歴史を彩った洋楽ナンバー ~キーワードから読み解く歌物語~

特別編・1 定番クリスマス・ソング

2011年12月21日
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「White Christmas」

●歌詞はこちら
//www.carols.org.uk/white_christmas.htm

“white”が「雪景色」を指すことは、みなさん先刻ご承知でしょう。クリスマスに雪が降ってくれればいいのに…と願うのは、主に豪雪地帯以外の都市部に住む人々。日本の商業施設がクリスマス・シーズンに人工雪を降らせるようになったのは近年のことですが、確かに、クリスマスに雪が降ったらロマンティックな雰囲気が倍増しますね。ですが、冬が訪れる度に、豪雪と闘う人々がいることも忘れてはならないと思うのです。「銀世界のクリスマス」が、必ずしも万人に歓迎されるとは限らないのですから。

この曲では、「昔、過ごしたようなホワイト・クリスマスに思いを馳せている」と歌っていますので、歌い手が、以前は冬になると雪が降る場所に住んでいたことが判ります。珍しいのは、歌詞に登場する複数形の“Christmases”。それから判断すると、歌い手が語りかける“you”が、複数の人々もしくは不特定多数の人々(この曲を聴いている人々)を指していることは間違いありません。「みなさんがそれぞれ過ごすクリスマスが楽しいものになりますように」、「みなさんが銀世界の中でクリスマスを迎えられますように」と歌っているので、複数の人々が過ごすクリスマスを複数形で表しているわけです。

この曲を最初にレコーディングしたのは、アメリカの人気ポピュラー・シンガーだったビング・クロスビー(Bing Crosby/1903-77)で、1942年のアメリカ映画『HOLIDAY INN』の挿入歌でした。その際、主にミュージカル映画の中、女優の代わりに「吹き替え歌」を生業としていたマーサ・ミアーズ(Martha Mears/1910-86)とのデュエットだったのです。ミュージカル映画では、女優が歌うシーンで必ずしも本人が歌っているとは限らない、という場合があります。映画『WEST SIDE STORY(邦題:ウエスト・サイド物語)』(1961)の主役のひとり、ナタリー・ウッド(Natalie Wood/1938-81)が劇中で歌っている箇所を、じつは別の女性が歌っていた、というのは余りにも有名です。「White Christmas」のオリジナル・ヴァージョンがデュエット・ナンバーだった、というのには、ちょっと驚きますね。クロスビー名義の「White Christmas」は、一種の季節ものの商品でありながら、シングル曲として1955年に全米チャートでNo.7を記録しています。

忘れられないのは、R&B/ソウル・シンガーのオーティス・レディング(1941-67)が歌ったヴァージョン。クリスマス・ソングのコンピレイション・アルバム『SOUL CHRISTMAS』(1968)に収録されているそれは、歌詞こそ「White Christmas」ですが、メロディからして全くの別物です。歌詞に頓着しなければ、全くクリスマス・ソングに聞こえません。ご興味のある方は、ぜひ聴いてみて下さい。

過去に、無数のアーティストがこの曲をレコーディングしました。クリスマス・ソングの定番中の定番と言えるでしょう。

「Rudolph, The Red Nosed Reindeer」

●歌詞はこちら
//www.carols.org.uk/rudolf_the_red_nosed_reindeer.htm

「赤鼻のトナカイ」の邦題で知られる、代表的なクリスマス・ソングのひとつです。アメリカ生まれの曲で、初めてこの曲が世に現れたのが1949年ということですから、かなり古いですね。タイトルからも判るように、赤い鼻を持つルドルフという名前のトナカイが主人公。子供たちにプレゼントを配るためにサンタクロースが乗るそりを引っ張るトナカイのうちの一頭です。鼻が赤いため、他のトナカイたちからからかわれたりイジメられたりしますが、ある年のクリスマスの夜、「お前の赤い鼻は光っていて明るいから、今夜はわしのそりを先頭に立ってそりを引いてくれないかね?」とサンタクロースがルドルフに言います。ルドルフにとってはとても名誉なこと。おそらく他のトナカイたちが羨望の眼差しを向けたことでしょう。

筆者が通っていた私立幼稚園はミッション系ではありませんでしたが、12月にはクリスマス会が催されました。その際、この「赤鼻のトナカイ」を歌った記憶があります。当時はただ歌詞を覚えて先生に言われるがままに歌ったに過ぎません。ですが、この仕事に就いてから、過去に数え切れないほど様々なアーティストによるこの曲を訳してみて、歌詞のメッセージ――他の人と異なる特徴を持ち、そのことでいじめられてしまう子供を「その特徴こそが君の長所なんだよ」と励ます――を知るに至りました。明るいメロディに惑わされがちですが、じつは「赤鼻のトナカイ」には、深いメッセージが込められているのです。

「I Saw Mommy Kissing Santa Claus」

●歌詞はこちら
//www.lyricsfreak.com/j/jackson+5/i+saw+mommy+kissing+santa+claus_20068483.html

「ママがサンタにキ(ッ)スした」の邦題で知られる、楽しいクリスマス・ソング。何と言ってもジャクソン・ファイヴ(J5)のヴァージョンが有名です。クリスマス・シーズンが近づくと、必ずと言っていいほどFEN(現AFN)で流れていたことを憶えています。

J5のメンバーの中で最年少だったマイケル・ジャクソンが、兄たちに向かって「ママがサンタさんにキスしたところをホントに見たんだよ!」と懸命に訴える箇所が何とも可愛らしいですね。父親がサンタクロースに扮して夜中にこっそり子供の枕元にプレゼントを置く、というのは、日本でもすっかり定着した習慣です。サンタクロースの姿をひと目でいいから見たい、と強く願って夜更かしをした子供が、よもやそれが父親だとは気付かずに、サンタクロースが母親にキスするところを目撃してビックリ仰天! その子の頭は混乱してしまいます。そのおかしみを歌った曲ですから、大人のシンガーには似合いません。

オリジナルは、アメリカのシンガー、ジミー・ボイド(Jimmy Boyd/1939-2009)によって1962年にレコーディングされました。彼が13歳の時のことです。ちなみに、マイケルがこの曲をレコーディングした時は12歳でした。J5名義のクリスマス・アルバムの他、彼らが所属していたモータウン・レーベルからリリースされているクリスマスのコンピレイション・アルバムにも必ずと言っていいほど収録されています。

上記の3曲以外にも、日本人に親しまれているクリスマス・ソングはたくさんあります。『聖書』の場面に基づく、いわゆるクリスマス・キャロル(クリスマス聖歌)とは異なり、宗教色の薄いクリスマス・ソングには、みなさんもご存知の「ジングル・ベル(Jingle Bells)」(サンタクロースが乗るそりの鈴の音がテーマ)、「ウィンター・ワンダーランド(Winter Wonderland)」(クリスマスの日を迎える高揚感を歌った楽しい曲)、「サンタが町にやってくる(Santa Claus Is Coming To Town)」(タイトル通り、自分の住む町にサンタクロースがやってくるのを待ち焦がれる曲)などがありますよね。そうした曲も、非クリスチャンの人々の間にクリスマスを浸透させるのに一役買ったことは紛れもない事実でしょう。

筆者プロフィール

泉山 真奈美 ( いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「リリック英文法」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。近作はマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツ。

編集部から

ポピュラー・ミュージック史に残る名曲や、特に日本で人気の高い洋楽ナンバーを毎回1曲ずつ採り上げ、時代背景を探る意味でその曲がヒットした年の主な出来事、その曲以外のヒット曲もあわせて紹介します。アーティスト名は原則的に音楽業界で流通している表記を採りました。煩雑さを避けるためもあって、「ザ・~」も割愛しました。アーティスト名の直後にあるカッコ内には、生没年や活動期間などを示しました。全米もしくは全英チャートでの最高順位、その曲がヒットした年(レコーディングされた年と異なることがあります)も添えました。

曲の誕生には様々なエピソードが潜んでいるものです。それを細かく拾い上げてみました。また、歌詞の要旨もその都度まとめましたので、ご参考になさって下さい。