『英語談話表現辞典』覚え書き

(49) What’s new?

筆者:
2011年6月23日

前回は「冗談でしょ」と応じる言い方をみてきました。今回は「変わりはないですか」という、出会ったときあいさつを交わす際に付け加える言いかたを考えてみたいと思います。

タイトルにあげた、‘What’s new?’は知り合い同士のあいさつに伴う表現ですが、‘How are you?’とほぼ同じように使われます。本辞典からの引用です。

1 〈出会いのあいさつとして〉お変わりありませんか, 元気ですか:《大学のキャンパスで》“Tom, what’s new?” “Nothing much.” 「トム, 変わりないか」「特にないよ」 《町でばったり出会った女性2人の会話》“My, my!, quite a long time! What’s new?” “Not a whole lot.” 「あらっ, しばらく! 最近どう?」「まあまあね」.

‘What’s new?’に対する応答は、‘How are you?’が‘Fine, thanks.’の類の決まり文句を伴うように、上の例にみられる‘Nothing much.’やそれと類似した言い方が続きます。通例、「変わったこと、新しいこと」があったとしてもその否定的な応答の仕方は変わりません。このようなことばの使い方を「交感的言語使用(phatic communion)」ということがあります。特に伝達すべき内容がなく、もっぱら人間関係をスムーズに保つための言語使用をいいます。

ただし、‘What’s new?’には、次のように、実質的な内容を問う使い方もあります。

2 〈近況をうかがって〉何か変わったことはないか:《もとの会社の部下に出会って》“What’s new?” “I learned that the president is going to resign this fall.” 「何か変わりはあるかい?」「社長がこの秋, 退任する予定らしいです」 《しばらく会っていない友人と会って》“Oh, long time no see! What’s new?” “Yeah. My daughter is going to marry at the end of this year.” 「やあ, 久し振り! 変わりない?」「そうだね. 娘が今年の年末に結婚するよ」.

ここでは、単なるあいさつのやり取りだけでなく、実際に新しいニュースを伝えています。

類似表現に‘Anything new?’があります。

1 〈あいさつの後で〉お変わりないですか, 何か変わったことはないの: “Hello, Jennifer! Anything new this morning?” “No, nothing. And you?” “Also nothing new to report.” 「やあ, ジェニファー. 今朝は変わりはないかい?」「別に取り立ててないわ. あなたは?」「僕の方も何も変わりないよ」.

この表現も phatic な機能があり、通例応答は‘Nothing.’とか‘Nothing new.’といった否定表現が続きます。また、この表現にも具体的な内容を問う用法があります。

2 〈具体的なことについて〉何か新しい情報は入ったか, 進展はあった?:《上司が部下に》“Hi, anything new on that matter?” “Well, nothing in particular.” 「やあ, あの件に関して何か情報はあるか?」「そうですね, 特にありません」.

なお、‘What’s new?’には‘with you’をつける言い方もあります。

1 〈相手個人について〉お変わりありませんか:《休み明けに友人と会って》 What’s new with you? Did you have a good weekend? 変わりはない? 週末は楽しかった?
2 〈あいさつのお返しとして〉あなたはお元気?:“Hi, Jane! How are you doing?” “Great! What’s new with you?” 「ハーイ, ジェーン! 元気にしてる?」「元気よ. あなたはどうなの」.

この表現も‘What’s new?’の場合と同じく、決まり文句が続きます。次は本辞典の Nothing. の項目からの例です。

4 〈あいさつのやりとりで〉変わりはありません:“Hi, Steve. What’s going on?” “Nothing. What’s new with you?” “Nothing really.” 「やあ, スティーヴ, どうしてるの?」「変わりはないね. 君は変わりはないかい?」「まったくないよ」.

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

英語談話表現辞典

編集部から

語用論的な情報をふんだんに盛り込んだ、日本初の本格的な発信型会話・談話表現辞典、『英語談話表現辞典』について、編者の内田聖二先生にご紹介いただきます。
書籍購入者は、http://dce.dual-d.net にて本辞典の全データを収録したウェブ版辞典を無料で使用できます。