大規模英文データ収集・管理術

第30回 構文別・1

筆者:
2012年8月6日

これから第33回まで、4回にわたって「構文別」を取り上げていきます。
「トミイ方式」で分類している構文にはいろいろあります。「中分類」としては、次の18個あります。

○ 無生物主語構文
○ 否定構文
○ 因果構文
○ 比較構文
○ 倍率構文
○ 倒置構文
○ 強意構文
○ 省略構文
○ 一致構文
○ 共通構文
○ 反復構文
○ 挿入構文
○ 態
○ 仮定法
○ 時制
○ 分詞構文
○ 補足説明構文
○ 複主語構文

ただ紙幅の関係で、これらすべてを取り上げることはできませんので、ここでは、大事な構文として次の6個を取り上げ、4回に分けて述べていきます。

1 無生物主語構文
2 否定構文
3 倒置構文
4 強意構文
5 省略構文
6 補足説明構文

1 無生物主語構文

この構文は、「もの」ではなく「こと」を主語に取る構文、たとえば、「~がどのようであること」、「~が何々すること」、「~を何々すること」などで、日本語にはなく英語にだけ発達している、彼我の非対応性が最も著しい構文です。この構文に慣れると、英和翻訳においては、自然な日本語に訳すことができ、和英翻訳のおいては、ネイティブの発想に近い英文を書くことができるようになります。
ここでは、この構文を、まず、分類方法により、次の3つの「小分類」に分けてあります。

1 主語別の分類: 無生物主語構文の中の主語の形で分類したものです。
2 動詞別の分類: 無生物を主語にとる構文でありながら、その中に使われている動詞の種類によって分類したものです。
3 否定文の分類: 無生物主語構文の文全体が否定文になっている構文を、否定詞の種類によって分類したものです。

1 主語別の分類

ここに含まれる主語を、次の8つのパターン別に分けて「細分類」しています。

(1) 主語が 形容詞+名詞のパンターン
(2) 主語が 名詞(自動詞から転じて来た)+名詞のパターン
(3) 主語が 形容詞+名詞(自動詞から転じて来た)+名詞のパターン
(4) 主語が 名詞(他動詞から転じて来た)+名詞のパターン
(5) 主語が 形容詞+名詞(他動詞から転じて来た)+名詞のパターン
(6) 主語が 動名詞のパターン
(7) 主語が Presenceを含んだパターン
(8) 主語が Absenceを含んだパターン
(9) 主語が Thisのパターン
(10) 主語が This+名詞(動詞から転じて来た)のパターン

昔は、次の2つのパターンも「無生物主語構文」の中に入れていましたが、今は、「因果構文」の中に移されています。この連載では、「因果関係」は取り上げられていませんので、ご興味のある方は、「科学技術英語構文辞典」(三省堂)を参照してください。

(11) 前の文章全体を原因とする、関係代名詞パターン
(12) 前の文章全体を原因とする、分詞構文パターン

上の(1)から(10)までの10個のパターンを順に述べていく前に、無生物主語構文とは何か、どのように和訳すると自然な日本語に訳せるか、などについて簡単に説明します。

無生物主語構文とは、元来、因果関係を表わしている構文で、若干の例外はありますが

主語+他動詞+目的語

で構成されています。そして、英語を日本語に訳す場合、2つのステップ、すなわち第1ステップ(主語の処理)と第2ステップ(述部の処理)、があります(訳し方は、「科学技術英語構文辞典」(三省堂)に詳しく書かれていますので、それを参照してください)。
このことを理解しておくと、これから説明しようとしている、それぞれのパターンが理解しやすくなります。

(1) 主語が 形容詞+名詞のパターン
例: High operating temperatures shorten lubricant life.
形容詞の代わりに過去分詞がくること(i)もあり、数詞が来ること(ii)もあります。
 (i) Improved switch contacts help to reduce faults in service.
 (ii) The 20′ width will permit safe passage of workers.
また、名詞は、普通名詞ばかりではなく、抽象名詞や物理量が来ることもあります。

(2) 主語が 名詞(自動詞から転じて来た)+名詞のパターン
例: The rotation of the drum causes the water to flow out of the outlet opening.
動詞rotateには「回転する」という自動詞と「回転させる」という他動詞がありますが、無生物主語の場合、自動詞から転じてきている場合には、rotationとして日本語では、「回転すると」とします。「回転させると」はrotating ~となります。これについては、(4)で確認します。

(3) 主語が 形容詞+名詞(自動詞から転じて来た)+名詞のパターン
例: A sudden movement of the piston rod can result in serious injury.
上の英文で、suddenがなければ、上の(2)と全く同じです。英語のsuddenな(形容詞)movement(名詞)が日本語では「急に(副詞)動く(動詞)と」のように品詞が変わります。

(4) 主語が 名詞(他動詞から転じて来た)+名詞のパターン
例: Reuse of the nut requires reapplication of the adhesive.
「ナットの再利用は」という英語が、日本語では「ナットを再利用すると」になります。

(5) 主語が 形容詞+名詞(他動詞から転じて来た)+名詞のパターン
例: A closer evaluation of the proposed design can narrow the number of choices.
上の英文で、closerがなければ、上の(4)と全く同じです。英語の「より厳密な評価は」が日本語では「より厳密に評価すると」のように品詞が変わります。

(6) 主語が 動名詞のパターン
例: Rotating the knob clockwise will cause the coupler to move upwards.
(2)のrotationと比べてみてください。ここでは他動詞扱いの「ノブを回すと」になります。

(7) 主語が presenceを含んだパターン
例: However, it is clear that the presence of nitrogen reduces the burning rate of materials.
「窒素の存在は」ではなく、日本語では、「窒素があると」です。

(8) 主語が absenceを含んだパターン
例: In lunar landing, the absence of atmosphere eliminates the possibility of aerodynamic drag recovery.
同様に、「大気の不在は」ではなく、日本語では「大気が無いと」です。

(9) 主語が Thisのパターン
例: In addition, the air-to-air heat exchanger reheats the dried air. This increases air volume and lowers relative humidity.
この場合のThisは、「これ」ではなく、「これにより」です。そして、air volumeとrelative humidityという目的語が日本語では主語になり、increasesとlowersという他動詞が日本語では自動詞になります。

(10) 主語が This+名詞(動詞から転じて来た)のパターン
例: All heat exchangers should be installed in the low-pressure side of a hydraulic circuit. This location eliminates the need for a high-pressure unit, which may be comparatively expensive.
This locationは「この位置は」ではなく、日本語では、「このように据え付けると」となります。

2 動詞別の分類

次は「動詞別の分類」です。ここでは、次の動詞を取り上げています。

(1) require
(2) show that
(3) cause
(4) eliminate
(5) その他の動詞

それぞれの例文は挙げませんが、これらの動詞が無生物主語構文の中でどのように使われるかについてだけ説明をして行きます。

(1) require
(i) require+名詞
この場合には、第2ステップは、単純に、「~が必要になる」で構いません。

(ii) require+動名詞
(iii) require+動詞から転じた名詞

(ii)と(iii)の場合には、第2ステップは、動名詞や名詞を元の動詞に戻して、「~を何々する必要がある」とすると自然な日本語になります。

(iv) require+形容詞+動名詞 [または、動詞から転じた名詞]

(2) show that
show thatで代表させていますが、この中には、indicate that, prove that, reveal that, demonstrate thatなどなど、いろいろあります。
また、主語または主部の主要要素には、普通、動詞から転じた名詞として、つぎのような言葉が来ます。

test (testing)、experience、experiment、research、study、comparison、evaluation、examination、investigation、measurement、analysisなど

(3) cause

(i) cause +目的語+to不定詞).
 例:Excess current causes a wire to overheat.
(ii) cause + 目的語+to不定詞+目的語.
 例:Excess wear would cause a machine to lose accuracy.

(4) eliminate

(i) eliminate the need for
 例:Fast, accurate indexing eliminates the need for special jigs and fixtures.
(ii)  eliminate the possibility of
 例:The use of a pilot filter in front of the pilot valve eliminates the possibility of faulty operation.

3 否定文の分類

この分類の中には、述部にdo notやis notなどの否定詞が使われている例文はもちろんのこと、その他、否定の意味を持つ副詞や形容詞などを使った英例文も収集しています。
日本語の訳としては、例えば、肯定文ならば「ボタンを押すと機械は動く」であったものが、「ボタンを押しても機械は動かない」のように、「押すと」が「押しても」となります。

次回は、「否定構文」です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。