地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第179回 山下暁美さん:男の方言・女の方言

筆者:
2011年12月3日

昨年、NHK大河ドラマ「龍馬伝」が放送されました。福山雅治さん演じる坂本龍馬は、本物に比べると随分男っぷりがよくなりました。奥さんのおりょうさんもさぞ満足だったでしょう。教科書等でおなじみの龍馬は、小柄で痩せ型、ふところに右手を入れ、台にもたれかかっています。一説によると写真でふところに手を入れているのは、銃を持っていたからだと言われています。男優の福山さんが「団子屋でまっちゅうぜよ」などといえば、おりょうさんでなくても多くの女性が団子屋へ押しかけることうけあいです。「おー 今日も待ちよったぜよ。悩みがあるがか? 何でもゆーたらえいがよ」(第113回参照)などと言って日本中のふがいない男性の代弁をしてくれます。

このように「龍馬伝」では、土佐方言が多く使われていました。昨年は、観光客も増加して市内では今も多くの方言が見うけられます(第176回参照)。例えば「心はいつも太平洋ぜよ」【写真1】と工事現場に貼られていました。高知県は太平洋に面していて、空港には「カツオやけん たべてみいや うまいけん」【写真2】とカツオの宣伝がありました。方言番付の扇子も見つけました【写真3】。龍馬のイメージにぴったりの「~ぜよ」【写真4】は、絵葉書になっています。左手に銃をかざした龍馬ですが、「I was born in Kochiぜよ。」と読むのでしょうか。なるほど方言と英語のコラボレーションです。とても男性的なイメージの強い方言です。

(画像はクリックで拡大します)

左:【写真1 「太平洋ぜよ」】 右:【写真2 「うまいけん」】
左:【写真3 方言番付扇子】  右:【写真4 「ぜよ。」】

このシリーズでは、これまでさまざまな方言グッズが紹介されてきました。その中から78の方言について、それぞれの方言を聞いたとして、話し手が男性をイメージするか、女性をイメージするか、関東出身の大学生14名に共通語訳をつけてたずねました。男性をイメージするという人が多かったのは、土佐方言の「うまいぜよ・待っちゅうぜよ」、大阪方言の「すんまへん・どないやねん・好っきゃねん・ええか・ごっついな」、石川方言の「乗らんけ」、宮崎方言の「どげんかせんといかん」などでした。一方、女性をイメージする方言の例は、京都方言の「おこしやす・そうどすえ・おいでやす」、山口方言の「おいでませ」、宮崎方言の「よう来たなせえ」などでした。茨城方言の「暑かっペ」や福島方言の「休んでいがんしょ」、山形方言の「なんじょだべ」(いかがですか)など、東北方言は、どちらともいえないという回答が多かったです。

同じ男性をイメージする方言でも土佐方言は、志士にぴったりという印象を受けるのに対して、大阪方言は、どことなく腰の低い商人文化を思わせる一面があるようです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。