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大規模英文データ収集・管理術 第15回

2012年 1月 9日 月曜日 筆者: 富井 篤

5 「トミイ方式」の機能と目的

(3) 制作・発表ツールとしての機能

これは一言で言うと、本を書いたり、国内外の会議などで講演をしたり、さらには講座を開いた時にテキストや課題集などを作成したりするときのネタになるものです。
今まで述べてきた「(1) 活用ツールとしての機能」と「(2) 学習ツールとしての機能」が英語を書く時や英語を勉強する時に大事な、どちらかというと実用的な側面を持つ機能であったのに対し、これから述べるこの「(3) 制作・発表ツールとしての機能」は、一方では、ややアカデミックな側面もありますが、どちらかというと、もっと俗っぽい、「お金儲けのためのアウトプット機能」と言えます。

以下の3つに分けて述べていきます。

(a) 著作(辞書、ハンドブック、参考書)
(b) 研究発表、記事投稿、講演
(c) 講座テキスト、演習課題

(a) 著作(辞書、ハンドブック、参考書)

これは、収集され、分類・整理されている英文データを使って、辞書やCDも含めた著作をおこなう活動です。紛れもない経済活動です。これには、十分な量のデータが必要になります。100点や200点、1,000点や2,000点のデータでは無理です。それでもテーマを絞り、そのテーマに関してデータが1,000点か2,000点集まっていれば、ものによってはできないことはないかもしれません。よく、映画というのは、実際に編集された出来上がりの時間の10倍も20倍もの長さのフィルムを撮るといわれています。この場合も同じで、あるテーマについて、仮に2,000点のデータを集めてあったとしても、本を書く時に実際に使えるデータは1/10から1/20になってしまいます。そうなると、いかに多くのデータが必要になるかということがおのずと分かると思います。

こう言うと、折角、大事な機能のうちの1つとして紹介しても、皆さんをディスカレッジさせるようなことになりかねません。しかし、私の言いたいことはむしろ逆で、確かに少ないデータ量では本は書けませんが、その代わり、データを潤沢に収集していただきたいということと、その気になればたくさんの量のデータを集めるということは、決してたいしたことではないということの2つです。第5回(8月15日(月)公開)の記事をお読みいただけると、本を書くということは、その気になればいたって簡単であることがお分かりいただけると思います。

そうはいっても、そのように簡単でもない一面があります。それは出版社探しです。これには、出会いというか運の問題もあります。この問題は、「トミイ方式」とは直接の関係はありませんので、ここでは触れないことにします。

筆者の例でいいますと、もう、35年近く前の話になりますが、恵まれた運がいくつも重なり、今では、CDや翻訳ものも含め、数え方にもよりますが、昨年出版した3冊で36冊になりました。その中には、同じテーマの本を切り口を変えて出した本も何冊かあります。これらすべて、「トミイ方式」で収集し、分類・整理してある、今では350,000点以上に及ぶ英文データに基づいて書いた本ばかりです。

37年前に脱サラしこの業界に入った時は、物書きになるなどということは、夢にも考えていませんでした。皆さんも、日々の生活とは別に目標をここにおいて、ぜひ、「トミイ方式」をとことんつき進めていただいたいと思います。準備さえしておくと、遠い将来、チャンスが訪れるかもしれません。

(b) 研究発表、記事投稿、講演

「トミイ方式」に基づいた英文データは、この中では、国際会議の講演やプレゼンテーションのネタとして使った場合が圧倒的に多いです。

アメリカに、American Translators Association(全米翻訳者協会)というのがありますが、1985年マイアミで開かれてコンベンションに初めて参加してプレゼンテーションを行い、その後、2001年のロスアンゼルス コンベンションまで連続17回参加し、15回のコンベンションでプレゼンテーションをしてきました。その時のネタは、当然、「トミイ方式」の産物ばかりです。その他、国内外の大学でも講演もしてきましたが、もちろん、これも「トミイ方式」の産物ばかりです。その後、自分自身、翻訳の仕事を辞めてしまいましたので、今は、ATAのコンベンションにはほとんど参加していません。

皆さんの中には、講演などには興味をお持ちでない方もたくさんいるでしょうが、これは、講演に備えて英文データを集めようとするものではなく、英文データをたくさん集めておけば、もし、自分から求めていった機会であろうと、他から依頼され、止むなく訪れて来た機会であろうと、このような機会が到来した時、泥縄式に準備することなく、即座に対応できます。これも「トミイ方式」の大きなメリットです。

(c) 講座テキスト、演習課題

これは、翻訳学校や翻訳教室などのような教育機関をすでに開いている方、またはこれから開こうとされている方、さらには、このような教育機関ですでに講師などをしておられる方やこれから講師になろうとしておられる方々にとっては、非常に大事な機能です。一方で、このような道に興味も関心も全然ない方々にとっては、全く関係ない機能です。しかし、今はそうであっても、遠い将来のことを考えると、今から準備しておくことは決して無駄にはならないと思います。

筆者の場合を例にとると、37年前に脱サラしこの業界に入った時は、上に書いた「物書き」になるなんて考えもしなかったのと同様、翻訳の講師になろうなどということは、微塵も考えていませんでした。

最初は、ネイティブの発想に近い、格調の高い英語が書けるようになるために集め始めた英文データが、時が経つに従ってその量が増えていき、「ことによると、このデータを使うと、前置詞の参考書が書けるのではないか」というところから始まり、さらには、「これらのデータを体系化していくと、英語教育ができるのではないか」ということになり、気がついてみれば、集まった英文データを使って自前のテキストを作り、社会人対象の翻訳教室を開いており、そのテキストを使って、大手企業の社員教育をするようにもなり、さらには国内外の大学で講義をするようにもなってもいました。もちろん、テキストのみならず、課題集の作成も、これらの英文データによることはもちろんです。

上記3つの機能の他に

(4)  説得機能
(5)  道楽機能

があります。

「説得機能」とは、この「トミイ方式」を採り入れている何人かの方たちからの情報で、自分の英語に上司からクレームが来た時、いくら説明しても上司は納得してくれなかったが、翌日、自宅にある「トミイ方式」で収集したデータを会社に持っていき、それに基づいて説明すると上司が納得してくれることがよくあるとのことから、「説得機能」として加えています。

また、「道楽機能」とは、やはり、この「トミイ方式」を採り入れている何人かのお年寄りの方たちのお話ですが、「自分は、これが日課になってしまい、一日、必ず何枚かのデータを集めている。これがないと、その日は食事もおいしくなく、夜の寝つきも悪いとのことです。そのため、半分以上はジョークですが、機能のうちの1つとして加えさせているものです。

長い人生です、これから何が起こるかわかりません。「トミイ方式」を通していろいろな英文データを根気よく、継続して収集していくと、きっと素晴らしい将来が待っているはずです。

次回からは、いよいよ「トミイ方式」の真髄である、“「分類」の構成”に入っていきます。

【筆者プロフィール】

富井篤(とみい・あつし)
技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。

2012年 1月 9日