歴史を彩った洋楽ナンバー ~キーワードから読み解く歌物語~

第7回 Stand By Me(1961, 全米No.4, 全英No.1)/ ベン・E・キング(1938-)

2011年11月23日
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●歌詞はこちら
https://www.google.com/search?q=stand+by+me+lyrics

曲のエピソード

ここ日本でも未だに人気が衰えない曲で、CMソングにもカヴァーを含めて頻繁に使われている。また、アメリカの人気作家スティーヴン・キング(Stephen King/1947-)の中編小説『THE BODY』(1982)をベースにした映画『STAND BY ME』(1986)の主題歌になったことから、同映画の大ヒットと共に曲もリヴァイヴァル・ヒットし、1986年に全米No.9を記録。なお、再レコーディングではなく、オリジナル・ヴァージョンと同じものが改めてシングル化されてヒットした。

1950年代後期~1960年代に人気を博したR&Bヴォーカル・グループのザ・ドリフターズ(The Drifters)に1959年からわずか1年間だけ籍を置き、後にソロ・シンガーに転向したベン・E・キングの最大ヒット曲で、R&Bチャートでは4週間にわたってNo.1の座に就いた。もともとはドリフターズのために書き下ろしたものだったが、彼らがレコーディングを拒否したため、ベン自身が歌うことに。一聴するとラヴ・ソングに聞こえることから、英語圏では結婚式に歌われることも多い。が、アフリカン・アメリカンの人々が「我々にも公平な権利を」と訴えたいわゆる公民権運動の萌芽を感じさせる1961年という時代を考えれば、この曲がある種のメッセージ・ソングとして捉えられたおかげでヒットしたことも見逃せない事実。さらには、曲の成り立ちには、ある有名なゴスペル・ソングが深く関わっていたのだった。

曲の要旨

誰しも、言いようのない不安に駆られて心細い気持ちになることがある。そんな時、ひとりでも自分の支えになってくれる相手がいれば、弱気な気持ちを奮い立たせることができるもの。自分を取り囲む世界がガラガラと音を立てて崩れるようなことがあっても、救いの手を差し伸べてくれる誰かがいてくれる限り、へこたれたり泣いたりしてなんかいられない。自分の支えになってくれる人の優しさを心張棒にして、何とか前を向いて生きていこう。

1961年の主な出来事

アメリカ: キューバとの国交を断絶。
  人種差別反対運動のデモ隊フリーダム・ライダーズの活動が南部で活発化。
日本: 三重県名張市で死者5人を出す毒物混入事件が発生。
世界: ソヴィエト連邦(当時)が人類初の有人衛星の打ち上げに成功。

1961年の主なヒット曲

Will You Love Me Tomorrow/シュレルズ ※シレルズという表記もあり
Surrender/エルヴィス・プレスリー
Runaway/デル・シャノン
Hit The Road Jack/レイ・チャールズ
Please Mr. Postman/マーヴェレッツ

Stand By Meのキーワード&フレーズ

(a) the land
(b) stand by me
(c) shed a tear

「ダーリン」。昔から愛しい人を指すカタカナ語として用いられてきた。では、この曲では誰を指すのか? 単純に考えれば、曲の主人公の側に寄り添ってくれる愛しい人だ。が、じつはここでくり返し歌われる“darlin’(本来はdarling)”は、一種のオブラート的効果となっている。何故か。

じつはこの曲には、元歌がある。「ゴスペル音楽界のキング」、若かりし頃は「ゴスペル音楽界の皇太子」という御大層な異名をとった、アメリカの超有名牧師ジェームス・クリーヴランド(James Cleveland/1931-91)が作ったゴスペル・ナンバー「Oh Lord, Stand By Me」である。シカゴを拠点に活動したクリーヴランド氏は、高名な牧師として、そしてゴスペル界の重鎮として知られた人物。元歌となった同曲の歌詞はこちら↓

//www.higherpraise.com/lyrics/praisethelord/7_praisethelord1622.htm

どうです? 歌詞の内容が似ていると思いませんか?

そう、この曲は、もともとはゴスペル・ナンバーだったのである。ベン自身もそのことを否定していないから、今さら隠すことは何ひとつない。タイトルからゴスペル・ナンバーを瞬時に想起させる「Oh Lord」を取っ払い、さらに歌詞にラヴ・ソング風の味付けをした。それが、オブラート的効果と言った”darlin’”の部分。

英語では、ゴスペル音楽を俗に“God’s music(神様を称える音楽)”と呼び、非ゴスペル音楽、日常生活の出来事を歌った流行歌の類を、それと相反するものとして“Secular Music(世俗の音楽)”と呼ぶ。熱心なクリスチャンや教会関係者の中には、“Devil’s Music(悪魔の音楽)”とキツい言葉で呼ぶ人も。つまりベンは、神様を称える曲を悪魔の音楽にすり替えてしまったのだ。“darlin’”のフレーズを付け加えて歌った瞬間に。

試しに、「Stand By Me」の“you”の部分を“God”や“Jesus”、“Lord”に置き換えてみると――その際、歌詞から“darlin’”をひとつ残らず削除することも忘れずに――アラ不思議! そのまんまゴスペル・ナンバーとして通ってしまう。そしてこれこそが、ベンの狙いだったのだと思う。

クリスチャン以外の人々にも聴いてもらうために、主語をボカして綴られた歌詞や洗練されたサウンドをあえて施したものを、俗に“Contemporary Gospel(現代的なゴスペル)”と呼んだりする。もしもこの曲に“darlin’”のくり返し部分がなかったなら、間違いなくそのジャンルに含まれていたことだろう。但し、“Contemporary Gospel”なるジャンル名はそう古くはなく、この曲が大ヒットしていた頃には、まだその名称が存在していなかった。何せ当時は、レイ・チャールズがゴスペル風のサウンドを従えてR&Bを歌っただけで(その時、“ソウル・ミュージック”が誕生したと言われている)、教会関係者たちに「地獄へ落ちろ!」とののしられた時代だから。ベンはプロとしてデビューした時から世俗のシンガーだったから、ゴスペル・ソングを下敷きにした曲に“darlin’”を付け加えても教会関係者たちから後ろ指を指されずに済んだわけである。

(a)を辞書で調べてみると、「[the ~] 田舎、地方」なんていう意味が載っている。必ず定冠詞を伴う。仮にそこが“in this land”なら、「この国で」という意味になる。でも、ちょっと待って欲しい。ベンはこの曲を田舎暮らしの人々に向かって歌っているのか? 答えは否、である。恐らく聴く側は、“the land”を“my land”に変換して解釈しただろうし、拡大解釈するなら、「自分たちが置かれている情況」を“the land”に重ね合わせて聴いたのではないか。1~3行目は、直訳しても意味が通ることは通るが、ここを「辛い目に遭っている」ことを示す比喩的表現だと思えば、“the land”の解釈も違ってくる。そして「ただひとつの明かり」として登場する「月明かり」は、今にも消えてしまいそうな最後の望みの綱なのだ。

この曲がリヴァイヴァル・ヒットしたきっかけを作った映画のタイトルにもなった(b)は、直訳すると「僕の側に立っていてくれ」だが、ご存じのように、この曲で歌われている意味の「~の味方になる、~を援助する」は、辞書の“stand”の項目にもしっかり載っている。そこに他の意味を付け加えるとしたら、「~を支える、~の力になる」だろうか。この曲では、むしろこっちのニュアンスが強い。

(c)を採り上げたのは、今一度、“tear”を辞書で調べていただきたいから。これが可算名詞だということを、意外に思う人もいるかも知れない。“rain”は不可算名詞だけれども、“raindrop”は可算名詞、と言えば解りやすいかも。共通しているのは、どちらも“一滴、二滴”と数えられるという点だ。では、何故にこの曲では複数形の“shed tears”になっていないのか? 普通は複数形で用いられることが多いのに。そこには、ある決意が込められているのである。「涙を一滴もこぼさないぞ」という固い決意が。かなり飛躍して意訳すると、「絶対に泣くもんか」となる。単数形の“tear”をわざわざ用いた(c)は、強い意志の表れ。これは公民権運動と連動して大ヒットしたものだ、と、その昔、大先輩の音楽評論家W氏から言われた記憶がある。ベンはそこまで考えていなかったかも知れないが、「泣くもんか」のフレーズを聴けば、何となくそのことに合点がいく。

ベンのインタヴュー映像で、彼がこの曲を「愛する人を思い浮かべながら作った」と語っていたのを聞いた。穿った見方をすれば、元歌への遠慮がそうした発言の根底にあったのではないか。少なくとも、似て非なるものとは言え、「Oh Lord Stand By Me」がなかったなら「Stand By Me」もなかったわけだし。ベンの立場上、♪… darlin’… を加えて非ゴスペル・ナンバーに仕立て直す必要があったのでは……? 何よりも、この曲がクリーヴランド牧師から盗作だとして訴えられたことが一度もなかった、という事実が、そのことを雄弁に物語っている。

 

筆者プロフィール

泉山 真奈美 ( いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「リリック英文法」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。近作はマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツ。

編集部から

ポピュラー・ミュージック史に残る名曲や、特に日本で人気の高い洋楽ナンバーを毎回1曲ずつ採り上げ、時代背景を探る意味でその曲がヒットした年の主な出来事、その曲以外のヒット曲もあわせて紹介します。アーティスト名は原則的に音楽業界で流通している表記を採りました。煩雑さを避けるためもあって、「ザ・~」も割愛しました。アーティスト名の直後にあるカッコ内には、生没年や活動期間などを示しました。全米もしくは全英チャートでの最高順位、その曲がヒットした年(レコーディングされた年と異なることがあります)も添えました。

曲の誕生には様々なエピソードが潜んでいるものです。それを細かく拾い上げてみました。また、歌詞の要旨もその都度まとめましたので、ご参考になさって下さい。