« 社会言語学者の雑記帳6-2 ローマ字の迷宮 - 角色大世界――日本 30 »

地域語の経済と社会 第119回 チェコ語の方言(ブルノ編)

2010年 10月 2日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第119回「チェコ語の方言(ブルノ編)」

 「地域語の経済と社会」のシリーズでは、日本国内にかぎらず、海外の方言事情も時々紹介しています。今回は、チェコ(Czech Republic)の首都プラハから南東180kmに位置するブルノ(Brno)の方言を紹介します。チェコは、ボヘミア地方(西部)とモラビア地方(東部)に大きく2つに分けられますが、ブルノは、南モラビアの中心地として栄えた工業都市で、人口約40万人です。

 チェコ語の方言は、大きくボヘミア方言、モラビア方言、ハナー方言、ラフ方言の4つに分けられます。ボヘミア方言は、モルダウ川流域に栄えたドイツに接する西部地域に分布します。ブルノは、モラビア方言地域に属しています。地図を見てみると、首都のプラハより、オーストリアのウィーンに近く、両都市間の距離は約100kmです。

 ハナー方言は、中央モラビアで話されている方言で、ゆっくりしたテンポでリラックスした感じの方言です。ラフ方言は、ポーランドに国境を接するシレジア地方で話されている方言で、母音が短くかたい感じを与えます。
http://hlavaczek.blogspot.com/2008/04/mapa-ne-r.html

(画像はクリックで拡大)
【写真1】
【写真1】

 ブルノ方言のことを、市民は、Hantec(地元言葉の意味)と呼んでいますが、Hantecのほうがチェコ語のもともとの形と音声をとどめているとベラ・フィアロバ(Věra Fialová)さんは言います。モラビア地方は、スラブ民族によって9世紀~10世紀に大モラビア王国が形成されていました。その後、ドイツ人やユダヤ人、チェコ(ボヘミア)人が移住しました。第一次大戦まで、ハプスブルク家、オーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあったので、ドイツ語が公用語であった時期もありました。民族復興とともにチェコ語が公用語になりましたが、首都プラハより、歴史を経てきて文化遺産の多いブルノのほうが、チェコ語のルーツを保持しているのです。

【写真2】
【写真2】

 【写真1】は、ビールの泡の上にブルノの丘の上の教会がそびえています。“Staro Brno”(古いブルノの意)というビール会社の宣伝です。“ŠKOPEK(ジョッキー),CO(代名詞which),HODIL(与えた),JMÉNO(名前),ŠTATLU(町の中心・旧市街)”は、「町の中心に名前を与えたビール」という意味ですが、ブルノ方言で書かれています。標準チェコ語だと、“Pivo, co dal jméno centrum města”となります。

 “denki ostravaka”(追放された言葉で書いた日記【写真2】)は、方言で書かれた日記です。何冊かのシリーズになっています。50から60ページの薄い本でしたが、一冊110コルナで日本円にすると約550円です。

 記事を書くにあたってご協力くださったVěra Fialováさんと、友人の重盛千香子さんに厚く御礼申し上げます。

* * *

◆この連載を続けてお読みになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」アーカイブへ

◆記事のタイトルからお探しになる方は
「地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―」目次へ

【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

2010年 10月 2日