地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第163回 日高貢一郎さん:クールビズは方言ポロシャツで…~茨城県筑西市の事例~

2011年8月13日

ことしは福島県の第一原発の事故に端を発して全国的に電力不足が心配され、この夏はできるだけ冷房を使わないで済ませるよう、例年にも増して「クールビズで過ごそう」と強く呼びかけられています。

猛暑の夏は、ネクタイを外すだけでも体感温度は相当違いますし、だいいち首を締めつけないので気分的にも解放感があり、噴き出る汗の量まで違ってきそうです。

各地で、それぞれの職場の雰囲気にも合うよう、いろいろと工夫を凝らしてこの夏を乗り切ろうとしていますが、今いちばん必要なのは、何よりも私たちの意識の変革でしょう。

茨城県筑西市役所では、くだけ過ぎず、適度な品位も保てるようにと、ポロシャツでの勤務を奨励。市職員互助会と職員組合から選出されたメンバーがアイデアを出し合い、方言を活かした半袖のオリジナルポロシャツを作りました。

【写真1 筑西市役所の方言ポロシャツ(写真提供:筑西市役所)】
【写真1 筑西市役所の方言ポロシャツ】
(写真提供:筑西市役所)
(下は胸のロゴを拡大したもの)
【写真2 胸のロゴ】

胸に青い字で「暑かっぺ だって夏だが しゃーねーべ」と、方言がプリントしてあり、袖口には「ひとりの力が大きな力に chikusei絆project」と、共通語でメッセージが書かれています。
 方言の意味は、同市のホームページによると、「この地方の方言を使って、「夏は暑いに決まっている。仕方がない。この夏を、笑顔で・楽しみながら、頑張って乗り切って行こう!」ということを表現しています」と解説されています。

「暑かっぺ」は、直訳すると推量の意の〔暑いでしょう?〕に当たります。そして、それを承けて〔だって夏だから、仕方がないだろう!〕と、いわば問答体になっており、「夏の暑さはまったくどうにもならないよ、どうにも困ったもんだなぁ」と、嘆息するような、ちょっとユーモラスな気分も感じられる表現になっています。

市役所を訪れる市民からの評判も、好評だとのこと。
 当初は市の職員用として作られたのだそうですが、とかく硬いイメージをもたれがちな市役所がこういうポロシャツを作ったのはユニークだと、新聞各紙や放送などでも取り上げられ、市民からも購入申し込みが相次ぎ、これまでに1300枚以上が販売され、今も売れ続けているということです。
 その売り上げの一部は、震災復興に…と、義援金として日本赤十字社に寄付されているとのことです。

市では、このところの大震災と原発問題にゆれる緊急時に、市職員と市民の一体感が増した気がすると話しています。

《参考》筑西市のホームページには、「クールビズ・アクション ちくせい」として、市庁舎内のエレベーター1台の使用禁止、ポロシャツの推進、冷房の室温28度の厳守、……などの取り組みが挙げられています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。