地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第136回 田中宣廣さん:大雪に負けない方言看板と方言メッセージ

筆者:
2011年2月5日

夏が暑かったとき,そのすぐ後の冬は寒くて雪が多いと言われます。今シーズンは,それがよく当てはまっています。この冬は,全国的に寒く,しかも,積雪量の観測最大値を更新した地点が多く出ているくらいの大雪です。

そういうなかでも,方言看板は,がんばって交通安全を呼びかけています。

秋田県仙北郡美郷町の国道13号線沿い(横手から大曲方向に北上する車線の左側)に,「なんぼ言えばわがる 飲んだら乗るな」(何回言ったら理解できるのか。「(酒を)飲んだら,(自動車に)乗るな」)の,とても大きな看板があります。【写真1】=《付記》に撮影に関する説明=

【写真1 酒飲み運転は許さない】
【写真1 酒飲み運転は許さない】

美郷町のある秋田県の内陸部は,もともと雪の多い地方です。その中心地は,美郷町の南隣で,「かまくら」で有名な横手市です。街中すら除雪が追いつかないほどの大雪です。

看板も,雪まみれになりながらも文字をしっかり見せてその役目を立派に果たしています。飲酒運転による悲惨な事故が,たびたび報道されています。皆さんも,酒飲み運転は絶対にしないでください。

「なんぼ言えば…」は,非営利的な言語の拡張活用ですが,雪の中,商業的利用の方言メッセージも頑張っています。

美郷町の北隣の大仙市の国道105号線沿いの「道の駅なかせん」に「よってたんせ きてたんせ!」(寄ってください。来てください!)の歓迎メッセージがあります。【写真2】

【写真2 ちょっと寄りたくなる方言メッセージ】
【写真2 ちょっと寄りたくなる方言メッセージ】

なお,「なかせん」は,漢字では「中仙」で,平成の大合併で大仙市になる前は,中仙町だった地区です。年配者には懐かしい「ドンパン節」が生まれたところで,この道の駅も,愛称を「ドンパン節の里」としています。

方言看板も方言メッセージも,雪の中,ますます元気です。皆さんも,寒さを吹き飛ばして頑張りましょう。

*

《付記》
 今回の2枚の写真は,私のゼミの学生で,大仙市出身の者に撮影してきてもらったものです。第126回で,この地域の方言みやげなどを紹介しましたが,私は,今回の2例とも,その取材の時に見付けたものの,事情により写真の撮影ができませんでした。そういうところ,学生の冬休みの帰省のときに卒業論文の資料収集を兼ねて撮影をしてくれました。ここに記して感謝の意を表します。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。