ドイツ料理―メットヴルスト(Mettwurst)―
2011年 11月 7日 月曜日 筆者: 石井 正人クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(120)
初めてドイツで暮らして日も浅かった頃に、ドイツのスーパーマーケットで日本でも見慣れた赤いフィルムでラッピングされたソーセージを見つけた。買って帰って、おとなしくパンといっしょに食べようと思ったら、凹むばかりで、フィルムの上からナイフが入らない。ミートペーストをソーセージの形にまとめてフィルムでくるんであるのだと分かり、仕方ないので果物のようにフィルムをむいて、パンに塗って食べた。結果的に正しい食べ方であったようだ。Mettwurst との初めての出会いである。
子供の頃家中で父だけがレバーペーストが好きで、輸入品がよくうちにあったから、満更知らないものではなかった。けれども好きではなかった。レバーの血なまぐささが嫌いであっただけではない。考えてみれば例えば練りウニと同じ理屈の食べ物なのだが、肉のペーストというもの自体がどうもぞっとしなかったのだ。
古くに低地ドイツ語から入ってきたこの言葉の、Mett- というのは、脂身のない豚の赤身のミンチを意味し、英語の meat と同語源なのだそうである。そうだとすると、よく意味の分からない命名である。脂身のない肉などは下等で人気のない部分だから、これは私見だが、「普段の食事用の、すぐ食べられる」というような意味だったのではないだろうか。
あまり食指の動かなかったこういう Mettwurst も、ドイツ生活に慣れてくるに従い、ちゃんとした肉でありながら、日持ちがし、手軽にさっとパンに塗って食べられ、しかもボリュームも栄養もあるとなると、手放せなくなってくる。私は古い世代に属するからこうなるまで一段階経ねばならなかったが、子供達となると最初から「紅毛人の野蛮な肉食」を恐れ嫌う心性など持ってはいないから、すぐに Mettwurst は好物となって、帰国後も日本で手に入らないのを嘆くほどであった。
最近ようやく独仏の輸入品が少しずつ手に入るようになった。また本格的なハム・ソーセージの職人が日本でも育ってきて、「生サラミ」などという名前を付けたりして、広めようとしているようだ。
【筆者プロフィール】
石井 正人(いしい・まさと)
千葉大学教授
専門はドイツ語史
『クラウン独和第4版』編修委員
【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
2011年 11月 7日







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