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耳の文化と目の文化(29)―地名の表記(3)―

2011年 10月 3日 月曜日 筆者: 新田 春夫

クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(116)

ドイツ語の正書法では[k]の音はkで表し、cで書かれる語はラテン系言語からの外来語である(例:café「コーヒー店」)。また、本来cで表記される語であってもドイツ語の語としてはkで書かれるようになったものも多い(例:Kaffee「コーヒー」)。このことは地名に関しても言える。従って、ドイツの地名でありながらcで表記されたものはたいへん目立つように感じられる。

前回(第115回)、ウムラウトに関連して、Kölnケルンはローマ人によって建設された植民都市を意味するcoloniaに由来することを述べた。このKölnの表記はその語頭のkも本来はcであったがドイツ語の正書法に従いkになった。実際に、中世ではCöllenという表記もみられる。また、シュプレー河畔のベルリンにCöllnという地区があるが、これは1200年頃にライン河畔のKölnからやって来た入植者が故郷の町の名前に因んでつけた名前である。

紀元前後にローマ人が建設した植民都市はライン河畔の各地にある。ライン川にモーゼル川が流れ込む地点にあるKoblenzコブレンツはラテン語のconfluentes「合流」に由来し、1926年まではCoblenzと表記されていた。また、ライン川の発するボーデン湖に臨むKonstanzコンスタンツもローマ皇帝Constantius Chlorusの名前を冠したローマ人の要塞であったことによる。実際、中世ではConstantzと表記していた。

ラテン語に直接に由来しない場合もある。中部ドイツ、ヘッセン州にあるKasselカッセルはフランケン方言cassellaに基づくが、これはラテン語castellum「要塞」からの借用語である。Casselという表記も中世にはまだあった。また、南西ドイツのフライブルクからライン川を渡ってフランスのシュトラスブルク/ストラスブールへ向かう地点にKehlケールという町がある。この名前は中世ドイツ語のkanel「管、雨樋、溝、用水路、運河」に由来し、同じ意味のラテン語のcanalisからの借用語である。この場合、kanelはライン川の支流を指していると思われる。

【筆者プロフィール】

新田 春夫(にった・はるお)
武蔵大学教授
『クラウン独和辞典第4版』編集委員

【編集部から】

2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

2011年 10月 3日