地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第172回 井上史雄さん:関西弁「はんなり」のグーグルインサイト世界分布
Global distribution of Kansai dialect “hannari” by Google insights

筆者:
2011年10月15日

「はんなり」は京都弁として有名になりました。本来は「落ち着いたはなやかさ」を表わすことばだそうです。インターネットの「グーグルマップ」Google mapsの機能を活用して、アルファベットの“hannari”で検索すると、関西だけでなく全国各地で使われることが分かります。

【図1 グーグルマップの “hannari”】
【図1 グーグルマップの “hannari”】(クリックで拡大表示)

【図1】には出ていませんが、沖縄にもう1箇所あります。また範囲を世界に広げると、アメリカの店名や、「hannari tofu」で使われていることが分かります。関西方言が今や海外の店名などに進出しているのです。「OKINI」「MAIDO」も海外で使われます(第127回参照)。

【図2 グーグルインサイトの “hannari”】
【図2 グーグルインサイトの “hannari”】(クリックで拡大表示)

「グーグルインサイト」Google insightsは、もっと強力です(第167回参照)。使われ方が色の濃さで出るだけでなく、グラフに最近数年間の推移が出るのです。アルファベットの“hannari”で検索すると、【図2】のように日本とアメリカの使用がくっきり出ます。また【図2】上のグラフで、青線の“hannari”が2007年に現れ、2008年に急増したことが分かります。赤線のひらがなの「はんなり」も2008年に急増しました。最近の方言進出が示されています。

国内の分布を見るグーグルマップは「鳥の目図」(鳥瞰図)といえますが、過去までさかのぼり未来まで予測するグーグルインサイトは「魔女の目図」といえます。

なお「はんなり」は、第29回第79回でも紹介されています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。