大規模英文データ収集・管理術

第19回 「分類」の構成・4

筆者:
2012年3月5日

前回と同じ要領で、残ったもののうち、際立ったものだけを取り上げていきたいと思います。

いかなる時点でも at any point whatsoever It is not possible, however, to change the electrical parameters used for forming pulses, at any point whatsoever.

「いかなる時点でも」という言葉として、この(2) 50音順の中に入れておけば、その後この種の表現が出てきても、すべて(1) アルファベット順の中の whatsoever の場所に入れておくだけで十分です。それは、それ以降、「いかなる時点でも」という言葉を収集しようとするよりは、whatsoever という単語が、他の単語と結びついてどのような表現を創り出すかに注目するほうが、意義が大きいからです。

以降 from … on and from this point on
from … onward from the 14th century onward
or later only available in AppleWorks version 2.0 or later
and forward … is positive at station 0 and forward
and afterward in the 1880’s and afterward
after after the second and later copies

上に列挙した表現は、筆者が、昔、英和翻訳している際に出合った「以降」と訳せるであろうと思われた表現を集めたものです。もちろん、ほとんどのものが辞書には出ていると思われる表現ですが、何かの役に立つと思って収集してきたものです。すべての表現が interchangeable であるというものではありませんが、このように例文として収集しておくと、和英辞書の中に収録されている情報では不十分な時に役立つはずです。なお、上の例文の部分が、紙面の関係上、句になっていますが、収集してあるものはすべて文単位になっていることはもちろんです。

いっぱい very … is located at the very edges of …
fully Rotate … fully clockwise
all the way until the cursor moves all the way to the left
all the way down Press … all the way down.

普通、「いっぱいに」というとすぐに思い浮かぶのが fully ですが、それ以外にも「いっぱいに」と訳せる表現があることを知り、集めたものです。

上から

from above

Pressure is applied from above by …

これは、from と above という2つの前置詞が重なったもので二重前置詞といいます。一度知ってしまえば、その後、問題なく英和翻訳の際に訳すことも、和文英訳の際に使用することもできますが、これを知るまでは、前置詞が2つ重なることへの逡巡があり、なかなか踏み込めなかったことを覚えています。しかし、これほど和英翻訳をやりやすくしてくれる表現はありません。

「下から」でしたら from under [below], 「中から」でしたら from within, 「間から」でしたら from among, from between, 「まわりから」でしたら from around などとすればよいことになります。

和英翻訳にすぐ使えるように、発見したその時は(2) 50音順の中に入れましたが、それ以降は、前回の最後に紹介した「あわせて」という意味に使われる前置詞 to と同じように、「大分類」が(4) 品詞別、「中分類」が「前置詞」、「小分類」が「複数語前置詞」、「細分類」が「二重前置詞」の中に入れています。このような場所(私は、この「場所」のことを「お座敷」と呼んでいます)を作っておくと、後から後から、新しい二重前置詞が集まってきます。

有無 the presence or absence … is strongly influenced by the presence or absence of …

意外なことに、この表現を載せている英和辞書は少ないのです。しかし、筆者の過去の経験では、多くの場合にこの表現を使っていました。そのため、それ以来、筆者は「有無」というとこの表現を使用するようにしています。

あまり使用頻度は多くはありませんが、

the existence or otherwise

the presence/absence

absence or presence

なども、筆者のコレクションの中にはあります。

おそれ possibility If there is a possibility of the pipes freezing up

risk

the risk of a cold shock
there is a risk of a draft being set up
danger … can reduce dangers of …
this introduces the danger of losing …
if there is a danger of the pipes freezing,
fear there is no fear of the information from disappearing
in the fear of possible jamming

「おそれ」と訳せる例をいくつか羅列しましたが、これらの例文については、最初に出合った例文は、すべて(2) 50音順の中に取り入れ、その後は例文に出合うたびに(1) アルファベット順の中の possibility, risk, danger, fear などの場所に収納しておくと便利です。その理由は、和英翻訳の際には、まずは既存の和英辞書をあたり、その中に気に入った英語の表現がなかった場合には、この (2) 50音順 を見るわけですので、まず、「(2) 50音順の中にこのような『おそれ』の表現がありますよ」と訴え、ついで、「同じ英単語を使った別の例文ももっと見たい場合には、(1) アルファベット順の中の見てください」というように、(2) 50音順(1) アルファベット順との間のリンク機能をも果たしているからです。さらには、(1) アルファベット順の中の possibility, risk, danger, fear などの、「おそれ」とは別の意味や、訳語や、用法なども知ることができるという、別の意味もあります。

お目見えする come into being a billion-dollar regional rail-road system came into being in the San Francisco Bay area

何も「お目見え」などともったいぶった訳を付ける必要もないのですが、当時、翻訳していて、「きっと、この日本語がぴったりだろうな」ということで「おめみえ」という場所に収納してあった例文です。

dieselize, reinitialize, vectorization

日本語には、「~化」という言葉が非常に頻繁に使われます。英語では、それらのほとんどは後ろに ize を付けて ___ize とすると動詞になり、また、ほとんどの言葉は辞書にもそのまま掲載されていますが、中には辞書にも載っていない、造語としかとれないような単語もあります。そのような言葉は、出合った時には必ずカードにとるようにしておくと、和文英訳の時に、意外と役に立つことがあります。ここでは、辞書には載っていないような言葉をいくつか挙げてみました。

しかし、たとえ英和辞書には載っていても、英和翻訳の際には役に立ちますが、それに該当する日本語が和英辞書に掲載されていなければ和英翻訳の際には役に立ちません。そのため、「化」として個々に収納しておくことも大事ですが、該当する日本語を(2) 50音順の中の該当する場所に入れておくと、和英翻訳の際には、さらに役に立ちます。例えば、containerize の場合、英和辞書には「コンテナーに詰め込む」とか「コンテナー輸送する」などとして載っていますが、和英辞書には、そのような言葉としては載っていません。ですから、「自動車をコンテナーで輸送する」を英訳する場合、すぐには to container cars とは出てこないと思います。おそらく、to ship cars in a container などと書いてしまうと思います。

このように、英和辞書には載っていても和英翻訳の際にはすぐには出てこないと思われる英語をいくつか挙げておきます。

industrialize, miniaturize, neutralize, parenthesize, prioritize

当然、これらの言葉は、industrialization, miniaturization, neutralization, parenthesization, prioritization などのように、名詞形で使われることも非常に多くあります。

(2) 50音順で収集したすべてのデータを示すことはできませんでしたが、どのような考えで、どのようなデータを収集し、どのように収納すればよいかということのご参考にはなったと思います。

次回からは、第20回から第23回までの4回にわたり、(3) 表現別を取り上げます。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。