地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第120回 大橋敦夫さん:山形県にオランダが!

筆者:
2010年10月9日

サクランボなどの果物はもちろん、お米(どまんなか)にお蕎麦、おいしい食べ物が豊富な山形県ですが、ネーミングに方言をあしらった楽しい商品を見つけました。

【オランダせんべい】
【オランダせんべい】
(画像はクリックで拡大します)

その名も「オランダせんべい」(酒田米菓・酒田市)。庄内産うるち米・植物油脂・食塩のみによる、さっぱりとした味わいのうす焼きせんべいです。

命名の由来については、同社のHPで次のように説明されています。

  • 発売当初の昭和37年は、おせんべいと言えば、お醤油味が一般的で、サラダ味は欧風せんべいのイメージが強かった。
  • 最上川の流れる庄内平野の田園風景が、オランダの国と似ている。
  • 庄内地方の方言で、「私たち」のことを「おらだ」と言うことから、「私たちの米で作った私たちのせんべい」→「おらだのせんべい」→「オランダせんべい」と言い換えた。

つまり、欧風・オランダのイメージと方言とをかけた名づけなのでした。

山形県の方にとっては、なじみやすい語形変化のようで、同県長井市の三浦範靖さん(会社役員)も、自らの創作物語を「オランダ語」(←「おらだの語」)と称してつづっていらっしゃるとの由。

山形県内には、まだまだ類例がありそうですね。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。