フランク・エドワード・マッガリン(7)
2011年 12月 15日 木曜日 筆者: 安岡 孝一タイプライターに魅せられた男たち・第17回
1888年8月18日、ニューヨークに戻ったマッガリンは、『The Phonographic World』誌編集長のマイナー(Enoch Newton Minor)に面会を求めました。新たなタイプライターコンテストをおこなうべく、『The Phonographic World』誌に以下の手紙を掲載してもらうためでした。
私はここに、実務におけるオールラウンドなタイピストの世界一を決定すべく、次に述べるようなスピードコンテストの形式で、皆さんに挑戦したいと思います。
タイピングする文章も、コンテストに要する時間の長さも、そしてコンテストの賭金も、全てコンテストの相手方に一任いたします。ただし、タイピングする文章は、相手方にとっても未見のものとし、コンテストのために新たに作られたものではなく、それまでに既に存在している文章とします。また、両者の本当の技量をはかるべく、ちょっとしたアクシデントが結果に影響しないように、コンテストに要する時間は十分に長く取るものとします。相手方は、大文字のみしか打てない機械を用いても、大文字小文字の両方が打てる機械を用いてもかまいませんが、大文字のみの機械の場合には、その旨をコンテストの30日前に私に知らせるものとします。
なお、この挑戦に対する私の決意の証しとして、本日1888年8月18日、私はマイナー氏に25ドルをお預けいたします。コンテストの相手方が、万難を排して私の挑戦を受けて下さったにもかかわらず、私がコンテストの場に現れなかった場合には、この25ドルを受け取って下さって結構です。
フランク・E・マッガリン
マッガリンがトロントでオール女史に敗退したのは、コンテストの時間が合計10分と短かったから、と言わんばかりの手紙です。しかし、マッガリンのこの挑戦を受ける相手は、残念ながら現れませんでした。
4日後の8月22日、マッガリンはレークジョージにいました。ニューヨーク州速記者協会の第13回年次大会に出席するためでした。マイナーの紹介で同協会の名誉会員となったマッガリンは、デメントやオズボーンとのタイプライターコンテストを希望していました。しかし、デメントもオズボーンも、マッガリンとの一戦を望まず、結局、マッガリンが単独で、口述タイピングのトライアルをおこなうことになりました。1回目のトライアルで、マッガリンは5分間に554ワードを叩き、打ち間違いを除いた結果は544ワード、毎分平均108.8ワードで、マッガリン自身にとっても新記録となりました。2回目のトライアルは毎分平均102ワード、3回目のトライアルは毎分平均106.7ワードでした。また、4回目のトライアルでマッガリンは、目隠しをしたまま1分間に109ワードを叩き、打ち間違いを除いた結果は107.8ワードでした。この結果を目の当たりにしたデメントは、同様の公開トライアルをシカゴでもおこなってほしい、とマッガリンに提案しました。
(フランク・エドワード・マッガリン(8)に続く)
【筆者プロフィール】
安岡孝一(やすおか・こういち)
京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)、『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。
http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。
編集部から
安岡孝一先生の新連載「タイプライターに魅せられた男たち」は、毎週木曜日に掲載予定です。
ご好評をいただいた「人名用漢字の新字旧字」の連載は第91回でいったん休止し、今後は単発で掲載いたします。連載記事以外の記述や資料も豊富に収録した単行本『新しい常用漢字と人名用漢字』もあわせて、これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。







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