地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第169回 山下暁美さん:カナダの英語方言

筆者:
2011年9月24日

世界の共通語といわれる英語ですが、それぞれの地域によって英語にも方言があります。日本人が話す英語も方言なのです。地方色をいかして、堂々と話しましょう!!

今回は、カナダのオンタリオ州ロンドン市の英語方言を中心に紹介します。“laundromat”【写真1】は、コイン・ランドリー(和製英語)です。“laundro”は、“laundry”で、“mat”は“automatic”つまり オートマチックな洗濯屋というわけです。“coin wash”【写真2】という看板もありました。小銭のコインを洗ってくれる?と誤解して店をのぞいてみると、コイン・ランドリーでした。“coin wash”は、アメリカ東部でも使用されていますから、国境を越えて侵入したのでしょう。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1 LANDROMAT(カナダ)】
【写真1 LANDROMAT】
【写真2 COIN WASH(カナダ)】
【写真2 COIN WASH】

次の例は、モンゴル料理の店内で見つけた“washrooms”(お手洗い【写真3】)です。男女別に2部屋あるので複数形になっています。Google mapsで確認してみると、“washroom”(ヒット件数11266件・2011/9/8調べ)は、カナダのロンドン市を含むオンタリオ湖周辺、アメリカも東部カナダ国境近くに分布が集中しています。イギリスの中南部、マンチェスターやロンドン(イギリス)周辺に分布することから、イギリス英語の影響が考えられます。

【写真3 WASHROOMS(カナダ)】
【写真3 WASHROOMS】

一方、“restroom”(ヒット件数104360件・同日調ベ)は、アメリカを中心として用いられ、イギリスでもカナダでも、あまり使用されないようです。Charles Boberg(2011)の研究によると、カナダにおける“washroom”の使用率は、51%とされています。

次の【写真4】“CANAJAN, EH”は、ロンドン市(カナダ)の図書館で見つけた本の表紙です。“CANAJAN”(Canadian・カナダ人)は、カナダ人が話す英語の発音を表しています。“EH”は、“right?”“don’t you think so?”(でしょ?)の意味です。

【写真4 CANAJAN, EH(カナダ)】
【写真4 CANAJAN, EH】

言葉は、遠くからのおおぜいの人の移動にともなって伝わる場合、遠隔地への飛び火、古語残存など、さまざまな方法で伝わります。

参照:Charles Boberg(2011)Methods in Dialectology 14 ハンドアウト

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。