地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第165回(1) 大橋敦夫さん:上越弁 高田言葉のCD(新潟県上越市)(1)

筆者:
2011年8月27日

CDの内容

「おまんた えますぐ使える えっちょまえの上越弁」と題するCD(2枚組)が作られました。

子どものころから慣れ親しんできた上越市高田地区の言葉が、だんだん使われなくなっていくことに寂しさを感じていた有沢栄一さんの企画によるもので、次のような構成になっています。

(写真はクリックで拡大します)

【写真 上越弁高田言葉CD】

上越弁 高田言葉 その壱 やわやわ生活篇

 1.朝 今日も始まる幸せな一日
  2.兄弟姉妹の呼び方
  3.生きいきした動詞
  4.これであなたも聞き上手 高田言葉の簡単な挨拶
  5.酒場にて 「おまん、きないや」
  6.「そ」だけで成り立つ相槌
  7.酒場にて 「どっさんがん飲んだ」
  8.あくたもくた(罵詈雑言) その1
  9.酒場にて 「ああえっぱい食った」
  10. えちゃぽんさげた!

上越弁 高田言葉 その弐 高田の四季篇

 1.お正月
  2.運動会 血だらまっか
  3.生きいきした動作表現
  4.高田言葉訳 吾輩は猫である
  5.あくたもくた(罵詈雑言) その2
  6.朝市
  7.「なぐるぞ、蹴るぞ、くすぐるぞ」高田言葉 喧嘩の仲裁 兄貴の花道
  8.高田ならではのオノマトペ
  9.高田言葉訳 日本国憲法前文 後段より
  10. 春夏秋冬 高田の四季
  11. えちゃぽんさげた!

子どもの教育に役立ててもらおうとの思いも込められているためか、ナレーションは、落ち着いた声で、語学講座のようにプログラムを進めていきます。

それぞれ、40分ほどの内容ですが、

 「おまんた」[=「あなた」の敬称]
  「ばらこくたい」[=めちゃくちゃ]
  「じょんのびする」[=のんびりする]

など、高田言葉特有の語が取り上げられる一方、

 「えますぐ」[=いますぐ]
  「えっちょまえ」[=いっちょうまえ・一人前]

のような、「い」と「え」の交替についても織り込まれ、CDならではの生き生きとした会話が展開されています。

また、高田言葉訳の「吾輩は猫である」や「日本国憲法 前文」もあり、方言で語られると、深みや説得力が増すようにも感じられます。

製作者へのインタビューは(2)へ >>

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。