地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第180回 大橋敦夫さん:おもてなしの気持ちを方言にこめて(長野市)

筆者:
2011年12月10日

長野市内では、毎年2か所にスポットがあてられ、観光地を積極的にPRしています。今年は、信州新町と篠ノ井。それぞれ「2011信州新町イヤー」「2011篠ノ井イヤー」のスローガンのもと、さまざまな催し物が企画され、観光客の呼び込みを期待しています。

【くつろいでけさ、信州“心”町】
【信州新町のポスター「くつろいでけさ、信州“心”町」】(クリックで全体を表示)

信州新町のポスターやチラシでは、「寄ってけさ」「くつろいでけさ」と呼びかけています。「さ」は、共通語では「よ」に相当し、勧誘の文には付きにくいとされています。が、「さ」が付くと、暖かみが増すように感じられますが、いかがでしょうか。新町を「心町」と表現している点とあわせて、製作者のねらいがこのあたりにあるようですね。

一方、篠ノ井には、駅前商店街のなかに、「駅前案内所・お休み処 およんなし亭」が開設されています。

【およんなし亭 入り口柱】
【およんなし亭 看板】
【およんなし亭の入り口柱と看板】

「どうぞお寄んなして」[=どうぞお寄りください]にかけた命名で、「当地の最高のホスピタリティをあらわす言葉として名づけました。」とは、内山 一氏(篠ノ井地区まちづくり研究会会長)の弁。

「観光客の方はもちろん、地元の方にも向けた表現・施設で、お気軽にご利用ください。」との由。

寒さの折から、皆様、信州へ心も暖まりに、どうぞおよんなして。

なお、類例が第133回で紹介されています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。