身体を使って漢字で遊ぶ

身体を使って漢字で遊ぶ(3)

筆者:
2012年2月1日

5 漢字を題材とした演劇ワークショップ

第2回目の演劇ワークショップは、「漢字の成り立ち」の授業が行われることから、漢字を題材とすることになりました。二日間にわたり、1学級ごとに2校時分(90分)を使ってのワークショップです。

挨拶のあと、ウォーミングアップとしてのシアターゲームを行い、休憩を挟んで漢字を題材としたシーン創作による身体表現と展開します。ウォーミングアップでは、「拍手回し」「〈私―あなた〉ゲーム」「ろばゲーム」など相手を意識して届けることと意識して受け取ることに重点を置いたゲームを組み合わせ、相互の関係性の基礎を培いました。

その基礎の上に立って、漢字を題材としたシーン創作による身体表現をグループで行う本題に移ります。各グループに、部首を書いたカード(木、水、火、手、人、口)を渡します。その部首を構成成分として持つ漢字をグループ内で挙げて、そのうちの1字を表現するシーン(台詞は無し)を創作します(当然、何か正解のある課題ではありません)。カードの部首と創作したシーンを発表し、他のグループが漢字を当てるというものです。ある学級で、実際に子どもたちが相談して決めた漢字は、「秋」「鳴」「村」「休」「持」「浅」でした。グループでの話合いにおける意見のすり合わせが、コミュニケーション教育の求める能力の育成に結び付く部分です。

【児童の創作漢字例3】
【お題:ドーナツ】
お題:ドーナツ】

ワークショップの様子を見ると、習っていないものも含め、たくさんの漢字が挙げられ、活発な議論と積極的な協力の様子が見て取れました。子どもたちは、楽しい中にも、身体表現されている漢字が予想外のものであったことに驚いたり、どのように身体で表現するかで悩んだりしながらも、意欲的にかつ主体的に学んでいることが確認できました。

また、3学級のうち、2学級は、漢字を題材とした演劇ワークショップを先に受けてから漢字の成り立ちの授業を受けました(以下、この2学級を「WS先行型」と呼びます)。1学級は、漢字の成り立ちの授業を受けてから漢字を題材とした演劇ワークショップを受けました(以下、この1学級を「授業先行型」と呼びます)。

漢字の成り立ちの授業に関しては、3学年の縦割りで実施するというふだん経験しない形態であったこともあり、3学級ともに緊張感を伴ったかたさがありました。グループでの話合いの段階では、WS先行型の方が、4年生や6年生の発言の受け止め方は少し上手であった印象はありますが、大きな差があったとまでは言えませんでした。

漢字を題材とした演劇ワークショップに関しては、与えられた部首からシーンを創作するときに考える漢字の候補の出方に差が見られました。授業先行型の方が明らかに多くの漢字が提案され、話合いも活性化していました。

これは、漢字について、全体として漠と捉えるのでなく、部首と旁など部分部分で捉える意識が、漢字の成り立ちの授業を通して養われたことが影響してものと考えられます。

6 児童の変容

「漢字の成り立ち」の授業を通して、部首や旁の意味を知っていることの必要性を感じた子どもたちは、漢和辞典に手を伸ばすようになりました。気になる漢字に出合うと漢和辞典を引き、その漢字だけを調べるのでなく、部首や旁、漢字の成り立ちについてもしっかりと目を通すようになったそうです。さらに、漢字の創作と創作した漢字の意味が伝わったときのうれしさから、全校集会の場で、創作漢字クイズが定番化することにもなりました。また、筆者に送られてきた授業の感想の中には、家族に対して創作漢字クイズをやっていると書いているものや、こんな漢字を創作してみましたと自作を紹介しているものも見受けられ、漢字を楽しんで学んでいる様子がうかがえるようになりました。

漢字を題材とした演劇ワークショップを含む身体表現活動を学んだ5年生は、全体集会の場で、自分たちで創作した短い芝居を上演することに喜びを感じるようになり、少人数グループだけでなく、学級規模での話合いを通しての作品作りも行えるようになったそうです。

こうした児童の変容を聞くと、漢和辞典を引くようになること、漢字の成り立ちの知識を活用できる形にすること、漢字をコミュニケーション教育と関連付けて扱うことという当初課題としていた3点が、克服できる道筋の見える実践であったと総括することができると考えています。

なお、平成24年度「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」の募集については、文部科学省HPで御確認ください。平成24年度の応募要領や申請書類のダウンロードは、こちらから。

筆者プロフィール

鈴木 仁也 ( すずき・まさなり)

文化庁文化部国語課国語調査官

文部科学省初等中等教育局コミュニケーション教育推進会議オブザーバー
1964年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程中退。東京学芸大学附属高等学校教諭(国語科、演劇部顧問)を経て現職。

国語調査官として、文化審議会国語分科会の審議に関わるほか、「「言葉」について考える体験事業」、「国語に関する世論調査」など国語施策普及のための様々な取り組みに関わる。2010年からは、教育現場とワークショップ講師を含めた創作活動、さらには行政という三方面からの知見を持つことから、文部科学省コミュニケーション教育推進会議立ち上げと同時にオブザーバーとして会議に加わる。

主な著述に、『まんがで学ぶ敬語』(国土社2010)、『用字用語新表記辞典』(第一法規2011・編集協力)のほか、教員時代に携わった高等学校教科書(三省堂)や、国語教育、情報教育、古典教育等について多数のものがある。

編集部から

価値観が多様化し、また、急速に社会が変化していくなかで、どのような相手とも、どのような状況でも、協働して問題解決をはかっていけるような力が求められています。これに対し、教育現場では多様な取り組みが始まっています。

その実践を、多くの現場をご覧になり、自らもワークショップを行う鈴木仁也さんにご執筆いただくコラムです。

今回は、漢字辞典の使用につながる演劇ワークショップの授業のもようを3回に分けてご紹介いただきます。