地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第127回 井上史雄さん:Googleマップで見る関西弁の世界進出
Global expansion of Kansai dialect by Google maps

筆者:
2010年11月27日

今回は視野を広げて、方言について全世界を見渡す新手法を紹介します。Google mapを使うと、単語のグローバルな分布が地図上に示されます。

付図は関西弁のお礼のことば「おおきに」の世界地図です。Googleマップでアルファベット“okini”で検索すると、国外の使用例も地図上に示されます。

世界各地で“okini”という関西弁が使われていることは驚きでした。

図 dojo(道場)の世界地図(Googleマップによる)
【図 okini(大きに)の世界地図(Googleマップによる)】
(写真はクリックで拡大します)

ただし図のような形で世界言語地図を出すには、ちょっとした知恵が必要です。まずGoogleマップを検索して、パソコンの画面に出します。左上の「Googleマップ」と書いてある空欄にokiniを入力して「地図を検索」をクリックします。たいていは狭い地域(場合によっては1軒の店)が地図上に出ます。地図左上の温度計のようなマークを下におろすと、アジア全体になり、世界全体の地図になります。

また左側の店名一覧をスクロールして、末尾を出して、「okiniの検索結果をすべて表示(369件)」をクリックすると、他の店も地図に表れます。”okini”は店の名前ではなく、その店についてのクチコミや書き込みなどで使われていることもあるので、用心が必要です。

Googleマップの画面の保存には、次の技法を使います。

1.保存したい地図を画面一杯に出して、PrintScreen(キーボードによってはPrtScr、PrtScrn、PRTSCRなど)というボタンとCtrl(または同じ色)のボタンを同時に押します。
2.次にワード(かワードパッドかエクセル)を開きます。そして「ホーム」の「貼り付け」を押してください。
3.適当な名前を付けて保存してください。

Googleマップを使うと、単語の世界地図が数分でできます。これまで数百枚を作りました。ただ、地図に出す広さを変えたりすると、出る情報が違ったりします。みなさんも試してみてください。色々なことばを入れて検索すると、変わった言語地図ができます。ある語について、世界最初の言語地図を作ることになるでしょう。そして結果を教えてください。

なお雑誌『日本語学』2010年12月号のエッセイ「日本語の世界分布図」には、dojo(道場)の地図が載っています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。