身体を使って漢字で遊ぶ

身体を使って漢字で遊ぶ(2)

筆者:
2012年1月11日

3 指導の全体計画

「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」は、5年生の3学級それぞれ3回ずつ実施されます。この事業は、正解のない課題に対して、グループでの話合いを行って解決を図ることを通して、互いの違いを認め、受け入れ合いながら合意を形成する能力、すなわち「コミュニケーション能力」を育成しようとするもので、芸術表現のワークショップを主たる活動とするものです。

【児童の創作漢字例2】
お題:マラソン】

第1回目は、身体を動かすことを主眼に置いた様々なシアターゲームと小グループによる身体表現を行う「導入」段階。第2回目は、シアターゲームを行った上で、漢字を題材とした小グループによる短いシーン創作を行う「展開」段階。第3回目は、シアターゲームを行った上で、小グループによる少し長いシーン創作を行う「展開」と「ふりかえり」段階。各回だけでなく、全3回を通して「導入→展開→ふりかえり」というワークショップの基本的な構造を踏まえ、小グループによる話し合いを重視し、相互鑑賞を伴う発表を盛り込んだ内容となっています。

第2回目の3学級については、時間割の関係から、2学級がワークショップを先に行ってから「漢字の成り立ち」の授業を受けることになり、1学級が「漢字の成り立ち」の授業を先に受けてからワークショップを行うということになりました。このことによって、漢字のワークショップと漢字の授業と、どちらを先に行った方が効果的であるかが見えてきました。

4 「漢字の成り立ち」の授業

授業は、4年生~6年生を縦割りにして、4~6年1組、4~6年2組、4~6年3組と同じ内容で3回実施しました。この授業においては、まず、漢字がいつ頃から使われているのかを含め、古い漢字の資料画像を示して紹介した上で、漢字の字数が大きな字典・辞典でどのくらいになっているのかを説明しました。導入として、漢字が非常に古くからあることと数が多いことを知ってもらうことを意図したものです。

次に、漢字が表語文字(意味と音とを表すlogogram)であることから、字数の多さを説明した上で、漢字がどのようにできたのかについて紹介しました。「象形」「指事」「会意」「形声」の四種を例とともに話した後、漢字の成り立ちを知っているとどんなメリットがあるかを考えてもらいました。クイズに強くなるなど記憶された知識という面からの回答が出てきました。

そこで、「瑠璃」と板書して、読み方を問いました。「瑠璃」は、平成22年11月の改定で常用漢字表に入った漢字で、学年別漢字配当表には含まれず、学習していません。しかし、「瑠」も「璃」も形声でできていることをヒントとして与え、音を表すのが「留」「离」であること、さらに「留守」「距離」などの目にしたことのありそうな熟語も挙げると、「瑠璃(るり)」という読み方に気付きます。

他の学習していない熟語を示して同様に行ってみます。その上で、大人であっても全ての漢字を知っているわけではないから、読み方が分からない漢字に出会ったときには「形声」の知識を使って読み方を推測しているという話をしてまとめます。漢字の読み方が推測できるようになるということは、子どもたちにとって大きな進歩となり、漢字に対する抵抗感を少し軽減することにもつながります。教科書では、学習した漢字の成り立ちがどれに当たるか考えさせることが多いようですが、これでは漢字の成り立ちの知識は使えるようにならないのではないでしょうか。

「形声」の知識の使い方を学んだ後、「会意」の知識を使う活動を盛り込みました。お題で示された言葉を表す漢字を創作するというものです(第1回第3回の当連載でも子どもたちが創作した漢字を1字ずつ紹介しています)。

3学年混合のグループに分かれて、それぞれに与えられたお題を表す漢字を創作します。お題で示された言葉の特徴を挙げていき、その特徴を表す漢字の部分を考えて組み合わせるという手順となります。学年混合としたのは、4年生の自由な発想と5年生の知識とを6年生がまとめるという大まかな役割分担を期待してのものでした。

この課題に正解はありません。しかし、文字である以上、その文字を見た人が何を表しているか分からなければ失敗作ということになります。ですから、グループワークに入る前に、難しくて誰も分からないものでは文字としての役割を果たしていないから、見た人がきちんと分かるものでなければいけないという条件を明示しています。

話合いが停滞気味なグループには、先生方にも加わっていただきつつ、できあがった漢字(グループから何字提出しても可)を順に掲示して、出そろったところで他のグループに当ててもらうという形で進行しました。知らない漢字の意味を推測する方法として大人も「会意」の知識を使っていることをまとめとして伝えました。ただし、45分の予定であったものが、50~55分かかってしまったのが反省点です。

この授業は、クイズ形式であることでの面白さだけでなく、漢字の部首や旁の意味についての知識を持っていた方がいいことを実感してもらう機会となりました。

筆者プロフィール

鈴木 仁也 ( すずき・まさなり)

文化庁文化部国語課国語調査官

文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。

国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。

主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

編集部から

価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。

その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。

今回は、漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきます。