国語辞典入門:見出し 拗促音(ゃゅょっ)の配列、和語・漢語の区別
2010年 7月 28日 水曜日 筆者: 飯間 浩明第28回 見出しの仮名の謎
探していることばが国語辞典に載っていない、と早合点するのは、追い込み処理に気づかない場合のほかに、項目の並び順を勘違いしている場合もあります。
10年前のある小学校国語教科書を見ると、4年生で国語辞典の引き方を扱っています。項目の並び順を説明する部分では、「小さく書くかなは、どんな順になっているでしょうか」との設問があり、「りゆう(理由)」と「りゅう」の例が挙がっています。
私の知るかぎり、小学生用の学習国語辞典では、「やゆよ」「つ」が先に、「ゃゅょ」「っ」が後に来ます。したがって、上の正解は「『りゆう』が先」となります。
ところが、児童の中に大人用の国語辞典を使っている子がいると、大変です。一般の辞書では、「りゅう」が先に、「りゆう」が後に来るものが、むしろ多いからです。
「ゆ」「ゅ」のいずれが先かで、主な辞書を分けてみると、次のようになります。
・「ゆ」が先……『岩波』『旺文社』『学研現代新』
・「ゅ」が先……『三省堂』『新明解』『新選』『明鏡』『集英社』『新潮現代』『現代国語例解』『大辞林』『広辞苑』『日本国語大辞典』
つまり、子どもの辞書の常識と、大人の辞書の常識とが異なっています。
「理由」と「りゅう」なら、隣り同士なので、どちらでも大差ない――とは言えません。辞書によっては、「柳」「流」「留」「竜」「琉」など「りゅう」と読む漢字を多数項目に立てるものがあります。「理由」の項目は、その前に来るか後に来るかで、ずいぶん位置が変わります。結果として、「『理由』が載っていない」と思いこむことにもなるのです。
国語教科書も、この点については検討したようです。今の小学3年生の教科書では、「あなたがよく使う国語辞典で、次の言葉はどちらが先に出ているか調べてみましょう」という設問に変わっています。これなら、辞書ごとに並び順が違っていてもかまわないし、むしろ、違いがあることを理解させるきっかけにもなります。
「ゆ」「ゅ」のどちらを優先する国語辞典にも、それぞれ根拠があります。「ゆ」を先にする辞書は、特殊仮名の「ゅ」を後回しにするという考え方です。「ゅ」を先にする辞書は、2音の「りゅ・う」を3音の「り・ゆ・う」よりも先に置くという考え方です。
和語・漢語が分かると便利
見出しの部分には、まだ謎があります。辞書によって、「ばしょ(場所)」の見出しの仮名を「ば ショ」としたり、「ば-しょ」(「しょ」だけがゴシック体)としたりするものがあります。前者は『新潮現代国語辞典』、後者は『新選国語辞典』(小学館)の方式です。素直に「ばしょ」と書けばよさそうなのに、なぜこんな表記にするのでしょうか。
これは、和語と漢語を区別して示しているのです。この区別はたいへん役に立つのですが、理解している人は多くなさそうなのは、もったいないことです。
大ざっぱに言えば、和語は「山(やま)」「桜(さくら)」など漢字を訓読みすることば(日本で生まれたことば)、漢語は「山河(さんが)」「桜桃(おうとう)」など漢字を音読みすることばです。音読みの特徴は、「河(か)」「左(さ)」など1音か、「回(かい)」「高(こう)」など、「い・う・き・く・ち・つ・ん」の音で終わることです。
両者の区別ができれば、いろいろと便利です。文章を書くとき、文脈に合わない言い回しを使って、みすみす伝わりにくくしている人があります。その点、和語・漢語の区別ができる人は、「はじめは」と「当初は」、「近頃」と「近来」、「力の限りを尽くす」と「全力を傾注する」などの切り替えが自由にでき、よりこなれた文章が書けます。
あるいは、語源を考えるときにも有効です。「とにかく」ということばは、「兎に角」と書くので、ウサギに関係があるかのようです。でも、「とにかく」は和語、「兔」「角」は漢語だと知っていれば、和語にあとから漢字を当てはめたにすぎないことが分かります。
『新潮現代』では、見出しの和語はひらがな、漢語はカタカナで記しています。「ば ショ(場所)」の表記は、和語の「場(ば)」と漢語の「所(しょ)」からなることを示すものです。
ほかにも、たとえば、「しら ギク(白菊)」「ぶた ニク(豚肉)」などともあって、ごく日常的な「菊(きく)」「肉(にく)」などのことばも漢語であることが分かります。あるいは、「かわい そう(可哀相)」「たんのう(堪能)」などはひらがなで書かれていて、漢語のような発音でありながら和語であることが分かります。
『新選』の場合は、和語を太明朝(アンチック)、漢語をゴシックにしていますが、和語と漢語を区別するという意図は、『新潮現代』と同じです。両辞書がこの点でいかに便利かは、もっと注目されてもいいことです。
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◆飯間先生のもう一つの連載は⇒「『三省堂国語辞典』のすすめ」目次へ
◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。












































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