地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第122回 井上史雄さん:イタリアの方言みやげ
Dialect souvenirs of Italy

筆者:
2010年10月23日

これまで何回か海外の方言みやげを紹介しました。今回はイタリアです。何度か行く機会があって、みやげ店などをのぞきましたが、見つかりませんでした。その後教え子がイタリアに滞在して見つけたのを、送ってくれました。

【写真1 表紙】
【写真2 10月のページ】
【写真2 10月のページ】

イタリア北西部(トリノ周辺)のピエモンテ方言のカレンダーです。【写真1】表紙と【写真2】10月のページを示します。

左上にotoberと書いてあります。イタリア語辞典に載っている10月はottobre で、8を指すラテン語octoの子音が単純化されたものです。オットと発音します。どうやらこの方言では短くなってオトと発音すると、見当がつきます。

細かい字の説明文の半分もピエモンテ方言で書かれているようです。イタリア標準語で書かれても、ド素人には分からないのですが、辞書に出ていないつづりで書かれていますから……。補助記号(文字飾り)で発音を表す工夫をしています。

イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語とルーマニア語などは、ローマ帝国のラテン語からのちに分かれた言語で、ロマンス語と呼ばれて、お互いによく似ています。イタリアは、中世の封建領主の力が強かったので、方言差が大きくなったと言われています。

曜日の名もイタリア語とフランス語に似ています。曜日や月の名前はカトリック教の影響を受け、宗教的な命名が広がりました。国境を越えて隣国に広がったので、言語の境界と一致しない方言差が見られます。ヨーロッパ全体の「土曜日」の地図は、拙著『変わる方言 動く標準語』(2007.2)筑摩新書p.85に再録してあります。残り約100冊で絶版予定だそうです。新本がほしいならお早めに。もっともAmazonか何かで1円で出るのを待つ手もありますが。

ふと思いついて、インターネットでdialettoと入れて画像を検索してみました。イタリア語の方言についての画像が出るのを期待したのです。昔の方言絵はがきの画像が見つかりました。また最近のもありました。方言を使ったみやげ品や広告は、もっとあるに違いありません。今度イタリアに行く機会があったら、じっくり時間をかけましょう。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。