので、鹿児島弁検定実行委員会の編集・発行で、ことし平成22年1月に出版されています。

検定は初級・中級・上級に分かれており、初級は「鹿児島弁の楽しさを感じてもらう」、中級は「鹿児島弁のすばらしさを感じてもらう」、上級は「鹿児島弁の奥深さを感じてもらう」ことをねらいとし、それぞれ70点以上が合格で、合格率は、初級の「学士」が92%、中級の「修士」が73%でしたが、上級の「博士」は難関で11%しか合格しなかった由。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1】『鹿児島弁検定問題集』と『出雲弁検定教科書』
【写真1】『鹿児島弁検定問題集』と
『出雲弁検定教科書』
【写真2】第2回鹿児島弁検定の案内チラシ
【写真2】第2回鹿児島弁検定の案内チラシ

初級の問題は、寸劇を見て鹿児島弁の意味を共通語になおす(20問)、いかにも鹿児島弁らしい語を記す(20問)、鹿児島弁の語の意味を選択する(60問)、共通語の会話文を鹿児島弁になおす(5問)、鹿児島弁の俗謡「茶碗蒸しの唄」を共通語訳する、など。

中級は、ビデオを見て鹿児島弁の会話を共通語に訳す(21問)、いかにも鹿児島弁らしい語を記す(20問)、鹿児島弁の語の正しい意味を選択する(50問)、適切な擬声語・擬態語を書く(11問)、「シンデレラ物語」を鹿児島弁で書く(10問)、など。

上級は、ビデオを見て鹿児島弁の会話を共通語訳する(30問)、鹿児島弁の語の正しい意味を選択する(20問)、鹿児島弁の語源を書く(15問)、鹿児島弁のことわざの意味を書く(10問)、鹿児島弁に関する本や人物などに関する説明の中から正しいものを選ぶ(10問)、など。

以上のように、各級のねらいや難易度に合わせて、多彩な問題が出題されています。

同書から、そのうちのいくつかの問題を紹介しましょう。【 ⇒ 解答は後述

初級:次の鹿児島弁の意味を書きなさい。
とぜんね(    )、はんとくっ(    )、あばてんね(    )
中級:鹿児島弁らしい擬声語・擬態語を書きなさい。
「のろのろ歩く」、「頭がくらくらする」、「この魚はぴちぴちしている」
上級:次の鹿児島弁の語源を書きなさい。
「がんたれ、ぐらしい、きらす、ひやなっ、…」

ことしの第2回検定は、今月6月の下旬に行われます。詳しいことは、鹿児島弁検定協会のホームページ //kagoshimaben-kentei.com などを参照してください。

もう1冊、島根県では『出雲弁検定教科書』(有元光彦・友定賢治 編集、宍道・出雲弁保存会 協力)という本が、CD付きで、平成20年10月に発行されています。

が、これは方言研究者による出雲弁の解説書とでも言うべきものです。その理解度と学習の成果を確認する意味で、第3章に「出雲弁検定試験」の問題が載せられています。

ですから、こちらは一般の人々を対象にして、実際に「出雲弁検定試験」が行われているというわけではありません。

なお、インターネット上には、「北海道方言検定、北海道弁検定、あきた(弁)検(定)、山形弁検定その1・その2・その3、方言けんてー栃木編、方言検定栃木県の方言、千葉県方(言)[房州弁]けんてー、房州弁検定だっぺ、新潟弁検定、名古屋弁検定、名古屋(方言)検定、方言で奇面組検定[名古屋弁?]、三河弁検定、関西弁検定!・同02!、難解?私の地元の言葉[山陽山陰]検定、岡山弁検定・同2、広島弁検定、山口県の方言(検定)、伊予弁検定、土佐弁検定、博多弁検定、(福岡県)八女弁検定、佐賀(弁)検定、鹿児島(弁)検定、難解方言~鹿児島弁~検定、おきなわ(弁)検定、沖縄語けんてい、沖縄の方言(検定)、宮古島検定方言編」の、都合33件があります。問題数は3問から10問までの間です。
   注:平成22年6月7日現在。( )や[ ]はわかりやすくするために補足しました。

全国的に見ると、北海道(2)、東北(4)、関東(4)、中部(5)、関西(2)、中国(5)、四国(2)、九州(5)、沖縄(4)という数で、関西と四国がやや少ないと言えるでしょうか?
今後、あちこちでさらに増えそうです。

《参考》『出雲弁検定教科書』については、//oneline.main.jp/oneline.htm を参照。インターネット上にある各種の検定を知るには、「けんてーごっこ」//kentei.cc/ で、また全国各地で実施されている多様な「ご当地検定」は、「ご当地検定の森」//www.1gotouchi.com/ などで検索することができます。

【「鹿児島弁検定」の解答】
初級:とぜんね(寂しい)、はんとくっ(転倒する)、あばてんね(たくさん)
中級:「(ノロンクヮラン)あるっ!」「びんたが(クランクラン)すっ!」「こん魚は(ピッチンピッチン)しちょい!」
上級:(粗悪品=贋垂れ、不憫=業らしい、おから=切らず、花火=火柳)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。