『英語談話表現辞典』覚え書き

(40) コメント表現3

筆者:
2011年2月17日

前回は単語ideaが使われているコメント表現をみてきました。今回は相手のことばに安堵した気持ちを表すコメント表現を考えみます。

文字通り安堵感や安心した気持を表す relief という語を使った表現に、What a relief! があります。本辞典から引用します。

1 〈不安が解消されて〉ああ ほっとした, よかった:“The boss doesn’t know you were late this morning.” “What a relief!” 「課長は君が今朝遅刻したことを知らないよ」「よかった!」 / 《大学のキャンパスで》 “I wish my class will be canceled, because I’m not ready for the paper.” “Don’t you know that it is canceled?” “What a relief!” 「授業が休講にならないかなあ. レポートでき上がっていないんだ」「休講になったこと知らないの?」「助かった!」.

第1例では遅刻したことでとがめを受けるのではという心配していた気持ちが含意されていますし、第2例ではレポートが仕上がっていないのでどうしようという不安感が現われています。いずれも相手のことばでそういった心配事が解消されてほっとした心境を What a relief! で表現しています。

(That’s) Great. という表現はもともと相手の話に感嘆したり、共感したときに使われるのですが、そうあってほしいという気持ちで物事を尋ねたときに願い通りの応答が返ってきた際にも用いることができます。

3 〈相手の発言内容に対して〉よかった, 助かった; (それを聞いて)うれしい:“I’d like to see Tom Brown. Do you know him?” “Yes. He works next to me.” “Great!” 「トム・ブラウンさんにお会いしたいのですが, ご存知ですか?」「ええ, 私の隣で仕事をしているわ」「よかった」 / “Do you have any dried beans?” “Yes, ma’am.” “Great. I need some.” 「乾燥大豆ありますか?」「はい, あります」「よかった. 少しください」.

第1例では Tom Brown を知らないのではないかという気持ちでたずねています。また、第2例ではどの店にもおいてあるとは限らないdried beansを売っているかどうか聞いています。いずれもポジティブな返答をえて安堵しています。

(It’s) just as well (that) . . . . という言い方があります。構文的には it が that 節を受ける形式主語ですが、相手の発言を受けるときは that 以下は不要となり、「(それで)よかった」という意を表します。

2 〈相手の発言を受けて〉 (自分にとって)よかった:《娘と母親の会話》 “I won’t have any lunch.” “Just as well. There isn’t enough for two.” 「昼ごはんいらないわ」「助かったわ. 2人分はないから」.
3 〈相手の発言を受けて〉 (相手にとって)その方がよかった, 後悔するには及ばない:“I’m too late for the party!” “Just as well—it wouldn’t be very good anyway.” 「私, もうパーティに間に合わないわ」「その方がよかったよ. どうせつまらないだろうから」 / 《息子と父親の会話》 “I’m afraid the game is going to be put off due to the rain.” “Yes. It’s just as well. This way you’ll have more time to study.” 「雨で試合は順延じゃないかな」「やあ, それはよかった. 勉強する時間ができるじゃないか」.

たとえば、語義2の例文では前言を受けて、‘You won’t have any lunch.’という文が省略されています。

いずれも日本語では「よかった」という言い方が訳語として共通していますが、一般の和英辞典では「よかった」からは検索することは難しい項目です。

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

編集部から

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