大規模英文データ収集・管理術

第10回 「トミイ方式」の変遷・1

筆者:
2011年10月24日

ここでは35年近く前に産声をあげた「トミイ方式」が今日まで、どのような形の変遷をしてきたかについて、下に示す4つの時代に分けて述べます。

(1) 赤線時代
(2) ノート時代
(3) カード時代
(4) コンピュータ時代

今回は、“(1) 赤線時代”と“(2) ノート時代”について説明します。

(1) 赤線時代

「赤線時代」というと、一瞬、懐かしい、妙な響きがありますが、その「赤線時代」とは違います。データ収集方法の1つとして、「欲しいデータに赤い傍線を引く」というやり方をしていた、そのような時代のことです。

だれでも、日本語とか外国語とかに関係なく、物を読んでいて何かハッとするようなところに来ると、そこに赤色の傍線を引きます。

筆者が赤線を引くのは、英語に関しては、今まで述べてきたように7つの大分類に属するデータということになりますが、日本語に関しては、自分の知らなかった情報や、数値的なデータ、格言や諺、真似のできない妙なる表現、表現のバリエーション、蘊蓄のある考え方といったものに赤い傍線を引きます。人によって興味や関心の向く対象はそれぞれ異なりますが、ほとんどの人が実践していることと同じです。

しかし、赤線を引くだけでは、やがてその読み物はどこかへ消えてしまうでしょうし、消えなくとも、何の本の何ページにあったか思いだすには時間がかかったり、思い出せなかったりするものです。これでは、実は、赤い傍線を引いても、単に気休めになるというか安心感が得られるだけで、何の意味もありません。

このようなことをしている時代を、筆者の「トミイ方式」の変遷の中では、「赤線時代」と称しているわけです。しかし、それでは、時間が経つに従って、せっかく収集した――実は収集したわけではなく、収集したと思いこんでいるだけなのですが――データも散逸してしまいます。そこで、考え出したのが、収集したデータをノートに記録することです。

(2) ノート時代

収集した英文データをノートに書き取っていた時代です。データに赤線を引いておくだけではなく、なんとか記録にとどめておきたいという思いで始めたのが大学ノートに書き留めておく方法です。

最初は大学ノートに書き込んでいましたが、いろいろな理由から、すぐにルーズリーフノートに切り替えました。

(a) 大学ノートに

最初のしばらくは、データの量も少なかったこともあり、ただやみくもに、日付を付けて集まった順に、備忘録程度の気持ちで書き込んでいました。

しかし、それではすぐに行き詰ってしまい、1冊の大学ノートを数ページずつのグループに分け、最初からある程度の分類、例えば、商業文の英文例、技術的内容の英文例、各種表現の英文例、各種品詞の参考例文、コロンやセミコロンやハイフンなどの使用例、契約書や特許文などの英文例などなどに分類しながら記録できるように変えてみました。しかし、最初はこの程度に分類しただけでかなりの改善がなされたはずであると思って始めてみても、いざ実際に収集が進んでいくと、これも、すぐに行き詰まりを起こしてしまいました。

(b) ルーズリーフノートに

そこで、次に考え出したのが、ルーズリーフノートを使用する方法です。ルーズリーフノートならば、最初から考えられうるたくさんの分類をしておきさえすれば、新たな分類を加えるにしても、さらに分割するにしても、場所を移動させるにしても、簡単にできると考えたわけです。しかし、これも収集がさらに進むに従い、あっという間に行き詰まりをきたしてしました。

筆者は、数年前、ある必要から、全ての英文データを、仮に「トミイ方式」で分類した場合、その末端単位はいくつくらいあるか調査したことがあります。すると、43,000個から45,000個ありました。

このようにたくさんある分類単位を、たとえルーズリーフノートといえども、最後まで行き詰まりを起こすことなく機能を発揮できるはずなどありません。

そこで、次に考え付いたのが、図書カードを使った「カード方式」です。これについては次回述べますが、この「カード方式」にもいくつかの行き詰まりがあり、いろいろ試行錯誤しましたが、10年ほど前「コンピュータ方式」を採用するまで、実に20数年使ってきた、まさに「トミイ方式」の根幹を貫いてきた柱です。今になって考えてみますと、「赤線時代」はもちろんのこと、「ノート時代」などは有史前のことであり、この「カード時代」の到来こそが「トミイ方式」の歴史の始まりであったように思います。

今、上で、“「コンピュータ方式」を採用”と書き、あえて“「コンピュータ方式」への切り替え”とは書きませんでした。それにはわけがありまして、実は「コンピュータ方式」を採用した後も、「カード方式」の良さは「コンピュータ方式」にはないものがあり、筆者は今だに「カード方式」を使っているからです。その理由は、「第12回 (4) コンピュータ時代」で詳しく述べますが、簡単に言いますと、「コンピュータ方式」には、英文データそのものに、種類の制約、即応性の限界、「トミイ方式」の理解度などなど、いくつもの課題があるということです。

次は、第11回「(3) カード時代」です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。