地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第150回 大橋敦夫さん:フィールドワークの好適地・十日町市(新潟県)

筆者:
2011年5月14日

「地域語の経済と社会」の調査対象となる、さまざまな実例が採集できる街・十日町市(新潟県)をご紹介します。(今回の範囲は、JR線・ほくほく線十日町駅から徒歩15分以内です。)

まずは十日町市博物館へ

新潟県下唯一の国宝・火焔型土器を目当てに十日町市博物館へ向かい、ミュージアムショップのコーナーをのぞいてみると――。

(写真はクリックで拡大します)

【写真1】
【写真2】
【写真3】

そこには、十日町市博物館友の会「方言を楽しむグループ」の皆さんが作成された方言手ぬぐいが3点【写真1~3】、さらに、同会・方言研究グループ発行の方言研究書『はちゃ 中魚・十日町の暮らしと方言①』も並べられています。

いずれも、郷土と郷土の言葉を愛する気持ちが伝わってくる力作です。

商店街を歩く

十日町駅に戻りがてら、地元の物産を販売する「キナーレ」(第85回で紹介)にちょっと寄り道。

駅を背にして、商店街を歩き始めます。有線放送からは十日町弁で、地元の話題が語られています。

随所に貼られた十日町市観光協会のポスターには、
  「いいとこだぜの、とおかまち」[=いいところですよ]
  「だんだん どうも」[=いつも どうも]
の標語があしらわれています。お店の看板も十日町弁で呼びかけています【写真4】。

【写真4】

歩き疲れたので、喫茶店をさがすと、「ほんやら洞」[=かまくら]というお店がありました。

さらなる方言グッズを求めて、和菓子の木村屋を訪ねると、そこは方言和菓子の宝庫。

 「なじょだの」[=いかがですか]
  「つぼんこ」[=雪玉]
  「おこめし花」[=しょうじょうばかま]
  「あちこたね」[=心配ない]
  「だんだん どうも」[=いつも どうも]
などのネーミングで、和菓子がずらりと並んでいます。

十日町弁を愛する小林博さん

地元紙・十日町新聞には、次のような広告が載っています。

ようやっと貝類に肉がついてきた。白みの魚も、
いかの赤ん坊もうまくなってきたぜの。
食欲の秋、うめぇもんをちっとなじだの。一ヶでもいいやんだぜの。

加賀町の 松乃寿司

広告の主は、小林博さん。実は最初に紹介した方言手ぬぐいや方言研究書は、小林さんが中心になって作成されたもの。十日町弁の広告も、50年以上続けているそうです。

街歩きをたっぷり楽しんで、仕上げに小林さんのお店で十日町弁に浸る。実りの多い一日となることでしょう。

帰路には、駅でもうひと稼ぎできます【写真5】。

【写真5】

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。