地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第115回 大橋敦夫さん:方言Tシャツ(長野県・下諏訪町)

筆者:
2010年9月4日

ありそうでなかった、信州方言をあしらったTシャツ(スピードファクトリーツイスター(下諏訪町)製)を見つけました。

【信州方言Tシャツ】
【信州方言Tシャツ】
(画像はクリックで拡大します)

取り上げられている方言(参考までに、共通語訳をつけておきます)は、

「ごしてぇ」=疲れた だるい
「しゃらごしてぇ」=疲れるだけで益がない
「なから」=だいたい おおよそ ほぼ
「だもんで…。」=それですから。
「ごたっ小僧」=ひどいいたずらに手の負えない子ども
「いただきました」=ごちそうさまでした
「まえで」=前の方 前面
「飛んできます」=走っていきます
「「ずく」有ります」(ずく=やる気 活力 根気)

などの語があります。色も、ホワイト・ブラック・オレンジ・ライムグリーンの4色から選べます。

【信州方言Tシャツを着た子ども】提供:スピードファクトリーツイスター
【信州方言Tシャツを着た子ども】
提供:スピードファクトリーツイスター

信州らしい方言(ずく・まえで)はもとより、メーカーのある諏訪特有の語(しゃらごしてぇ・ごたっ小僧)に加え、気づかれにくい方言(共通語と形は同じだが、意味・用法の違うもの:いただきました・飛ぶ)が選ばれているのが心にくいところです。

メーカーのお話では、沖縄など他県には方言Tシャツがあるのに、地元にはないことから、遊び半分で作って仲間うちに見せたところ大ウケしたので、製品化したとのこと。

方言については、一目見てわかり、かつ思わず笑ってしまうようなコトバを選び、隠語的な意味を含むものは避けたそうです。

各種のイベント等にも出店、先日の御柱祭でも大変な好評だったそうで、地元の「ごたっ小僧」の写真を提供していただきました。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。