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「百学連環」を読む:総論の構成 その4「真理」(前半)

2011年 5月 13日 金曜日 筆者: 山本 貴光

第6回 総論の構成 その4――「真理」(前半)

 「百学連環」の「総論」の目次、最後の項目は「真理」です。これはまた大きなテーマですが、学術においては欠かせない要素の一つでもあります。とはいえ、そもそも真理とはなんだろうという話もあります。そのことも含めて、目次を眺めながら思い浮かぶ疑問をメモしてゆきましょう(皆さんも、思い浮かぶことがあれば、ぜひ)。「はやく本文に取りかかりたい」というはやる気持ちを抑えつつ……

 さて、「真理」の項目には次のような七つの小見出しがあります。

 Positive Knowledge, Negative Knowledge
 利用 適用
 コントの三段階説
 才学識
 規模 System 方法 Method
 普通学 殊別学
 心理上学 Intellectual Science 物理上学 Physical Science

 前に見た「学術技芸」の項目もそうでしたが、どうやら西先生は、物事を二つ、対にして並べる傾向があるようです。一方に甲あり、他方に乙あり、という感じでしょうか。ここでも「コントの三段階説」と「才学識」以外はすべてが対になっています。これはどういうことなのか、なにか底意地があるかもしれませんので、気に留めておくことにしましょう。

 さて、最初に現れるのは、Knowledge(知識)です。しかも、PositiveとNegativeという二種類が並んでいます。日本語の日常会話で「ポジティヴ」「ネガティヴ」という場合、人の性格が「前向き(積極的)」か「後ろ向きか(消極的)」か、といった意味で使われることが多いでしょうか。PositiveとNegativeには、他にもいろいろな意味がありますが、両者が対になって使われる場合としては、陽性/陰性といった用法もありますね。ここでの問題が「真理」であることを考えると、積極的な真理/消極的な真理といったことが論じられているのかもしれません。これは一つ疑問として念頭に置いておきましょう。

 次は「利用」と「適用」です。これまた日常的に使う言葉ですが、これだけでは含意は分かりません。真理、あるいは前項の知識を利用/適用するという議論でしょうか。「利用」といえば、自分の目的のために用いること、「適用」といえば、なにかにあてはめてみること、といった印象がありますが、皆さんの場合はいかがですか。

 さて、第三は「コントの三段階説」です。ここでコントというのは、オーギュスト・コント(Auguste Comte, 1798-1857)のこと。19世紀前半に活動したフランスの人です。彼はもともと数学の研究から出発して、やがて哲学研究へと進んでいきました。哲学というと、現在では専門化した学術領域の一つという印象があるかもしれませんが、コントの時代には、従来の広い意味を保っていたようです。

 コントが書いたものは、今日ではあまり読まれていないようですが、社会学の創始者として耳にすることがあるかもしれません。その「三段階説」とは、学術の進展する段階を説いたものでした。やがてこの連載でも詳しく検討することになるはずですが、「百学連環」、つまり諸学術の連環を考えようという西先生にとって、コントの説は見逃すわけにいかないものだったのでしょう。コントが唱えた「実証主義哲学」は”Philosophie positive”といいますが、このpositiveは、先ほどのPositive Knowledgeと関係があるのかないのか、そんな連想も働きます。

 その次に置かれた「才学識」と記した項目、実はよく見ると「才 学 識」とそれぞれの字の間に空白が置かれています。「才」と「学」と「識」の区別が論じられるのでしょうか。連想されるのは、「才識」と「学識」という言葉です。才識とは才知と識見、学識は学知と見識などと辞書に見えます。「才知」「識見」「学知」「見識」も、それぞれさらに分解できそうです。いずれにしても、「才」「学」「識」は、セットにされることの少なくない言葉ですが、真理をテーマとする場合、いったいどういう意味を担うことになるのでしょうか。どうやらこの辺りは、学術や真理に携わる人間側の話をしているようにも思えます。学術への向き不向きだなんて話だったら、ちょっとこわいような感じもしますね。

 今回で目次の検討を終えようと思っていたのですが、長くなってしまったので、いったんここで区切ります。なんだか焦らしているみたいでスミマセン。

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筆者プロフィール

山本貴光(やまもと・たかみつ)

『コンピュータのひみつ』(朝日出版社) ジマーマン+サレン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)文筆家・ゲーム作家。
1994年から2004年までコーエーにてゲーム制作(企画/プログラム)に従事の後、フリーランス。現在、東京ネットウエイブ(ゲームデザイン)、一橋大学(映像文化論)で非常勤講師を務める。代表作に、ゲーム:『That’s QT』、『戦国無双』など。書籍:『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(吉川浩満と共著、朝日出版社)、『問題がモンダイなのだ』(吉川浩満と共著、ちくまプリマー新書)、『デバッグではじめるCプログラミング』(翔泳社)、『コンピュータのひみつ』(朝日出版社)など。翻訳書:ジョン・サール『MiND――心の哲学』(吉川浩満と共訳、朝日出版社)ジマーマン+サレン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ)など。目下は、雑誌『考える人』(新潮社)で、「文体百般――ことばのスタイルこそ思考のスタイルである」、朝日出版社第二編集部ブログで「ブックガイド――書物の海のアルゴノート」を連載中。「新たなる百学連環」を構想中。
URL:作品メモランダム(http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/
twitter ID: yakumoizuru

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【編集部から】
細分化していく科学、遠くなっていく専門家と市民。
深く深く穴を掘っていくうちに、何の穴を掘っていたのだかわからなくなるような……。
しかし、コトは互いに関わり、また、関わることをやめることはできません。
専門特化していくことで見えてくることと、少し引いて全体を俯瞰することで見えてくること。
時は明治。一人の目による、ものの見方に学ぶことはあるのではないか。
編集部のリクエストがかない、連載がスタートしました。毎週金曜日に掲載いたします。

2011年 5月 13日