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談話研究室にようこそ 第20回 『ドラゴンクエスト』の呪文

2012年 1月 19日 木曜日 筆者: 山口 治彦

第20回 『ドラゴンクエスト』の呪文

 辰年になったからという訳ではありませんが,『ドラゴンクエスト』の呪文についても考えてみましょう。『ハリポタ』のあとは『ドラクエ』です。

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 『ドラクエ』は,コンピュータゲームの人気シリーズです。1986年に第1作『ドラゴンクエスト』が発売されて以来25年あまり。今では日本だけでなく世界的にヒットしています。2009年に発表された『ドラゴンクエストⅨ:星空の守り人』は,累計出荷本数で530万本を突破しました。

 『ドラクエ』は,プレーヤが主人公となって冒険と戦いを繰り広げるロールプレーイングゲームです。たとえば,第1作目ですと,世界を絶望に陥れる竜王を倒すため,「選ばれし」勇者であるあなたは,竜王の手下と戦って経験値を上げ,隠されたアイテムを探し出す。そして,物語の最後に竜王と相見える。そういうゲームです。

 敵と戦うときには魔法が使えますが,その呪文が秀逸なのです。

 ただ,白状しますが,私は『ドラクエ』で遊んだことがありません。取り扱うデータに深く沈潜したことがないのは,談話研究者として恥ずかしいかぎりです。

 そこで,今回,この文章を書くにあたり,『ドラクエ』デビューを目論みました。やはり,フィールドワークはとっても大切ですから。

 ですが,性格からしてゲームにハマるのは目に見えています。仕事は結構忙しいですし,いい年をしたオヤジが何を今さら『ドラクエ』?と周囲は冷ややかな反応。で,この微妙なプレッシャーに負けてしまい,あえなくデビューを逃してしまいました。

 閑話休題。

 前置きが長くなりました。『ドラクエ』シリーズに出てくる呪文の観察からはじめましょう。第5作目あたりまでの呪文を中心に扱います。比較的初期の呪文のほうが,その体系と制約が見えやすいからです。コマで区切ったひとつひとつが呪文です。『ドラゴンクエスト25thアニバーサリー:冒険の歴史書』からおもなものを抜粋します。

(26) a. 攻撃呪文: メラ,メラミ,メラゾーマ,ギラ,
ベギラマ,べギラゴン,ヒャド,ヒャダルコ,
ヒャダイン,マヒャド,ライデイン,ミナデイン,
ギガデイン,ドラゴラム
b. 回復呪文: ホイミ,ベホイミ,ベホマ,ベホマラー,
ベホマズン,キアリー
c. 補助呪文: ラリホー,ラリホーマ,マホキテ,マホカンタ,
メダパニ

 呪文の意味は適宜説明することにして,まずは,(26)に挙げた呪文を『ハリー・ポッター』の呪文と比べてみましょう。

(27) Petrificus Totalus(ペトリフィカス・トータラス), Expelliarmus(イクスペリアーマス), Expecto Patronum(イクスペクトー・パトローナム), Wingardium Leviosa(ウィンガーディアム・レヴィオーサ), Obliviate(オブリヴィエイト), Reparo(レパーロ), Finite Incantatem(フィニーテ・インカンテイタム), Alohomora(アローハモーラ), Lumos(ルーモス)

 『ドラクエ』の呪文が,『ハリポタ』のそれと共通する部分は,①真性型呪文である,②ことば遊びがある,ところです。そして,異なるのは,③短い,④オノマトペの語感を利用している,⑤類似する呪文に階層性がある,という点です。

 この特徴はどのような動機に支えられているのでしょうか? この連載の第1回で考えたことですが,モグラの形態的特徴がその生息環境に適合していたように,『ドラクエ』の呪文はコンピュータゲームというジャンルに見合ったものではないでしょうか。次回以降で考えてみましょう。

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【筆者プロフィール】

『明晰な引用,しなやかな引用』(くろしお出版) 『語りのレトリック』(海鳴社)山口治彦(やまぐち・はるひこ)

神戸市外国語大学英米学科教授。
専門は英語学および言語学(談話分析・語用論・文体論)。発話の状況がことばの形式や情報提示の方法に与える影響に関心があり,テクスト分析や引用・話法の研究を中心課題としている。
著書に『語りのレトリック』(海鳴社,1998)『明晰な引用,しなやかな引用』(くろしお出版,2009)などがある。

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【編集部から】

雑誌・新聞・テレビや映画、ゲームにアニメ・小説……等々、身近なメディアのテクストを題材に、そのテクストがなぜそのような特徴を有するか分析かつ考察。
「ファッション誌だからこういう表現をするんだ」「呪文だからこんなことになっているんだ」と漠然と納得する前に、なぜ「ファッション誌だから」「呪文だから」なのかに迫ってみる。
そこにきっと何かが見えてくる。

2012年 1月 19日