大規模英文データ収集・管理術

第20回 「分類」の構成・5

筆者:
2012年3月19日

(3) 表現別

ここで、もう一度、第17回で使用した、(1) アルファベット順を表している鉄道の路線図を見てみます。

lines.png

   

◎や○は駅を示していますが、○はローカル電車の停車駅を、そして◎は始発駅と終着駅、および途中の急行停車駅を表しています。

英語の場合には、(1) アルファベット順の中には「ローカル」の停車駅も「急行」の停車駅も含ませていますから、上記のような路線図になります。

(2) 50音順の場合にも、本来ならば、(1) アルファベット順と同じような図になるべきなのですが、(2) 50音順の場合には「急行」の停車駅が非常に重くなりますので、その当時の判断として、「急行」の停車駅を「ローカル」の停車駅から切り離し、「急行」の停車駅だけを独立させました。その独立させたものが、(3) 表現別です。これを路線図で表わしますと、上記の路線図から急行停車駅だけを取り上げ、

express.png

となります。(3) 表現別の中では、個々の◎が50音順 に並べられていること、そして個々の◎の中は「分類」されていることはもちろんです。

「急行」の停車駅と「ローカル」の停車駅との区分は、あまりしっかりとした基準があるわけではありません。あえて言うならば、乗り物の場合の「乗降者数」と同じように、それぞれの言葉の中の情報量、言いかえると、収集されたデータの量、すなわち、英文の数ということになります。

この情報量の把握、すなわち、「急行」の停車駅と「ローカル」の停車駅との分離という決断を行ったのは、筆者が「トミイ方式」を始めてから7~8年くらい経過したころだと思います。そのころ、まだ漠然と「50音順」に集めていたデータを、すべて、広い会議机の上に広げ、同じ言葉としてまとまっていたデータを拾い出し、それぞれに名前を付けて順番に並べてみました。それが、いつしか(3) 表現別として独立したわけです。

今日現在、この分類は今でも健在で、下に示すように70個あります。中にはマンンモス駅もあれば、ちょっと小ぶりの駅もあります。さらには、その後データが増え、「ローカル」の停車駅から「急行」の停車駅に格上げしなければならないものもあり、そろそろ、再編成しなければならない時期にも来ていますが、しばらくは、この基準を踏襲していきたいと思っています。

一つ大事なことに触れておかなければなりません。

今、(3) 表現別の中の表現の数を70個と書きましたが、この70個というのは、これは、あくまでも、筆者が、筆者の必要性、興味、関心度などに基づいてデータを収集した結果、重要表現としてリストアップしたものにすぎません。それぞれの人にはそれぞれの「重要表現」というものがあると思います。コンピュータ関係、航空宇宙関係、化学や医学・薬学関係、原子力関係、土木・建築関係、それぞれの分野の翻訳者や技術者は、何が自分にとっての「重要表現」であるかを決め、それらを収集して行くと無駄がなく、効果的だと思います。決して、ここにある「トミイ方式」の70個にこだわる必要はありません。ただ、ここに挙げた70個の表現は、ある特定の技術分野にのみ使われる表現や技術用語などではなく、すべての技術・産業分野を串刺ししたような、どの技術分野にも共通的に使える表現を選んであるということだけは強調しておきます。

70個にまとめる際、次のようなルールに基づいています。

(a) いくつかの訳語を1つにまとめる
例:異・違・差

このようにしないと、例えば differ という言葉を、ある時は「異なる」と訳し、あるときは「違う」と訳したとする、differを使った英例文が、あるものは「ことなる」と訳したため「こ」の場所に入ってしまい、またあるときは「ちがう」と訳したため「ち」の場所に入ってしまうというように、同じ英単語が散ばってしまいます。これを防ぐため、「異・違・差」として「い」の場所に置いてあります。これには「同・等」や「類似」などもあります。

(b) 意味は違うが用法が同じであり、概念的にも同じものをまとめる
例:以上・以下、超え・未満

お互いに意味は正反対ですが、すべて数量表現において同じ概念の表現であるため、すべて「以上」で代表させ、「い」の場所に置いてあります。

(c) 「訳語」だけではなく「意味」でもくくる
例:原因

この中には、「原因」という言葉が入っている表現、例えば、「~の原因」とか「原因は~である」など、ばかりでなく、「原因」を表す表現、例えば、「~だと」とか「~なので」なども入れてあります。このルールは、「結果」、「目的」、「理由」などにも当てはまります。

(d) いくつかある「訳語」は1つの言葉に代表させる
例:減少

これには、「減少」のみならず、「減る」「少なくなる」「低減する」「低下する」などなどいろいろありますが、これらをすべて「減少」としてまとめ、「け」の場所に置いてあります。このルールは、「増加」や「変化」などにも当てはまります。

(e) そのキーワードを使ってはいなくても、そのキーワードに含まれるすべての表現をまとめる
例:時

この中には、「時」という言葉は出て来ませんが、「時」に関する表現であること、例えば「時間」「期間」、「時期」「過去・過去・未来」「前後」「頻度」などすべてを含んでいます。

以下に(3) 表現別の中に収納されている、70個すべての表現を列記します。

1.異・違・差
2.以上・以下,超え・未満
3.位置(場所)
4.一体
5.一致
6.色
7.影響
8.確認
9.形
10.間隔
11.関係(関連)
12.区別
13.傾向・動向・趨勢・しやすさ
14.結果
15.減少
16.原因
17.限界(限度)
18.交換
19.考慮
20.試み
21.故障・不良
22.手段・方法
23.種類
24.順番,順序
25.条件
26.状態
27.除外
28.証明
29.照明
30.信号
31.図示
32.制限(制約,限定)
33.性質
34.接触
35.接続
36.選択
37.増加
38.耐
39.注意
40.長所,短所,欠点,弱点
41.調整
42.定義
43.程度
44.適切(最適)
45.同・等
46.時
47.特性(特色)
48.特長・特徴
49.取付け
50.取外し
51.努力
52.任意
53.能力
54.場合
55.範囲
56.比
57.比較する
58.必要
59.比例
60.分類
61.変化・変動・バラツキ
62.方向
63.目的
64.目標
65.問題
66.役割
67.呼ばれる
68.理由
69.類似
70.例外

繰り返しますが、ここまでは各項目を50音順に並べてあります。この先が「分類」になります。

次回は、紙面の許す限り、重要な項目に関して分類していきます。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。